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 尋ね人を追って予期せぬ再会。
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モーサルは湿地帯に設けられた町だけあって、その空気はどこか湿っている。
更には寒冷地にも接しているため、その気候はお世辞にも過ごしやすいとは言えない。

寒気と湿気が混じった空気というものは、皮膚から浸透して骨の髄まで冷やしこむ。
霧が発生してしまった時は、如何なる熟練の冒険家であっても足を止め、機を待つと言う。
不用意に足を進めてしまったら、毒キノコに気付かずその胞子を吸ってしまったり、背の低い草むらの中のフロストバイト・スパイダーのねぐらに入ってしまったり、はたまた浅瀬と思った水場が思いのほか深くて足を取られたりなどに見舞われ、良い事は何一つ無い。

更には、霧によって『見えぬ』ことと、『寒い』と言うことが相乗し、その結果心に焦りを生む。
そして気付かぬ内に冷静な判断に欠いてしまい、上記で述べたような事態に陥る。

こんな危険な場所へわざわざ足を踏み入れるのは、毒キノコを求めた錬金術師や、酔狂なウィザードぐらいだ。
ハイヤルマーチの湿地帯に『橋が掛からない』というのはそういう事なのだろう。

門を潜り
刹那的に溢れた己の思考を遊ばせながら、私達はモーサルへの門を潜った。
太陽が長く照り、頂点にまで昇りきった時間でだいぶ暖かいのだが、頬を撫でる風はやはり冷たい。
そんな冷気を消し飛ばすかのように、

 「いい加減、彼を疑うのをやめろ!」

熱の籠もった声が、反響した。

熱き声

 「彼は湿地帯に潜むような連中とは違う! それが何故わからない!?」

空気を振動させるかのような大きな声。
そんな彼の様子を眺める周囲の者達は半ば呆れた様子だ。
 「私は母とは違う。現実的に物事を見て判断しているだけだ」
激情の籠もった声とは対照的に、相手は極めて冷静な物言いで返す。
首長が住んでいる大きな建物、その扉の入り口に立った男は冷ややかな視線を彼に送っている。
 「これ以上は時間の無駄だ。ただでさえ問題の多い今、お前の相手をしている暇はない」
そう言い放つと、男は木で鼻を括るかの如く背を向け、建物の中に入ってしまった。
取り付く島も無い様子に悔しいのか、彼は肩を震わせている。

 「やれやれ、お前さんも懲りない男だねえ」
 「まあせいぜい頑張れよ」

野次馬根性の色に満ちた幾多の視線と言葉が、突き刺さるかのようだ。
握られた拳が、彼の激高する精神を抑えている様を物語っている。

小さな抵抗
私の隣を通り掛かったモーサルの衛兵が、
 「またあの男か。いいか旅人よ、あいつとは関わるな。厄介事に巻き込まれたくなければな」
と、蔑みの吐息を混ぜて言い放つ。
あの男と呼ばれた彼は、首長の屋敷の前に座り込んでいた。
無言の抗議なのか、ささやかな抵抗なのか……『また』と形容された以上は、恒例なのだろう。
野次馬達が去って行った後も、彼はそこに座り続けていた。
 「はあ。なんだか変わった人がいるみたいですねぇ」
歩を進めながら隣のベリー・ベリーは彼を見据え、ぽつりと零す。
だが私はそうは思わなかった。
あれが『彼』なのだと言うのを知っていたからだ。

 『ショウエイ』

思わぬ再会
擡げた頭が弾かれたかのように上がる。
私の声に反応した彼は、勢い良く立ち上がると、
 「おお!」
と、子供のように眩しい笑顔で答えてくれた。
かつて『ホワイトラン』の酒場、『酔いどれハンツマン』にて出会った男。
あの時と同様の、気さくな笑顔だった。
 『やあ』
年来の友との再会のように、少ない言葉での挨拶が心地良かった。

 「友よ、まさかこんな所で再会するとは思わなかった。嬉しいよ」

先程までの激高している姿がまるで嘘のようだ。
良い意味で、感情の起伏が激しいのだろう。
 『私も同感だよ』
思わず口元が綻ぶ。
 「あ、あのー、おじさん? もしかして、このヒトとお友達なんですか?」
逡巡
ベリー・ベリーが不可解な面持ちのまま、私に訊ねる。
 『ああ、そうだよ。とても素敵な友達さ』
私の言葉に反応して、ショウエイは照れ臭そうに頭を掻く。
 「ははは、そう言ってもらえて光栄だ。……しかし、恥ずかしい所を見られてしまったみたいだな」
彼は私達にほろ苦い笑みを見せる。
先程の抗議についてのことを指しているのだろう。

 「すまないが、ちょっと場所を変えないか? ここじゃあ人目につく」

ショウエイの言葉の通り、私達三人は衛兵や町の住民から懐疑の視線が集中していた。
『厄介事』と称されたショウエイと、町を訪れてすぐの旅人達が親しげに話をしていては、あらぬ誤解も招くだろう。
私は彼の言葉に頷き、促されるままに足を進めた。


―――――

私とベリー・ベリーはモーサルの宿屋、『ムーアサイド』へと案内される。
『ウィンドヘルム』と『ソリチュード』の中間に位置するモーサル……かつてはホールド間を行き来する商人や旅人達で賑わったであろう。
だがそれも過去の隆盛、今となっては閑散としている。

 「おかえり、ショウエイ。……あら、後ろの人達は?」
朗らかな
活発さを感じさせるような声と、滑らかな口調で語りかける一人の女性。
 「ああ、俺の友達さ。冒険者なんだが、偶然にもさっき表で再会したんだ」
ショウエイの言葉に「まあ、そうだったの」と返す。
二人の言葉を交わす姿を一目見ただけで、理解。
お辞儀をしながらも、私は思わず口元が緩んでいた。

紹介
 「彼女はナナコ。えっと、その……彼女とは、将来を約束し合っている」
 「初めまして、ナナコです。よろしくね」
ショウエイの言葉に喜びの声音を交えての、挨拶。
そんな彼女……ナナコの様子に、照れ臭そうに頭を掻くショウエイ。
ベリー・ベリーは『将来を約束し合う』と言う意味がよく解らなかったようだが、二人の纏う仲睦まじい空気を感じ取ってか、間柄に付いては察したようだった。
 「はじめましてぇ、私はベリー。ベリー・ベリーって言いますよぉ」
ゆっくりとお辞儀をする少女の姿に、二人もつられて「こちらこそ」と、頭を下げた。

 「ジョナ! すまんが何か飲み物と食べ物を!」

ショウエイは宿屋の女将にそう声を掛けると、私を椅子に座るように促した。

  ―――


 『母君が病で……。そうだったのかい』

言葉を交わす
 「ああ。もう長くないとは言われていたんだがね……だがあんなに急だとは俺も予想してなかったよ」

どうやらショウエイは、ホワイトランで病に臥していた母を看病していたらしい。
そしてその母は、私がショウエイと別れてからすぐに容態が急変し、そのまま天に召されたとの事。
 「母が病に倒れたから俺もホワイトランで暮らしていたが、亡くなった以上はここに居る事も無いと思ってね」
ショウエイは一拍置いて、クイッとワインを一口。
 「母が亡くなった悲しみと、冒険の旅への高揚が混じっていた俺の心は、奇妙だった。自由になったと喜ぶ反面、母と過ごした日々への後悔……。冒険の旅は楽しいのに、楽しくなかった」
視線を宙に泳がせ、彼の目は虚空を見つめる。

……かつてホワイトランで共に過ごした時にも感じたことだが、彼はとても感傷的で繊細だ。
幼い子供と同じで感情の起伏が激しく、そして感情の操縦がとても苦手なのだろう。

 「胸が空っぽみたいな日々が続いてた。そんな時モーサルで、ナナコに出会ったんだ」

女性は女性同士
 「ナナコはよそ者である俺にも優しかった。ふとした事から、俺は彼女に自分の事を話したんだ」
ショウエイの移った視線の先には、ナナコとベリー・ベリー。
女性同士で話に花も咲こう、と思ったが……
どちらかと言うと小さい子供の面倒を見る母親……いや、姉といった方が正しい姿。

 「弱い男……なんて言わずに、ナナコは俺に共感してくれた。そして来る日も来る日も俺を励ましてくれたんだ」
私はスパイスの効いたワインに口を付けながら、ショウエイに耳を傾ける。
 「俺は優しい彼女にあっという間に惚れちまった。ベタ惚れさ」
ワインに口付けた私の前に、話を続けながらもチーズを差し出してくれるショウエイ。
 「いつの間にかモーサルに留まっていた俺は、彼女に思いの丈を打ち明けた……出会って僅かな期間だというのにバカな真似を、なんて自分でも解っていた。だが、ナナコは快い返事をくれたんだ」
うっすらと頬を染める、ショウエイ。
私は胸が暖かくなる。
 『あなたの人柄ゆえだよ』
モーサルの寒き風も、彼と共にあれば耐えられる。
彼……―― ショウエイには、そう思わせるような熱さがあった。
それは魅力と表すには言葉が足らず、的確には『徳』と言うのだろう。
 「よしてくれよ。こそばゆいじゃないか」
照れ臭さをごまかす様に、肘で小突かれた。

 「ところで、友よ。モーサルに来たのは旅の寄り道かい?」

男性は男性同士で
女将が運んできたホーカーのローフを齧り、私の方へと向き直る。
 『私と一緒に居た少女、ベリー・ベリーのことなのだが……』
ふむ、と頷くショウエイ。
 『ふとした縁から、あの娘の尋ね人を探す事になってね。その事で、モーサルのファリオンという人物に用があるんだよ』

一瞬だが、ショウエイは眉を曇らせた。
だがすぐにまたいつもの表情に戻ると、
 「ファリオンか。彼はあらぬ疑いを掛けられ、この町では腫れ物扱いを受けている」
その手の内にあるジョッキに、力が込められるのが解る。
 「ファリオンはこの宿の女将、ジョナの弟だ。両親と死別した少女、アグニを引き取って暮らしているんだが……」
ショウエイは歯を食いしばり、
 「彼がウィザードと言うだけでこの町の人間達は白い目で見る! そして何か事が起きればすぐに彼に疑いを持つ!」
と、怒りを露にした。

 「確かにファリオンは死霊術士という世間からは芳しくない立場にいるかもしれない。だが彼が墓を掘り起こす姿を誰か見たか? 彼が、この町で問題を起こした事はあるか? 子供達を見る時の優しい瞳を知っているか? 答えはノーだ! 全ては偏見から来る噂だ! その噂を真実のように吹聴するだなんてバカげてる!! 首長は時が来れば受け入れられると言うが、それは何時だ!? 何日後、何ヵ月後、何年後、何十年後か!? 彼が死んでからでは遅いんだぞ!?」

語尾を荒げながら一気に捲くし立て、言葉を終えると同時にドン、とテーブルに拳を振り下ろす。
ナナコ、ベリー・ベリー、そして女将のジョナの三人の視線が集中した。

 ―――熱い男だ。

よもや他人のためにここまで熱くなれる男はそう居ないだろう。
人によってはショウエイの性格を煩わしく感じるかもしれないが、私は『こういう男こそ、この時代に必要なのだ』と思う。

 「す、すまない。思わず怒りがこみ上げてしまって」
我に返ったのか、私に頭を下げるショウエイ。
 『いや、構わないよ。やはりあなたは素敵な男だ』
偽りの無い胸中を述べると、またしても照れ臭そうに彼は笑った。
 「や、やめてくれ。恥ずかしくて、いたたまれない」
 「ゴホンッ」
咳払いが、一つ。
ナナコからだった。
熱くなったショウエイへの気付けなのか、それとも私達のやり取りにむず痒くなったのかは解らないが、少なくとも空気を変えろと言う意味合いであった。

 「そ、そうだ。ファリオンに用があるというのなら俺が口を利こう。知らない仲じゃないからな」

――――

喉と腹を満たすと私達はショウエイとナナコに続き、ムーアサイドを後にした。

ある家の前で

僅かに歩いたのちに浅瀬の上に建てられた平屋、その前で止まり――
 「ファリオン! 俺だ、ショウエイだ!」
声を掛けながら勢い良く戸を叩く。
すると戸の先から、
 「そんなに叩くな、ドアが壊れるだろ! ノックはいいから入れ!」
と、大きなしわがれた声が返ってきた。
 「ありがとう! お邪魔するよ!」
ショウエイは戸を開けて、平屋の中へと進む。
ナナコもそれに続き、私達に手を招いた。

男の名はファリオン
 「まったく、いつもの事だがやかましい男だ! 一体何の用だ?」
ギロリ、と表現するのが相応しい鋭い眼が向けられる。

 「……おい、ショウエイ。ナナコはともかく、その二人は何者だ?」

見慣れぬ人物の姿を確認し、明らかに警戒の色を見せている。
 「ショウエイの友達ですって、ファリオン」
ナナコの助け舟。
 「ふぅん……まあ、何でもいい」
値踏みするかのような視線が私とベリー・ベリーに刺さる。
 「すまん、ファリオン。俺の友達が貴方に用があるそうなんだ。だが余所者は好かないだろう? だから俺達が一緒に来たんだ」
ショウエイもフォローの言葉を重ねる。
 「ショウエイ、お前も余所者だろうが。まったく……」
ぶつぶつと呟きながら、ファリオンは席から立ち上がる。

よく見ると、部屋の隅には椅子に腰掛ける一人の少女の姿があった。
 「アグニ、そう脅えなくて大丈夫よ」
ナナコが少女に笑顔を向けると、幾らか落ち着いたようだが……それでも肩に力が入った状態だというのが容易に見て取れる。

 「それで……私に一体何の用だ、余所者よ」

事情を説明し
するとベリー・ベリーは前に進み出て、
 「あの~、アリア先生がおじちゃんのところに来ませんでしたかぁ?」
単刀直入に、述べた。
 「娘、話が見えてこないぞ」
ファリオンはその問いに対し、呆れた様子でピシャリと返す。
私はファリオンに事情を説明せんと、二人の間に口を挟む事にした。
 『突然の来訪で申し訳ない。私達はとあるウィザードの女性を探していて―――』
 「!! 娘、その右手の指輪は……まさか!?」
唐突に私の言葉が遮られた。

 「あ、はいー。先生からもらったものですよぉ」

ベリー・ベリーの言葉にファリオンは「ああ」と、天を仰ぐようにして応える。
 「ソーンリング……この世には存在せぬ幻花から作られた指輪。それを持っていたのは……そう、『アリア』だったな」
 「はいー、先生の花は赤かったですけどねぇ」
ファリオンは、全てを察した瞳でベリー・ベリーを見つめる。
 「覚えているとも。『これと同じ指輪を弟子にあげた』と、微笑む彼女をな」
ショウエイとナナコは、いつもと違う様子のファリオンを心配そうに見つめていた。


 「ああ、そうさお嬢ちゃん。確かにアリアは来たとも。それで、私に何を聞きたいんだ?」


そう告げたファリオンの瞳は、とても優しかった。




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