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英雄の再来。
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かつて、ソルスセイムと言うダンマー達が住まう土地に訪れた時、ずんぐりとした其れを見た事がある。
かつて、スカイリムを放浪している時、山裾を滑空する銀色の其れを見た事がある。
私は、知っている。
この姿をしたモノを、一体何と呼称すべきなのかを。
―――ドラゴン。

全てを喰らい、全てを奪い、全てを焼き、全てを薙ぎ払う存在。
神から、王者としての資格を与えられし特別な存在。
古来より畏れと恐れの対象とされていた、絶対永遠の強者。
それが、二体。
百戦錬磨を自負する私であっても、流石に震えた。
特に―――黒翼の竜。
あれを見た時、私の心臓は凍えてしまったかのように冷たくなった。
背筋に氷柱を刺し込まれたかのような悪寒が走り、同時に一気に汗が噴き出す。
恐怖と興奮からくる、じっとりとしたものが頬から垂れ落ちた。
「ド、ドラゴンだぁっ!! ドラゴンが来たぞぉぉっ!!」
ある一人の衛兵の叫びが木霊する。
それと同時、割れた空より降り注ぐ火球に、その衛兵は押し潰され、物言わぬ存在となってしまった。

それでもなお、火球は無慈悲にも降り注ぐ。
木々に降りては其れを焼き、建物に降りては其れを破壊。
「うわぁぁぁぁっ!!」
火球の破砕する音に紛れて響き渡るのは、数多の悲鳴。
「ひ、ひるむな! 矢を、矢を放てぇ!!」
応戦の姿勢を構える衛兵の声。
先程まで人々の生活の音で賑わっていた街が悲鳴に包まれていた。
『ベリー!』
腰が抜けたかのように傍らにへたり込んでいる少女に手を伸ばし、身体を引き起こす。
強い力で引っ張ったため、もしかしたら後々に肩の筋を痛めるような結果になってしまうかも知れない。
だが今は、何処か安全な所へと避難せねばならない。
このまま平野地区に居ては、降り注ぐ火球に焼き潰される。
私はベリー・ベリーの腕を引き、街の一段上の区画である風地区を目指した。
街の住民もまた同様、火球が降らぬ場へと急ぐ姿が見える。
だが――――

空を馳せる者達はその考えを嘲笑うかのように、今度は風地区の上空を飛び回る。
そしてそれに付き従うかのように、翡翠の竜もまた風地区の上空を駆け、火炎の吐息を撒く。
「うああ熱い、熱いぃーー!!」
炎に包まれた街人が、己を焼く火を消すべく風地区の広間に敷かれる浅い水路で、身体を転がす。
だが、竜の吐息は無情にも消えない。
炎でありながらも火とは異質であるかのようなそれに包まれた者は、哀れ黒炭となって風と共に消えた。
黒翼の竜の瞳が、赤く光る。
残酷な色を宿し、烈火の如く燃え上がる眼光は愉悦に満ちていた。

「――――――!! ――! ―――――!!」
黒翼の竜は、何かしらの単語のようなものを発している。
竜種による特殊な言語であろうが、人間である私には理解が出来ない。
おそらく、この場に居る全ての皆々がそうであろう。
しばらく街を見下ろしながら、解読不能な竜の言葉を発し―――
黒翼の竜は、空の彼方へと飛び去っていってしまった。
――――翡翠の竜を、残して。
黒翼の竜が姿を消したが、もう一体の竜はまだ上空を旋回している事に住民は震え上がっていた。
悪夢はまだ終わらないのか、と。
「ひるむな! 本物のノルドは退かない!!」
自分自身を鼓舞するかのように、衛兵が雄叫びを上げた。
奇妙な明るさに包まれていた空が、雲に覆われて曇天へと変わる。
火球はもう降ってこなかった。

私はクロスボウを手に、駆け出す。
「おじさん!」
ベリー・ベリーの、悲鳴にも似た声が後方から聞こえる。
「射手は構えろ! 剣士は住民の避難誘導に掛かれ!」
衛兵を指揮する者の頼もしい声が響く。
指揮の言葉に従い衛兵は弓を構え、上空を飛び回る竜へと矢を放つ。
私は、知っている。
かつて、ソルスセイムの一人のダンマーからこう聞いた。
竜種というものは不死なる存在であるが、倒せない訳ではない。
ただ『その魂が滅ばないだけ』であり、肉体は滅ぼせると。
そして角の生えたドラゴンは色鮮やかであるほど、若輩であると。
竜の口から放たれる炎。
先程の黒翼の竜のものと比べれば、速度も熱さもまるで違う。
身を屈めて駆け潜ると、即座に狙いを定めて矢を放つ。
上空から降り注ぐ鮮血。
苦痛に呻く。
命中した証。

挫かれ、宙で静止した竜の身体に、衛兵達の放った矢も次々と吸い込まれる。
中立都市だけあってか、いつ攻め込まれても良い様に日々訓練に励んでいるのだろうか。
衛兵達の弓の腕前は実に見事と言えた。
しかし感心してばかりも居られない。
羽ばたき頭上を過ぎって行く竜を見、すぐにまたクロスボウの矢をセットする。
「ああーっ!」
聞きなれた声による、悲鳴。
滑空しながらの放たれた火炎の吐息は、命中こそしなかったものの、少女が身を隠していた市場の屋台へと降り注いだ。
私は怯えているベリー・ベリーの元へと駆け寄り、また手を引いて走り出す。
それに合わせたかのように、竜は旋回して此方へと向かってきた。
私達を狙っているのか、はたまた偶然なのか。
それとも先程のクロスボウの矢が手痛く、腹を立てているのか。
いずれにせよ、こちらを固執しているかのようにも見て取れた。
しかしその行動は竜にとって致命的と言えるものとなった。
正門の方へと走ってゆく私達を追い掛けるその動きは、直線的。
ホワイトランの衛兵達の狙撃の腕は確かで、その単純な飛翔を読み取り、正確に矢を当てる。
精彩を欠いた羽ばたきを見て、再度のクロスボウ発射。

「きゃっ」
急に手を離されたベリー・ベリーは尻餅をついて倒れる形となってしまった。
それと同時、竜は地へと墜ち、地響きを鳴らす。
私は、知っている。
飛ぶと言う行為は、竜にとっても充分な膂力が無ければ行えない。
つまり、攻撃を受けて地に降りたった竜というものは、満身創痍の状態を指す。
とは言え、その牙や爪はもちろん、その尾から繰り出される攻撃を直撃してはひとたまりもないのは当然。
私はクロスボウを仕舞うと剣を抜き、竜と命を切迫させ合う覚悟を胸に留める。
だが―――
地に降りし竜は、最後に雄叫びを一つ上げると、うな垂れるかのように顔を伏せた。
そして、その鱗から何処からともなく炎が熾される。
それは竜の肉体が滅びゆく予兆。

燃え上がる竜の肉体を見て、安堵の吐息が零れた。
角の生えた竜は色鮮やかであるほど若輩と言われるだけあって、その実力は竜の中では高くないのだろう。
実際、黒翼の竜に睨まれた時の様な、魂が圧倒されるような感覚に陥る事が無かった。
あれが消え去ってくれたのは、僥倖と言える。
もちろん、この街の衛兵達が精錬された剛の者の集まりだったと言うのも大きい。
様々な思いが胸を馳せる。
竜種の肉体がパチパチと火花を散らせながら、消えて行く。
それを眺めながら、また一つ安堵の吐息をつく。
――――不意に、異変が起こる。
燃え上がる竜の肉体から、何かが巻き起こっているのだ。
それは谷間を駆け抜ける一陣の風のように、凶暴な唸り声をあげている。
にも関わらず、それはまるで実体の無い……胡乱でありながらも、確かな脈流を持っているものだ。

竜の身体から舞い上がるものは、四方八方へ霧散するかのようでありながら、確かに此方へと流れている。
金色とも白炎とも見て取れる気流のような何か。
私は、知っている。
かつて旅の詩人が歌った、こんな詩を。
―― 竜が滅びし時、その肉叢(ししむら)は塵と為す。
―― しかしそれは竜の魂が流転し、回帰するための儀式。
―― 竜の運命の歯車は、不死と言う固き頚木によって嵌められており、朽ちる事は無い。
―― だが竜の父であるアカトシュは実に数奇な真似事をした。
―― 永遠不変、その定めを終わらせる存在を生み出す。
―― 燦然(さんぜん)と輝く金色の風は、知識と力に満ち満ちた竜の魂。
―― アカトシュの加護を受けしもの、呼吸と共にそれを飲み込み糧とする。
―― それこそが我等が英雄の証、ドラゴンを討ち滅ぼし資格を神より賜わりしもの。
―― おお英雄、ドラゴンボーン。
―― 不死なる存在に終わりを告げるもの、ドラゴンボーン。
―― さあ皆々、ドラゴンボーンの再来を称えよ祝えよ、謳い続けよ。
狂信的とも思えるかのような歌に、眩暈がしたのを覚えている。
残滓としてではなく、鮮明に記憶している。
竜の肉体が滅ぶ際に、その肉体が炎に包まれながら金色の風が舞ったとしたら―――
それは竜の魂が、喰らわれて滅ぶ事を示す。

なんと悲しき、そして惨き事だろうか?
まさか、この少女が――――
幼きこの娘が――――
ベリー・ベリーが―――――

アカトシュの加護を受けしもの。
『ドラゴンボーン』であっただなんて。
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てっきりドヴァキンさんが来るのかと思ってたらビックリ。
最後の紹介modでさらに驚いたんですが、アルドゥイン襲撃イベントの発動を待ってたんですか?