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 石に染み込んだ血は深く。
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 『よくある話と言えば、よくある話だよ』
拗ねる訳でもいじける訳でも無く、事の顛末の感想を口にする。

 「……ごめんなさいです」
悲しげな瞳

曇った表情で謝罪の言葉を発する、ベリー・ベリー。
悪い事を聞いてしまった、という顔だった。
 『謝る必要は無いよ。むしろ私の方こそキミを不快……、嫌な気持ちにさせてしまって、申し訳ないと思う』
 「でも、おじさんがかわいそうで……」
ベリー・ベリーは目を伏せ、背中がこそばゆいかの様にもじもじとして落ち着かない。
自責の念に囚われているのだろうか。
言いようのない奇妙な心持に悶え、戸惑っているかのようにも見える。

足の長い石橋

 『もう昔の事さ、気にしなくていいよ。それにキミだって孤児だったのだろう? 私がかわいそうだと思うなら、キミも似たようなものさ。少なくとも私は、本当の父親の声や顔を知っているのだからね。だがキミには、それすらも無い』
ベリー・ベリーの心をフォローする訳ではなく、本心からそう思う。
拠り所とすべき何かが胸の内にある私は、まだマシな方なのだ。
 「うーん……」
そうなの? と疑問の色を交えた灰色の瞳。
 『さっきも言ったが、よくある話なのさ。だから落ち込まないで欲しい。キミに落ち込まれると、私も辛い』
私の言葉を聞き、少女の頬が少しずつ緩む。
 「……ありがとうございますぅ」
お礼の言葉を述べた時には、いつものやんわりとした微笑に戻っていた。
緩やかな昇り
街道の脇のカース川に小さな滝のような段差が増えてきた。
飛沫の音に心地良さを感じながら、馬車は緩やかな上り坂を進む。
 「もうリーチに入ったからね。そろそろマルカルスに到着するよ」
マルカルスの色を垣間見
石造りの橋を越えながら、御者は声を掛けてきた。
マルカルスと言えば全てのものが石造りだが、街道に掛かる橋もそういったマルカルス独自の形式で出来ている。
 「何だかおしゃれな橋ですねぇ~」
 「マルカルス独自の石造りだね。あそこは遺跡をそのまま街にしちまったような所だから。まあお世辞にも緑豊かとは言い難い場所だけど石や岩は豊富にある……そうとくれば、石でモノを作るしかなかったんだろうさ」
 「はぁー」
御者の言葉に感心するかのようであり、呆けたようでもある返事。


……先ほどのベリー・ベリーの言葉が頭の中で反復される。
かわいそう、と少女は口にした。
かつて少女の境遇を尋ねたとき、この子のほうこそ可哀そうだと、私は思った。
自分でも言った通り、確かに私は故郷が滅ぼされ、唯一の肉親である父も失った。
だが私の心の中に父の声も残っているし、腕には教えてくれたリュートが残っている。
辛い別れかも知れないが、それでも思い出は確かに存在する。

ベリー・ベリーにはそれすらも無い。
まだこの少女の生い立ちについて詳しくは知らないが、聞く限りでは 『物心ついた時、既に天涯孤独であった』 と。
私にはこの立場の方が辛いと感じる。
幸いにして、良き人に引き取られて現在に至るのだろうが……ベリー・ベリーは本当に『辛い』と言う感情を表に出さない。
疲れていても疲れた、と言わない。
とは言え、こちらがそれを察するのを待っているという訳ではない。
何故そういった欲求を言葉にして表さないのか。

私はそれが不思議で仕方がない。
だからこそ、彼女の言う先生こと、『アリア』と会ってみたいのだ。

―――――

馬車に揺られてから暫く。
もう陽も傾き始めた。
夜になる前にはマルカルスに到着できるであろう、が……私は御者に言葉を掛け、馬車を止めるように乞う。
 「どうしたんだい?」
首を傾げる二人
私が馬車を降りると、ベリー・ベリーもそれに応じて後に続く。
 『キミは乗ったままで構わないよ』
少女と御者は首を傾げる。
 「旦那、いったいどうしたってんだい?」
……どうやら、二人とも気付いていない。

 『この先から匂うんだ。悪意がね』

神妙な顔と低い声で伝えると、御者はからからと笑った。
 「冗談きついよ旦那。確かにリーチには『フォースウォーン』が跋扈していたさ。だがストームクロークがマルカルスを治めてた時に大々的な討伐が行われたんだ。それのお陰で、今や街道で奴等の脅威に怯える必要は無くなった」
自分の事のように、高らかに語る御者。
 「さっき通った道にも砦があったけど、フォースウォーンは居なかっただろう? つまりはそういうことさ」
ほら乗った乗った、と促すも、私はそれに応じない。
それどころか先に進み―――
気を感じ見る
剣に、手を伸ばす。
 「旦那!」
御者は呆れた様子で声を掛けてきた。
 『だが、ストームクロークはもう居ないのだろう?』
 「そりゃそうだが……」
 『いいから、そこで待っていてくれ』

私は確かに感じた。
うなじを撫でる、奇妙な生暖かい風を。
一言で表せば『嫌な予感』なのだが、これを感じたときには必ずその先に何かが潜んでいる。

そして向こうも『馬車が止まった』事を察したようだ。
嗅ぎ取った悪意の匂いは、確実に距離を縮めてきている。

私は剣を握り締め、駆け出した。

進んだ先の街道には、左手側に石橋が掛かっており、街道右には小屋が建てられている。
小屋は空き家のようにも見えるが……気配、それも酷く凶暴なものが潜んでいるのを察した。

来る。
小屋の扉が勢い良く開いたが同時、機敏な動きで迫る黒い影。
長柄の何かを握り締めたそれは、声も発せずに―――
来襲、フォースウォーン
―――襲い掛かってきた。
 『フォースウォーン、か?』
振り下ろされた槍斧を剣で受け止めながら、尋ねる。
 「その通り! 我等の土地に踏み入れた以上、覚悟は出来てるな!?」
狂気に満ちた瞳からは想像できないほど、しっかりとした口調で返される。
凄まじい腕力を、剣を通じて腕で感じられた。
 『こちらはただの旅人だよ。通行料は払うから、荒事をせずに通してくれないかな?』
荒事は避けたいのは本音。
路銀で済むのならばそれに越した事は無いと思ったのだが……私の言葉を聞いた男の唇の端は、残酷に釣り上がった。

 「無理な話だな。余所者の男は殺す、女は攫う。それだけだ!」

交渉、決裂。
どうやら応戦するしかないようだ。

 『ぬうっ』
よろしくない位置
風を切る音が耳に届いたが、既に遅し。
鈍い衝撃が身体に響いたのと同時、私の左肩に一本の矢が突き刺さった。
石橋にはフォースウォーン独特の頭飾りを着けた、弓士が一人。
 「リーチはフォースウォーンのものだ!」
鍔競り合う形になっていたのにも関わらず、私の肩を器用に撃つとは……蛮族と言い表すのではなく、狩猟民族と言うべきなのか。
 「抵抗しないのか!? だったら……死ね!!」
目の前の男から振るわれる槍斧。
それを右手一本で受け、支える。
その刹那、今度は左上腕の背側に矢が刺さった。
己の血が飛沫のように、舞う。
手強い
あまりよろしくない状況だな、と他人事のように脳裏を過ぎった。
だが私とて、伊達に長く冒険者をしてきた訳ではない。
気圧されて押し負ける程、やわな心の持ち主ではないのだ。
私は歯を食いしばり、腹を決める。

だが、その時―――
 「おじさん!?」
後方から聞こえた、絹を裂くような声……ベリー・ベリー。
声のした後方からは悪意の気配は無い。
幸いにして潜んでいたフォースウォーンに襲われている訳ではないようであり、単純に私の置かれた状況を見て叫んでしまっただけだろう。
 『下がっているんだ!』
目の前のフォースウォーンに対峙しながら叫んで返す。
 「はっ、英雄気取りか!」
良い気になるなよ、と唾を吐き捨てるかのような瞳。
舐めるな、と私も負けずに睨み返した。

 「おじさんを……いじめないでっ!!」

叫びと共に
叫びと同時に、突如として刃物が擦れ合うかのような、奇妙な音が辺り一体に響いた。
私は思わず身が弾かれる。
それは対峙している者によって起こされた事ではなく、少女のはっきりとした怒声を耳にしたことによる驚愕。
空気が唸る。
轟音が近付く。
 「おぉぉっ!?」
業炎
轟音を纏ったそれは、二発。
目の前で弾け、跳ねる。
一瞬で首元を覆う汗が、その物体の驚異的な熱を理解させた。

私は後方を見やる。
燃ゆるは炎
両手に炎を宿し、そして側には小さいながらも精霊を携えている、ベリー・ベリーの姿。
少女と精霊が放ったであろう炎は、もはやそこらのウィザードの魔法とは比べ物にならない威力を誇っているのだろう。
目の前で焼け焦げ、一瞬で絶命した男の亡骸。
肉は溶けて蒸発し、その下の骨も黒い炭となっていた様が、威力を物語っていた。

 「なっ!?」
石橋に立つ男は突然の事態にたじろいだ様子。
己の仲間が一瞬にして絶命したのだから、無理もないだろう。
その隙を見逃すほど私も甘くはない。

気取られたままの顔が、宙を舞う。
即座に距離を詰めた私は、その男の首を跳ね飛ばし、戦いに幕を下ろした。

剣に付いた血を払い、そして仕舞う。
突き刺さった矢を強引に引き抜きながら、元居た街道へと戻ると、
 「お、おじさんっ!! だいじょぶですかぁ!?」
矢を引き抜き
今にも泣き出しそうな表情で、ベリー・ベリーが迎えてくれた。
 『大丈夫だよ。そんなに脆い身体じゃあないから』
矢の刺さった部分がじくじくとして痛むものの、深い傷ではない。
傷薬でも塗ればすぐに治る程度のものだ。
 「で、でも、矢が……!」
 『鎧を着ているから平気さ』
納得のいかない様子の少女の表情。
鎧に加えて筋肉もある以上、そこまで深く刺さっていないのは本当の事だ。
この程度の矢傷など、慣れたものだから。
 『さあ、馬車に戻ろうか』
心配そうなベリー・ベリーを、馬車に戻るように促す。
一瞬だけ不機嫌そうに唇を尖らせたが、私は気にしないことにした。

――――

馬車に戻った私達を迎えた御者の顔は、ひどく青ざめていた。

それもそうだろう。
街道はもう安全なのだ、と意気揚々としていた所にフォースウォーンの襲来だ。
またこれから、リーチ地方の街道を通る時にはフォースウォーンに怯えなければならない。
それを考えると、先が思いやられるのだろう。

一行は沈黙に飲まれる。
これから先の不安に怯える御者に、私の怪我の具合に心を重くするベリー・ベリー。
陰鬱とした空気が、馬車を包んでいた。

 『……さっきは助けてくれてありがとう。驚いたよ。キミは強いんだね』
しじまの帳を切ったのは、私の礼の一言。
マルカルスとは
馬車はマルカルスに到着し、正門までの坂を上っている。
 「あっ、えっと、そのぅ……い、いえいえ。どういたしましてぇ」
ベリー・ベリーは賞賛の言葉を受けてか、照れ臭そうに頭を掻いた。
 『同じ炎の魔法でも、あれだけの威力を出せるウィザードはなかなかいないだろうね』
私の述べている言葉は、決してお世辞などではなく素直な感想だ。
今まで様々なウィザードを見たり、または襲われたりもしたが……人間を一瞬で溶かせる程の業炎を扱える者など見た事がなかった。
 「せ、先生がすっごい魔法使いでしたからぁ……先生に教わってたおかげなのかなって。えへへ」

私はますます『先生』に興味が沸いてきた。

 「ついたよ。マルカルスだ」
御者は気落ちしながらも、到着の言葉を放つ。
ベリー・ベリーを先に降りるように促し、私も後から続く。
するとその時、
 「旦那」
御者から呼び止められる。
すると小さな皮袋を渡され、
 「お代、返すよ。ありがとな、旦那。あんたが居なけりゃ俺はあそこで死んでたかもしれない」
と、得も言われぬ表情で告げられる。
しばしそれを見つめた後、
 『ありがとう』
私も礼を告げ、その皮袋を懐へ仕舞った。

石の要塞
馬車を降り、松明の照明に浮き上がるのは、石の要塞。
面妖にも見えるその姿は、奇妙な冷気を纏っているかのように感じた。
石の階段を上り、その入り口へと向かう。

 「旅の人、マルカルスは初めてか?」
堅固
門番の衛兵が私達に言葉を掛けてくる。
 『いや、二回目ですよ』
その問いかけに、穏やかに丁寧に返す。
門番の衛兵もまた穏やかに、
 「そうか。いつ訪れたかは知らないが、今やこの街はかつてと同じ帝国の支配にある事だけは忘れるな」
忠告を一つ。

私は両方の門番に軽い会釈をして歩を進めると、ベリー・ベリーもそれに倣い、後に続く。


到着。

石の要塞、『マルカルス』。



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