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  運命の歯車は数奇である。
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ホワイトランの街へ足を踏み入れるのはショウエイと出会った時以来か、と独り言つ。
雑多
賑やかながらも整っていたあの時とは打って変わり、街の中には様々な物資で溢れていた。
防具や弓矢に使うであろう材木であったり、物資を運んできたであろう荷台が置かれていたり、街の入り口である門の上に物見台が増設されていたり。
一言で表し切れない程に、雑多。

かつての光景とはまるで違うため、新鮮な気分と言えばそうだが……。
これが内戦への備えによるものだと思うと、無邪気に喜ぶ気にはなれなかった。

私はベリー・ベリーと共に歩を進める。
街に入ってすぐ右手側にある武具屋『戦乙女の炉』の外には、各種鋳造器具が置かれており、そこには店の女主人が皮なめし台で作業をしている最中だった。

 『お忙しい所、申し訳ありません』
聞き込み
私の声に反応し、こちらを見る女主人。
 「なに? 武器や防具をお探しなら、まずは店の中で選ぶ事を勧めるわ」
手を休める事無く、言葉を返す。
内戦の影響で忙しいのかもしれない等と思ったが、こちらにも事情があるので仕方が無い。
まずは『この街にずっと滞在しているアリア』についての聞き込みをせねば。
 『いえ、そうではなく。実はちょっと人を探しているものでして』
私の言葉に、眉を曇らせ怪訝な表情を見せるが、構わず続ける。
 『アリア、と言う女性を知りませんか? この街に長く身を置いているらしいのですが……』
 「ええ、知っているわ。ウチの常連ですもの」
目を見開いて、驚くベリー・ベリー。
 「あ、あのっ、そ、その人ってまだこの街にいますかぁ?」
横から身を乗り出しての、質問。
女主人は一瞬圧倒されたかのように、首だけ弾かれたかのように揺れる。
 「え、ええ。この時間なら宿屋のバナード・メアに居るはずよ」
その言葉に安堵したのか、ベリー・ベリーは大きなため息を一つ吐く。

 「よ、よかったぁ~……ありがとうございますぅー、あぁ良かったですぅ」
 『ありがとうございます。それでは』
満面の笑みで礼を述べ、喜びと期待に胸を膨らませる少女とは反対に、私は冷静だ。
本来ならば、お互いの苦労を偲びながら喜びを分かち合うのだろうが。
 『バナード・メアに行こう』
女主人に頭を下げ、私はその場を後にする。
ベリー・ベリーもその後に続いた。

バナードメアへ
ホワイトランの街は三つの地区に分けられている。
『平野地区』と呼ばれる最も低い区画には、武具屋や酒場、そして市場となる場所には食料品等を販売する屋台が立ち並ぶ。

市場の一つ上の階層は『風地区』と呼ばれ、この街の住人達の大半はその区画に居を構えている。
ホワイトランの象徴の一つ、ギルダーグリーンの大樹がこの区画の広間に根を張っているのも特徴だが、風や緑を祝福する神『キナレス』の聖堂があったり、死者の埋葬する地下墓地があったりもする。
古代ノルドが抱く戦士としての伝統や風習を重んじる、『同胞団』と呼ばれる集団もこの区画に拠点を置き、他所で言う戦士ギルドのような働きをしているらしい。

更に高所にある場所は『雲地区』と呼ばれ、この街を治める首長が住まう『ドラゴンズリーチ』が聳える。
街を一望出来るほどの高台からの眺め、それは絶景との事。
要人の区画のため、一般人は基本的にドラゴンズリーチに立ち入る事は出来ないのだが。


戦乙女の炉から、市場に向かって一直線。
私とベリー・ベリーは平野地区にある宿屋、バナード・メアへと足を踏み入れた。

―――――――

バナード・メアの中に入ると、宿屋の女将が愛想の良い挨拶と共にカウンターに来るように促してくれた。
 「いらっしゃい。旅人さんかしら? ベッドも食事も入用なら、ウチに来たのは正解よ」
ハチミツ酒をカウンターテーブルの上に並べ、各種メーカーの物を取り揃えている事をアピール。
ベリー・ベリーは探し物をするかのように店内を見回している。
 『いや、まずはちょっと話を伺いたいのだが……良いかな?』名を告げると
私の言葉に、「ああ」と納得。
 「ええ、いいわよ。知ってることなら何でも答えるわ」
宿屋や酒場は人の入れ替わりが激しい場所であるので、情報を求めて来訪する者も多い。
見た目からして熟年とも言える頃合の女将は、その事を心得ているのだろう。
 『私達は、とある女性を探して旅をしているんだ。この街の宿屋にアリアと言う女性が居ると聞き、来たのだけど……』

 「あら、私に何の用?」

それはあっさりと
尋ねた女将の返事よりも先に、横から声が聞こえた。

凛としていて澄んだ声。
栗色の髪の毛は短く揃えられ、一見男性のようだ。
しかし、鎧の上からでも解るほどの美麗でしなやかな体躯が、性別を迷わせるような事は無いと教えてくれる。
 「見た所、旅人さんかしら。私を雇いに来たって言う訳では無さそうね?」
私との距離を詰め、少しいたずらっぽい微笑みを向ける。
ベリー・ベリーは口を開けたまま、呆然と立ち尽くしていた。

読みは的中
 「……お姉さん、だれ……?」

少女の呟きに対してアリアは『それはこちらの台詞だ』と言わんばかりに唇を尖らせた。


――――――――

 「まっ、よくある事だね」
彼女は傭兵
私はアリアに事の経緯を説明した。

彼女……アリアは、流れ者の傭兵との事だ。
スカイリムの各地を旅して回り、自分の腕を買ってくれるもののために剣を振るっているらしい。
帝国とストームクローク間での戦がまた激しくなるような兆しを聞き、どちらの軍勢から買われてもいいように中立の都市に身を置いたようだ。
……僅かな佇まいや身のこなしを見た限りでも解るのだが、彼女は歴戦の戦士。
自分の腕に絶対の自信を持っており、仕官すればすぐに騎士の位を貰えるのではないかとも思い、その事を尋ねてみた。

 「自分から剣を売りに行くのって、安く見られそうで嫌なのよ」

私が奢ったエールを片手に、不敵な笑みを浮かべながらも饒舌に語る。
修羅場を潜り抜けた者が持つ、大胆さとも言えよう。

 「あ、あの、ごめんなさいです、お姉さん」

私との会話に一区切りついたのを見計らって、ベリー・ベリーが謝罪する。
申し訳無さそうに縮こまる少女を見て、アリアはからからと軽快に笑った。
 「気にしないの、お嬢ちゃん。人違いなんて、よくある事なんだから」
ベリー・ベリーはほっと胸を撫で下ろしたようだ。

 「それこそつい最近にもあったぐらいだよ。アリアって人を探してるっていうウィザードの女が私を訪ねてきたのはね」

その言葉に、私とベリー・ベリーは顔を見合わせた。
 『その女性が探していたアリアと言う人は、アリア・セレールと言う名前ではありませんでしたか?』
 「あら、貴方達の尋ね人と同じだったりするの?」
アリアのその返事は、そのとおり、と言う意味だろう。
 「私達以外にも先生を探している人が居るんですねぇー……」
ベリー・ベリーは目を丸めたまま独り言のように呟く。
 「そのウィザードは人違いだって解ると『イヴァルステッド』に行くって言ってたよ。イヴァルステッドに行けばアリア・セレールの足取りが絶対に掴めるとかなんとか?」
まぁ詳しいことは聞いてないけどね、と付け加え。
私は身を乗り出して尋ねる。
 『それで、そのウィザードの名は?』
ベリー・ベリーもその話に食い付き、私同様に身を乗り出していた。
 「ごめんね、名前は聞いてないんだ。なにせ風のように去って行っちゃったからさ」
アリアの言葉に少女はかくり、と肩を落とす。

尋ね人は、稀なる偉人である。
とすれば、私達以外にも彼女を探す者が居てもおかしくは無いだろう。
そして、次に向かうべき場所が解っただけでも、儲けと言うもの。

 「でもそのウィザード、綺麗な長い黒髪に氷みたいな透き通った瞳の美人で、特徴的だったからね。探せばすぐに見つかると思うよ?」

情報としては、充分すぎる収穫だった。

―――――

 「それじゃ、ごちそうさま。無事を祈ってるわよ」
アリアは出発する私達を、バナード・メアの外まで見送ってくれた。
爽やかな別離
 「はぁい。お姉さんこそ、お元気でー」
腕を大きく振り上げて鼓舞するかのように送るアリアに対し、ベリー・ベリーは手を振って返す。
私も一礼し、その場を後にした。

市場を抜け、来た時の道を戻るようにまた進む。
 「まさか先生と同じ名前の人だったなんて思いませんでしたよぉー」
横に並ぶベリー・ベリーが、己の早合点を照れ臭そうに呟く。
アリアが別人だと解ったときには、見るからに落胆の色に染まっていたのだが、今はすっかりと立ち直った様子だ。
切り替えが早いと言うか何と言うのか……この前向きな姿勢は素晴らしいものだなと感心する。
 『しかし、無駄ではなかった』

イヴァルステッドに向かえば、同目的の人物と会えるかも知れないという情報に加え、そこにはアリア・セレールの足取りを掴むための『何か』があると言う情報も得られた。
初めから人違いなのではないかと予感していた私にとって、次への足掛かりが得られた事が何よりの収穫であった。

イヴァルステッドへの道を確認

歩きながら、頭の中でイヴァルステッドへの経路を組み立てる。
しばらく進み、再び戦乙女の炉の前まで来ると、私は地図を取り出し、確認を行う。

天然自然に囲まれしイヴァルステッド。
其処に至るまでの街道は、数多くの斜面、落ちたらまず助からない程の急流、林に潜む賊や追剥、など様々なものに気を付けながら進まねばならない。
そして何より、遠い。

眉を顰めながら地図と睨み合う。
そんな私の顔を、ベリー・ベリーはひょいと下から覗きこむ。

 「……もしかして、おじさん。はじめから人違いだって解ってたりしてましたぁ?」
経路を練っていた思考が、その言葉によって途切れる。
純粋な瞳が、胸の内を見透かすかのように刺さった。
 『……もしかしたら、とは思ってたよ』
居た堪れなくなり、つい本音を吐露してしまう。
流石の少女も、なぜ教えてくれなかったんだ、と怒るのではなかろうかと内心冷や冷やしたが、
 「はぁー……やっぱりおじさん、すごいですねぇ~」
と、何故か賞賛と感心による拍手を送られる。
憧憬の眼差しを受けた私は、こそばゆい感覚に包まれ、決まりの悪い心持になった。

 『とりあえず、次の目的地はイヴァルステ』
 「きゃっ!?」
異変
私の言葉が、途切れる。
ベリー・ベリーが短い悲鳴をあげる。

私が言葉を連ねている最中だった。



空が割れたかのような轟音。

それに伴い、足が縺れる程の地響き。

青かった空は、まるで夕陽に覆われたかのように淡く光る。

太陽のあった場所に、灰色の雲が大蛇のように渦巻き、猛っていた。

轟音が去った後に響き渡った、奇妙な『音』。

その音はまるで、耳にするもの全てに対して脳天から爪先まで痺れさせ震わせるかのような―――

まるで『恐怖』そのものだった。


不意に、巨大な影が頭上を過ぎ去り、僅かに遅れてから逆巻いた風が地を這い舐める。



黒き竜

――――頭上には、黒い翼が舞っていた。


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