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 時代は北の古都を更に冷厳とせん。
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重厚、そして巨大な扉がゆっくりと閉じられる。
逃げ場を求めるかのように空気が門の隙間に吸い込まれ、そして消えた。

ウィンドヘルムの街中
ウィンドヘルムを築いたと言われる伝説のノルド、イスグラモルの石像が私達を出迎えた。
街を覆うかのように空に掛かる幻想的なオーロラは、厳しい寒さの証。
風と共に積もった雪が粉のように舞う。
街全体に広がる石造りの重厚かつ濃密な雰囲気と、つんと張った寒冷地の空気がどことなく息苦しさを感じさせた。

 『もうちょっとだよ』
息苦しさに胸が詰まるが、それを飲み込み、背中の少女に声をかける。

まずは聖堂へ
病にかかったとするならば、何は無くとも目指すは聖堂だ。
神に寄る祝福によって大抵の疾病は治るのだから。

『デイドラ』と呼ばれる邪まな存在に比べ、『エイドラ』と呼ばれる神々なる存在は滅多にこの世に顕現しない。
『神』と言う超越した存在が身近に感じられないにも関わらず、人々に根付いているのはこういった恩恵からではないか、と考えたりもする。

北方の乾いた風によって乾ききった聖堂の扉。
軋ませながら、ゆっくりと押し開ける。
見下ろす姿は威風たる
石造りの聖堂の中には、青銅で作られし巨大なタロス像が佇んでいる。
その足元には、畏敬を演出させるべく蝋燭の淡い光。
そして、地に突き刺した剣のような形状をした、祭壇。

隙間風に揺られる炎が、室内を幻想的かつ不気味に彩る。
祭壇の前までゆっくりと歩み寄った。
 『ベリー、この祭壇の前に跪いて祈るといい。そうすれば、きっと良くなるはずさ』
私の背中でうな垂れる少女に声を掛けると、か細い声で、
 「……はい」
と、言葉を返してくれた。
 『ゆっくり降ろすよ。大丈夫かい?』
返答を待たずに膝を曲げて屈み、背からゆっくりと慎重に降ろす。
切なげで間隔の早い呼吸が、少女の感じている苦しさを痛々しいまでに教えてくれる。

無理を言って
…………。

祭壇の前に跪き、祈りを捧げるベリー・ベリー。
疾病ならば祈りを行って即座に効果があるものなのだが―――
何故か、まったく良くなる様子が見られない。

ぐらり、と少女の身体が揺れた。
私はすぐさま駆け寄りその身体を支え、倒れるのを阻止する。
通じぬ祈り
……祈りが、届かないのだろうか。
何故?
もしやただの疾病では無いのだろうか。
私の知り得ぬ、とてつもない病気を患ってしまったのだろうか。

問うても答えは出るはずもなく、ただひたすらに胸中に苛立ちと焦燥、そしてうら悲しさが募るだけであった。
私はタロス像を見上げ、その顔を睨み付け、そして聖堂を後にした。

――――――

宿をとるべく
……思えばウィンドヘルムに来るのは随分久しぶりだったが、以前訪れた時よりも一層荒れ果てているような気がする。
欠けて崩れていながらも舗装されていない石畳に、先程のように乾き軋む聖堂の扉。
そして街の影に潜むかのように、縮こまる物乞い達の姿。
北方の古都の厳しさ、それは不毛の地によること以上に戦乱によって齎(もたら)されているであろう廃れし姿。
奇妙な疚しさを胸中で噛み締めながら、私は宿の扉を片手で押し開け、街の宿屋へと入る。

背中の少女は、片腕で支えられるほど、軽い。

宿の中は明るい

キャンドルハース・ホール。

古都ウィンドヘルムに在りては相応しい歴史を持った場。
内装は二階建てでとても広く、一階に寝室を備え、二階には憩いの場となる広間が宿泊客に安らぎを与える。
二階の暖炉にある蝋燭は、凡そ百五十年以上前から燃え続けているとの事で、有名な話だ。
そしてそれが宿の名前の由来にもなっているらしい。

広間の椅子に腰掛けるは、仕事を求めて訪れたであろう傭兵。
いつまでも太陽が昇らぬことを願っているであろう、くたびれた背中の男性。
現実から逃避するかのように酒を煽り続ける老齢の男性。
それらを横切り、私はゆっくりと階段を降る。

 「いらっしゃい。キャンドルハース・ホールへようこそ」
とにかく部屋を
来客に気付いた宿の女将が、床の掃き掃除をしながら気だるげに声を掛けてきた。
 『部屋を借して欲しい。一部屋で良い』
私の言葉を耳にし、そして背中でうなだれる少女の姿を見てか、怪訝な瞳だ。
 「……あんたのことを、衛兵に伝えても良いってんならね」
女将は私の事を、人攫いかなにかと疑っているのだろう。
 『構わないよ。それと、私達は正門から入ってきた』
厄介事に巻き込まれぬための宿側の自衛、と思えば致し方ない。
他者から、あらぬ疑念を抱かれども腹立ちはしなかった。
 「ふうん……。一晩、10ゴールドだよ。向かって一番手前の左の部屋が空いてるから」
 『ありがとう』
掃き掃除を止めぬ女将の視線が背に刺さるが、私は気に留めることなく部屋へと向かった。


――――――――

治まらぬ熱
ベリー・ベリーをベッドにゆっくりと降ろすと、思わず安堵の吐息を一つ。
取り合えずは雨風凌げ、かつ暖を取られる場を得られた事に、胸を撫で下ろす。
だが楽観はしていられない。
この少女の容態は何一つ良くなっていないのだから。
 「おじ、さん………ごめん、なさい………」
弱弱しい声が発せられるのに同調し、その長い睫毛がふるふると震える。
 『大丈夫かい? 無理に喋らなくていいよ』
極力、気負わせぬように意識しながら声を掛ける。

遣る瀬無く
 『寒くはないかい?』
 「だい……じょぶ、です……」
首を振るだけで構わないのに、少女はわざわざ言葉にして返す。
私はしばし考えを巡らせ、どうにかして眠りにつかせねばと言う使命感に駆られ、
 『ちょっと待ってて貰えるかな。厨房を借りて、何か温かい食事を……アップルキャベツのシチューでも作ってくるよ』
と、有無を言わさぬ口調で言い捨て、部屋から離れた。

―――――かなり遅い夕餉を終え。
 「すぅ………すぅ………」
腹を満たしたベリー・ベリーはようやく眠りについたようだ。

ひとまずは
食事の摂取は苦で無かったようだし、嘔気(おうけ)なども見受けられなかったので安心した。
関節の痛みや寒気はだいぶ治まったとは本人の談。
だがまだ熱と気だるさが続いているのが気に掛かるところだ。

頭の中で様々な考えが巡り、廻る。

体調不良に気付いてやれなかった己の不甲斐無さや、病に臥す者が抱くであろう心細さ。
ベリー・ベリーの師であり親でもある、アリア・セレールについて。
もしもこのままこの少女の体調が良くならなかったら、彼女に会った時に何と申し上げるべきなのだろうか。
いや明日にはすっかり回復するであろうと言う希望的で都合の良い展開も、期待する。
この少女はあの『ドラゴンボーン』なのだから、こんな事で――

………一旦、思考を打ち切った。

醜悪極まりない自身の心への嫌悪で、脳天から爪先までおぞ気が走ったのだ。
両手で顔を覆い、吐き気を堪えながら己を無言で叱責する。

二階から聞こえてくる喧騒は、きっと宿泊客が酔って殴り合いでもしているのだろう。
今の私は、そういった連中に一方的に殴られるのがお似合いなのかも知れない、と自身を詰(なじ)っていると……
ゆっくりと、意識は闇へと沈んで行った―――


―――――まどろみ。
そう呼ぶに相応しい、浅い眠りから覚める。
椅子に腰掛けたまま転寝をした私だったが、頭の中には昨夜からの嫌悪と不安が粘つき茹だっており、この上なく不快な覚醒を味わった。

顔を上げて、ベッドで眠る少女を見やる。
またいつものように 「んやうや」 などと口元をまごつかせながら、促されし覚醒による不快感と心地よい目覚めに鬩がれる、と言った様子で起きて来てくれるのではないか、等と期待もした。
だが、現実はそんなに甘くはない。
その額にそっと、手を置くと……熱は未だに続いている。
早朝から
私は何を語りかける訳でも無く、静かに部屋を後にした。

扉を開け、すぐ右手。
カウンターのある応接間には無愛想な顔で客を待つ女将の姿があった。
 「あらおはよう。何か飲み物でも出しましょうか?」
 『いや、結構。それよりも聞きたい事があるのだが』
薬を求めて
カウンターテーブルに手を置き、お互いの会話を応酬する姿勢。
 「なにか噂でもお求めかしら? 傭兵の働き口を求めてるなら宮殿前で兵役を募ってるわよ」
 『いいや、薬を買える場所を教えて欲しい』
私の佇まいや、昨夜の鎧姿などを見てからの言葉だったのだろうが、その予想から外れた物事を口にした。
女将は肩を竦めながら、
 「そこの扉から外に出て、すぐ右に見える通路をまっすぐ行けば市場に出られるわ。そこの一角に錬金術師の店があるから、そこに行ってみなさい」
と、顎で扉を示す。
私は女将に一礼し、その言葉通りに側の扉から外へと出でた。

市場へと足を
晴天。
雪に抱かれた街とも揶揄されるウィンドヘルムにおいては貴重な天候だろう。
顔にかかる風は変わらず冷たいが、陽の温もりがその冷気を溶かしてくれる。
寒さ厳しいウィンドヘルム、青い空が果てしなく続く今日は温和な一日……となれば、どれだけ良い事だろうか。
雑多とした場
宿を出てすぐに右手に見えた路地を進むと、女将の言葉通りに道は市場へと広がる。
以前訪れた時には、レッドガードである私はこう言ったメインの広間に立ち入る事を衛兵に阻まれ、『灰色地区』と呼ばれるダークエルフ達の住まう区画に放られた記憶がある。

ソリチュードの市場のように賑やかではないが、それでも活気には満ちている。
ただし、それは活気と言うよりは一種の熱気なのかも知れない。
戦の只中とされるウィンドヘルムにとって、鍛冶場は兵器制作に追われ、そのすぐ側の武具屋の屋台では数打ちの品を叩き売る。
食材を並べる屋台の主も、保存の方法を説きながらの販売をしている姿が見受けられた。
―――戦争とは、一つの大きな市場である。

昔耳にした言葉が、私の脳裏を過ぎった。

錬金術士
錬金術製品の店名を女将に聞き忘れていたが、それはすぐに解った。
『ホワイト・ファイアル』、つまり 『白い小瓶』 と言う店名を掲げた店が市場の一角に存在したからだ。
私は扉を開け、店内へと脚を進み入れる。

鬱蒼とした店内は、立派で長大なカウンターと、かつては薬品が陳列されていたであろう壊れて崩れた棚が目に飛び込んできた。
店内を包む空気も、北国独自の無味とも言えるような室内のものではない。
どこか淀んでいるかのような、薬品から発する独特な臭いを壁の石や木が吸い込んだものだ。

私に錬金術の心得は無いが、察する事は出来る。
この店はかつて錬金術に熟知し造詣に長けた者が存在したと言うことが。

 「いらっしゃい」
左手より呟くように聞こえたその声は、幽鬼によるものかと思えるほど生気を感じられぬものだった。

お手上げと
 『疾病……特に発熱時に効く薬を探しにきたんだ。置いてあるかな』
窓際の椅子に腰掛けたままの店主が「はぁ」とため息を一つこぼして、立ち上がる。
 「残念ながら、此処には何も無いよ」
先程のため息は、呆れや卑下と言ったものからこぼれたのではなく、店主自身の忸怩たる思いから出たものだろう。
 「材料が無いんだ。だから薬は何一つ無い。情けない話だろう?」
やれやれ、と言わんばかりに手を広げて答える店主。
 「見ない顔だから教えておくよ。今のウィンドヘルムには物資が無いんだ……。食料も、薬の材料も、全ては兵士達に持っていかれちまう」


――――――

所変わって、また宿屋・キャンドルハース。
 『何故教えてくれなかったのかな』
さすがの私も、今だけは穏やかではない心持であった。

女将との
 「他人が何を求めてそこに行くかなんて、解りやしないだろうよ。それに私は『売ってる』だなんて一言も言ってないしねえ」
私の怒りを押し殺した声を聞きながらも飄々と返すは、宿の女将の嘲笑。
 『体調不良の者を抱えてきているのは知っているだろうに、あなたは人が悪いな』
 「お荷物の病人を抱えてこられただけでも、こっちとしては迷惑なんだがねえ」

昨晩、ベリー・ベリーに食事を作るために部屋から離れた際、ついでに宿代も払ったのだが……
その時に女将には 『旅の相方は、体調が優れないみたいなんだ』 と伝えておいたのだ。
その事前の情報を知っているのならば、私が薬を求めて錬金術店に行くのは想像出来ていたはずだ。
風来者の私達にとって、戦が激化していることは知りつつも物資に事欠くほどの台所事情などは知る由も無い。
ならばせめて教えてくれればいいのに、と私は不貞腐れた子供のようにそう思った。

そしてその心を踏まえた上で、女将はこの返答なのだ。
つまり、「戦が激化しているなら困窮しているのは当然だろ? なんで薬が得られると思ったんだ?」 と、言った賤陋(せんろう)たる意思で、私を見下しているのだ。
だからこそ今私は、自身の斯様な愚挙を噛み締めている。

 「その辺にしておけ」

後方から聞こえた、鋭く、そして重く渋みの効いた声。
一人の男が声をかける
 「見てらんねえぞ。お互いの八つ当たりのぶつかり合いなんざな」
宿の女将が射貫かれたかのように、押し黙っていた。
 「エルダ、心まで貧しくなっちまったら終わりだぜ。それにそういった行いはいつか自分に返ってくるもんだぞ?」
エルダ、と呼ばれた女将に対して、敵意とも憫然とも受け取れるような視線を送っている。
そして言葉には、有無を言わせぬ迫力が満ちていた。
 「兄ちゃんもだ。この街が、戦争の真っ只中でよそ者が薬を買えるような豊かな場所に見えるか?」
私の浅はかさを言葉にして指摘。
言葉を返せずに立ち尽くす私の姿を見て、いたたまれなくなったのか、
 「薬が欲しいってんなら表に行きな。今朝、カジートキャラバンが到着したって聞いたぜ。あいつ等ならこういった街の事情とかに縛られていねえだろうからよ」
と、耳寄りな話を教えてくれた。
堂々たる佇まい
 『……ありがとう』
余計な言葉を被せず、ごく簡単な礼の句を述べる。
 「早く行きな」
男性に頭を下げ、私は矢色の如く宿から飛び出していた。

―――――

正門から街を出で、重厚な石橋を駆ける。
カジートキャラバンは旅の一団であるため、一つの場所に長く留まる事は無い。
商売の香りが感じられねば、無用に長居はしないのが旅の隊商の基本。
駆ける
橋を巡視する衛兵から通りすがりに、がなられようとも気にせずに駆ける。
凄惨な焼死体や、処刑されて野晒しとなった水分の失せし帝国兵の遺体。
それらに脇目を振らず、一心に駆ける。

確かウィンドヘルムのカジートキャラバンは馬屋の隣に出店を構えるはずだ。
其処を目指すため、転倒の懸念を欠片もせずに石橋の坂を降りる。
すると、すぐに風とは別の音が耳に飛び込んできた。
濁りの雑じったそれは、種族独自の喉からに発せられる独特のもの。

そう、カジートの声だ。
雪の中のカジートキャラバン
隊商らしく、商売についての話に熱を入れているようだ。
だがその会話も唐突に打ち切られる。
迫り来る奇妙な人間の姿に気が付いたからだ。

客人か否か、と判断をし兼ねて警戒しているかのようにも見えたが……その強張りはすぐに溶解する。


そして、素晴らしい偶然。
私を待つ、そのカジートの姿は、なんと―――

ムダールが居た
 「友よ!! また会えてカジートは嬉しいよ!!」


かつて共に旅をした友人。
ムダールの姿が、其処にあったのだ。


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↓↓ ウィンドヘルムの街拡張・景観変更(Dawn of Windhelm )※上記MODと併用可能だが街の一部分に競合アリ※ ↓↓
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