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砂の故郷を偲ぶ。
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琥珀色の太陽と、象牙色の砂。
生けとし生けるものを拒むかのような、砂と岩の大陸。
スカイリムより遥か西の地、『ハンマーフェル』。
私はその地の更に西、まさに大陸の果てにある小さな港町に生まれた……。
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潮の香りと乾いた風が頬を撫でながら緩やかに、行く。
リュートの音色はそれに乗って泳いでゆく。
音楽というものは何より素晴らしい。
聞いている者だけではなく、奏でる者の心も豊かにしてくれる。
淑やかな旋律は穏やかな波の音と合わさり、不思議な調和を生んでくれた。
「……いいものだ」
心に染み入る旋律に震えたのか、感嘆の呟きを零す。
目を閉じてリュートの音色を聞き入るは、仕事を終えて港で酒を嗜む、私の父だ。
『父さんの教えのお陰だよ』
「だが、私よりも遥かに上手い」
お互いに窃笑する。
この日、仕事が早く終わった父は、私にリュートを弾くようにせがんだ。
私も父にリュートを聞かせるのが好きであり、その頼みに喜んで応じた。
父もまた、私のリュートを聞きながら海を眺め、酒を飲むのが好きだった。
――父はこの町の船乗りであった。
母は私が産まれて間も無く流行り病に掛かり、この世を去ったと言う。
男手一つで育てられた私であったが、父は船乗りにありがちな粗暴な心の持ち主では無く、物静かでいながら、どこかロマンを求める人だった。
そのため、私もそういった部分を受け継いでおり、ナルシシズムとも言えるような自己陶酔の一時を好んだ。
父の教えてくれたリュート。
それを弾く時、私達親子は声無き声による心の会話が行われた。
「もういいさ、ありがとう。すまんな、これから出掛けるというのに無理を言って」
海に面した名も無き港町。
ここに住まう住人の数も数えるほどしかいない。
この港町の役割と言えば実に小さなもので、都市間を移動する隊商や兵士達が時折寄る程度。
海に面しているために塩と水が豊潤な点は恵まれているだろう。
そんな名も無き町として時が進む内に、優秀な船乗りである父が移住してきた。
それによって転機が訪れたらしい。
港町である以上、海に面した都市に向けて様々な物資を運ぶという事業もあるにはあったが、これまでの船乗り達では海賊に遭遇するような海路でしか進めなかった。
そのため、事業としては「ないよりまし」程度だったらしいのだが、私の父が来てからは危険な海域であっても、何事も無く航海を行えるようになったとの事。
海路の抜け道のようなものや危険の訪れを嗅ぎ取れる父の経験と直感が、この港町での船の仕事を確実なものにしたらしい。
町の門を出て、その脇に居る馬に鞍を嵌め、跨った。
「それじゃ、頼むぞ。道中スケルトンには気を付けてな」
『はい。いってきます』
町を守る双子の門番に挨拶をし、私は馬を駆る。
この小さな港町で生きる者達には全て役割があった。
井戸を管理するもの、食料を管理するもの、船を管理するもの……
皆が一丸となり、一緒に生きていく町だ。
その中での私の役割は『砂漠に置かれた隊商の文書を取りに行く』と言うものだった。
齢七にして馬を乗りこなしていたと言われる私にとって、大人になるまではこの役割に従事する事となるだろう。
広大な砂漠の中に隊商によって置かれた文書、というものは『この砂漠の状況・情勢』が書かれた物だった。
都市部の情勢などは船乗りが街に行った時に聞いて回る事が出来るが、あくまでそれは『内』の事でしかない。
隊商を装った略奪団が現れた、とか、巨大で凶暴なサンドワームを見かけた、等という街の『外』の情報を仕入れるために、そういったものが必要らしい。
隊商達も、野盗が扮した者達と勘違いされたり疑われたりするのはご免被る話なので、そういった信頼を得るためにも、無償で情報を提供してくれるそうだ。
とは言え、港町は隊商達が使う道から外れた場所にある。
わざわざその文書を渡すためだけに足を運ぶという真似は非効率。
そのため砂漠のとある場所に伝書箱を設置した。
新たに発足された略奪団がこの砂漠を根城にした、という隊商の情報のお陰で、港町は襲撃を退けた事もあると言う。
心構えの有無で物事は大きく変化するという例だろう。
それによって、伝書箱は定着した。
―――馬を駆り、合間に地図を確認しながら砂漠を走る。
しばらくして見えてきた、岩に紛れるように表面が加工された特殊な箱。
あれが目的のものだ。
私はそれの側まで寄ると、馬を降りて箱を開ける。
中に入っていた新しい文書を手にし、さらっとだが目を通した。
「帝国のスパイが配達人を装っている」 と言う似顔絵付きの文書。
「新たな砂漠の略奪団を確認、その名はブラッドサンド団」 と言う文書、こちらは似顔絵は無い。
「砂漠に移動する穴を見かける。新種の捕食生物の可能性有り。注意されたし」 と言う文書の三枚だった。
私はそれを背嚢の中へ入れると、再び馬へと跨る。
これまでの道にて、砂漠に穴らしきものは見当たらなかった。
だが新種の捕食生物とやらを用心せねば、と思いながら馬を駆る。
もしかしたら凄く小さな穴なのかも知れないし、もしかしたら捕食生物ではないのかも知れない。
など、帰路に就きながら新種の生物に期待と好奇心を募らせていると―――
それは刹那。
馬を岩場へ駆け上がらせようとしたその時。
正面で何かが煌いた。
次の瞬間には――
早くて強い何かの衝撃が、顔に刺さった。
私はその衝撃の勢いのままに……
後方へと倒れてゆき、馬上より転落した。
矢に撃たれた勢いのまま転落した私は宙で一旦逆さまになり、頭を強打。
そして地に接した頭頂部が支点となり、首から下だけが回転して倒れ、顔を伏せて這うような形となった。
「弓と違って、本当に一直線に進むみてぇだな」
喉が涸れたかのような声。
砂を通じて伝わる金属音は、鎧の音だろう。
強烈な首の痛みと、焼ける顔面。
加えて打ち付けられた全身。
「心臓を狙ったつもりだったんだが、まあいい。ただの練習だったが、どの道くたばったことには変わりねえ。当たりっちゃあ当たりだな、ハハハッ」
最早声も上げられぬ。
私の意識は、砂に沈むかのようにして、ここで途絶えた。
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「ほう、この地図はこのガキの町か? こんなところに町があるたぁ知らなかったぜ」
「よし、砂漠の新顔としてちょっくら皆で『挨拶』にでも行くかな」
「この『デザート・ゴブリン』率いる『ブラッドサンド団』がな……ふふふ、楽しくなるぜぇ……!!」
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