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 奇妙で不可思議な。
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両膝に感じる熱を含んだ痛みと、腓(こむら)に伝わる疲労感。
額から鼻にかけてまでが不自然に温かいのは、焚火の前で胡坐のまま寝てしまったからだろう。

指先と爪先の冷たさに不快感を抱きながら、私は重い瞼を上げる。
朝日は昇り、木の枝に掛かった雪が暖気にゆっくりと絆され、鈍重な音を響かせた。

鉱夫達はまだ寝ている。
そして、ベリー・ベリーも何事もなく小さな寝息を立てていた。

朝食をとって、早く出発しよう。
私は痛む両足の筋を伸ばし強く張らせて戻すと、勢いをつけて立ち上がった。


まずは腹ごしらえ
乾燥させた肉や野菜を、沸騰した鍋の湯に入れて煮込む。
しばらくすると匂いに釣られたか、鍋の金属音が障ったのか、ベリー・ベリーがもそもそと起きて来た。
獣が抜き足をするかのようにゆったりと、悠長な動きで。
 「くぁっ……おはようございます~」
大きな欠伸と共に、焚火を挟んで正面に置かれた切り株に腰掛けた。
 『おはよう。今朝食を用意するよ』
私は鍋の様子を見ながら、言葉を返した。


昨日は彼女が疲労困憊であったため、仕方なくここで一夜を過ごしたが……
正直に言うと私はこういった場で少女を寝かせることに、あまり気乗りはしていなかった。

寝食の一角を借りておきながら失礼な考えかも知れないが、お互いの素性が解らない以上は腹に何を抱えているのか測りかねる。
何かが盗まれるかもしれない、婦女子が暴行を受けるかもしれない、という警戒をせねばならなかった。

そして、それは鉱夫達の心理にも当て嵌まるだろう。
我々は外界より現れた異なるもの。
この二人は冒険者を装った野盗崩れかもしれない、強盗犯かも知れない、殺人犯かもしれない……
という猜疑心。
衛兵がいるから大丈夫などと気楽に考えられる者は稀だろう。

何故私自身もこうまで懐疑的なのかと言うと……―――
昨夜の挨拶の折に感じた鉱夫達の感触が、とても快いものでなかったからだ。

 『お待たせ。さあ、出来たよ』
頭の中で思考を巡らせている内に、スープは程良い状態に仕上がっていた。

スープを啜って
 「ん~、美味しい~」
スープを口に運んで、口元が綻んでいる。
昨晩は食事も摂らずに寝てしまったのだから、さぞや美味に感じるだろう。
 『パンもあるから、しっかり食べて体力をつけるんだよ』
 「はーい」
一口運ぶごとに「んん~~っ」と悶えるかのように反応しながら食事を摂るベリー・ベリーの姿は、本当に幼い子供だ。
そのあどけなく平和な様子は、疑心にささくれ立った私の心を落ち着かせるのに充分すぎるほどのものだった……。


――――――

朝食を摂り終えた私達はソルリと鉱夫達に礼を言い、ストーンヒルズより出でた。

モーサルへ
 『さて、ここまで来ればモーサルはすぐ其処だよ』
地図を確認し、経路を練る。
 『街道沿いに進めば、昼前には難なくモーサルに辿り着けるね。焦らず行こうか』
 「はーい!」
満腹になったお陰か、先ほどよりも血色の良くなったベリー・ベリーは元気な返事で答えた。

古代ノルドの遺跡を横切り
爽やかな青空と眩しい太陽の光。
天候にも恵まれ、私達の旅は神から祝福を受けているかのようだった。
歩幅を調節して歩くのにも慣れたが、それでも時折距離が出てしまう。
申し訳無いと思うが、ベリー・ベリーも私の歩幅に慣れた様で、合間に小走りしたりして調節しているようだった。

そしてしばらく歩いた所で―――私は歩を止める。

静かなる強獣
 「どーしたんですかぁ?」
ベリー・ベリーは足を止めた私の顔を見つめる。
 『正面にヘラジカがいる。しかも番(つが)いだ』
私の声音と視線が変わったのを感じたのか、彼女は一瞬身を引いて慄いた。

正面に居るヘラジカの雄の全長は私よりも大きい。
シカと言う動物は狩人に、肉食動物に狩られる弱者と思われるが、性質は意外にも凶暴なのだ。
特に、雌や子供と共に居るときのヘラジカは血気盛んで危険極まりない存在。
避けて通りたい所だが、そうさせてくれるだろうか。

雄のヘラジカがこちらをじっと見つめ、角を誇示し始めた。
――下がれ、痛い目にあうぞ。――
では無い。
――いいぞ、かかってこい。――
そういう気概でヘラジカが自身を鼓舞している。

……私はクロスボウを、静かに構えた。

 「だいじょうぶですよぉ、おじさん」
私のクロスボウに手を添え、下ろすように促す。
 「おじさんが怖いだけみたいですからぁ」
屈託の無い笑顔を向け、それからヘラジカの前へと歩み出る。

  あぶない!!
と、大声を発せんばかりの時―――

奇妙な
 「ごめんなさい、ちょっと道を通りたいだけなんでぇ」

なんと……。
彼女が声を掛けると、ヘラジカの闘志の炎はみるみるうちに弱まり、消えていったではないか。
魔法で戦意を削いだわけでもなく、意思を支配し操っているわけでもなく。
あたかも人間と接するのと変わりない態度で。

 「おじさん、納得してくれたみたいですよぉ~」

……私は恐る恐る、ヘラジカへと近づいてゆく。
矛を収めるとは正しく
黒真珠のように輝く瞳が、私の怖気の交えた瞳と合う。
 『……大丈夫、だね』
 「はぁい。おじさんが狩人じゃないって解ってくれたみたいですよー」
私は現在の状況が理解できずに、
 『そ、そうかい。そ、それは、良かった』
と、ただ返すのが精一杯だった。

奇妙で
 「さよーならぁ~」
ヘラジカを見送るかのように手を振るベリー・ベリーを、ただじっと見つめる。
 「さっ、いきましょー」
先へと促す言葉に、
 『あ、ああ。うん』
と、間抜けな返答しか出来なかった。


……ヘラジカとの別れからしばらくして。

街道の外れに、雪に紛れるかのようにして身を潜める一頭のサーベルキャットが目に入った。

モーサルの町も近くだと言うのに、こんな場所に居ると言う事は、街道を通り掛かった人間やそれを乗せた馬を襲うつもりなのだろうか。
それともただ偶然に人里近くまで足を伸ばしてしまったのだろうか。
周囲に草むらも無く、木々も生い茂っている訳ではない。
こんなに見晴らしの良い場所をねぐらにするというのも考え難い。
ともすれば、やはり獲物を求めて……か。

 「ちょっと陽があつくて休んでるみたいですよぉ」

思考を逡巡させるのも束の間、隣の少女は私の仮定した状況やら何やらの全て粉砕してくれた。
先ほどのヘラジカの時と同様に、ベリー・ベリーは警戒心の欠片もない足取りでサーベルキャットへと歩み寄る。

奇妙よな
 「あはは、私たちはあったかくてもサーベルキャットさんには暑いんですねぇ」
そう言われてみれば、木陰で横になっているサーベルキャットは、どこか疲れている様子にも感じる。
倦怠感を匂わせる佇まいだ。
 『寒冷地の動物は毛皮が厚いからね。仕方が無い』
 「かんれーち?」
不可思議な
森色のサーベルキャットの瞳と、純真な灰色の瞳が私に注がれる。
 『……寒いところに住んでいる動物は毛がたくさんだからね』
 「ああー、そうですよねぇ」
私も言葉を理解し、あはは、とまた笑顔を浮かべる。

 『しかし、町の近くで休んでいると危ないだろう。頑張ってもう少し遠くで休んでもらえないかな?』
そのほうがお互いの為だ、と付け加えて説明すると、
 「あー、確かにそうですねぇ~……」
とベリー・ベリーも合点がいったようであった。
頷きながらサーベルキャットに向き合い、

 「もう少し遠くで休まないとダメですよぉ。人間に捕まったらカーペットにされちゃいますよ~?」

と、なんとも無慈悲で解りやすく残酷な事を伝えるのだろうと、流石に唖然とした。
サーベルキャットは一瞬身震いをし、即座にその場を後にした。

 『……君は、動物と会話……お話が、出来るのかい?』
私が小声で呟くように言うと、ベリー・ベリーはにっこりと微笑んだ。
 「はいー。でも、おはなしと言うよりはー……う~ん、何て言うんでしょう??」
的確な表現を求めて、首を傾げて考え込む。

 「なんとなく、解りあえる、みたいな感じなんですよぉ」

なんと奇妙で不可思議。

彼女……ベリー・ベリーは、動物と意思の疎通が出来るのだ。
それを行う事に魔法を一切用いずに。

……。

私が彼女に対して抱いていた疑問の内の一つの答えが出た。

――何処から来たかも解らない、適当に歩いてきた。――
――氷で足を取られる。――

これらを加味すると、ベリー・ベリーは雪の降らない、もしくは偶にしか降らない場所で生きてきたのは想像できる。
ともすれば、彼女は結構な距離を歩いてきたのだろう。

では何故今まで一人で旅をしていて、何事も無かったのか?
それは、熊に、ヘラジカ、サーベルキャットなどの動物達が、道中で彼女を守ってくれていたのではないか?


 「おじさん、どうしましたぁ?」

想像と推測、洞察の渦に飲まれ熟考していた私を、呼び戻す声。

 『いや、何でも無いよ。それじゃあ、行こうか』
 「はーい」


――――――――

サーベルキャットとの不可思議な邂逅から僅かに歩き――

到着

私達の目に飛び込んできたのは、小さいながらも栄えたであろう―――


悩みを抱えしモ-サル

湿地帯に附する、ハイヤルマーチのモーサル。



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