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  首狩りの異名。
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 「忌々しいな」
 「まったくだ」
淡々とした口調は、オークと言う種族独自の言い回しなのか、はたまた声音のお陰でそう聞こえるのか。
ある二人のオークは、彼方に見える谷を見つめていた。
峠に住まう悪漢

 「あの連中さえ居なければもう少し補給の頻度を上げられるのだがなあ」
革鎧を身に纏った、口調の軽い壮年のオークはため息を一つこぼす。
 「仕方あるまいよ。王国はハンマーフェルの軍勢は勿論、スカイリムからのハイエルフどもの相手もせねばならん。兵を割きたくないのだろう」
ぼろ服に身を包むオークが、悟った口ぶりで呟いた。
ガードハウス
 「……しかし、この事態に悩まされることが無くなるかも知れないぜ?」
 「どういうことだ?」
 「なんでも……奴等を殲滅させるよう王国からの依頼が、ギルドに降りたそうだ」
 「戦士ギルドに、か? 奴等は自分達のためにしか戦わないだろう?」
 「ああ、だから傭兵ギルドのほうにだってよ」
その数は侮れず
 「お上も無茶な要求をするものだな。あの悪漢どもは結構な手練の集まりだぞ。しかも数も多い」
 「……なんだがな。その依頼を請け負った奴が居るんだよ」

 「ほう、どんな奴だ?」
 「……流れ者の傭兵さ。かなり腕が立つんだぜ」
 「ふむ、面白そうだな。その男の名前は?」
 「そいつは……。そう、ハンマーフェルからの――――」



凝視、定め





―――――――

見張りをしている二人の男が、発見した。
こちらへゆっくりと歩いてくる者の姿を。
悠々
一風変わった姿からして、恐らくは余所者。
 「旅人、か? どうやらこの道がどういうものか知らない奴らしいな」
悪漢は口元を残虐に吊り上げ、武器を構える。
 「ま、いいさ。身ぐるみ剥いで殺せばい……おい!」
同じくして残忍に口元を歪ませていたもう一人の男が、言葉の途中で声を荒げる。

取り出されるのは
音も無く、それらは取り出された。
 「あの野郎、やる気か。俺達相手に……面白い!」
先に武器を構えた男が鼻息を荒げて、斜面へと躍り出た。
黒紫の双刃
 「ハハッ、大鎌とは随分とかぶいた得物だな……ん? 黒い刃の大鎌、だと?」
慢侮の表情にて後を続く男が、何か引っかかるかのようにして疑問を口にする。
そして大鎌を携えた男が、身を屈めた。

準備

 「ま、まさか!? あ、アイツは……!?」

だんっ。
地を蹴る音が、響き渡った。

―――――――


 「それじゃあレッドガードか。よりによってあの種族とはな」
 「まあそいつは傭兵なんだからよ。オークの過去の遺恨は抜きにしようぜ?」
 「それで、そのレッドガードの傭兵があの悪漢どもを片付けてくれると? あの連中は王国の兵達だって手を焼いた相手なんだぞ?」

苛烈

 「そのレッドガードは幼い頃からハンマーフェルの数多の戦場の前線を練り歩いてきた、筋金入りの戦士なんだよ」
 「ほう。その話が本当なら腕は確かかも知れん。あの国は今でも小競り合いが続いているからな。アルドメリの残した爪痕とも言うべきか」
 「……それで、そのレッドガードな。戦場じゃちょっとした有名人なんだぜ」
 「ふむ、一体どういった意味で?」

無慈悲

 「……武器、だ。でっけぇ大鎌をブンブン振り回して。しかも二本だぞ? それを自分の手足みてぇに扱うんだから、驚きだぜ」
 「大鎌? ははは、それは傑作だな。そんな武器で今まで生き残ってこれたとは、そのレッドガードはよほどの強運だろうな。それとも今までたいしたことのない相手としか戦って来なかったんじゃないか?」
 「そう思うだろ? 俺も最初はそう思ったさ。だがアイツは違うぜ?」

―――――――

 「ひぃぃ、や、やめてくれ! た、頼む! 命だけは助けてくれ!」
悲鳴
恐怖に身を震わせ、哀れなまでに許しを乞う、悪漢達の長。
累々と転がる亡骸からは赤く生臭い水溜りが作られ、死を象る。
 『おい、お前。デザートゴブリンって言う男を知らないか?』
大鎌を持った男は、静かに尋ねる。
 「し、知らねぇ……! し、知ってたら、助けてくれるのか!?」
 『いや』
慟哭
 「ひ、ひぃぃ!」


――――――――

 「気を抜いてたら竜巻みてぇに巻き込まれバラされちまう。それでいて矢よりも速えんだ、アイツの動きはよ……」
 「さっきから気になってたんだが……。その口ぶりからして、あんたはそのレッドガードのことを知ってるのか?」
 「まあな……伊達に歳は食ってねえ。俺も仕官する前は流れ者の傭兵だった。その時に、アイツと同じ戦場を渡り歩いたんだよ」
 「なるほど。道理で詳しい訳だ」

全滅

 「アイツと戦場で向き合った大半の奴は首を刈り取られちまう。死神みてえなヤツさ」
 「大鎌で、か。手足のように扱うって言うのは、まさにそのままか。恐ろしい奴だな」
 「……いつしかアイツは戦場で、こう呼ばれてたよ」

首狩り

 「『首狩り』ってよ」


―――――――

オークの国とは
ハイロック地方東部の山岳地、ハンマーフェルと程近いに峡谷に座する、オルシニウム王国。
いや王国と呼ぶにはあまりに小さく、その姿はさながら城塞都市。
長い長い差別と偏見の渦中にあるオーク達の歴史を象徴するかのように、創造と滅亡を幾度と繰り返してきた国。
そしてこの地に定住し、『国』として立ち上がるために今も尚、戦いは続いている。


―――オルシニウム王国内、傭兵ギルド前。

 『片付けてきたぜ。首の一つでも持って帰ってくりゃ良かったか?』
元締めと
 「いや、構わん。あの谷に住まうサーストファング一団の全滅の報告は既に国境警備隊から聞いた」
 『そいつは結構なこった。しかし、あんな連中に手を焼くようじゃあこの国の兵士もたかが知れてるな?』
青年の挑発的な言葉に一瞬眉を吊り上らせる、が。
傭兵ギルドの仲介役の男は構わず言葉を続けた。
 「あまり滅多な口を利くもんじゃないぞ……これが報酬だ。受け取れ」
革袋に包まれたそれを、青年に渡す。
いや、渡すと言うよりもその動作はむしろ、放ると言うべきものだった。
挑発的な言動を見せた青年に対する、ささやかな抵抗のようにも見えたが、青年は不遜な態度を崩さなかった。
報酬
 『あーあー、軽い革袋だこと。まあ軽い仕事だったし、当然か?』
金の入った革袋を掌の上で弾ませ遊ぶ青年。
礼の一言も述べることなく、その場を後にした。

 「……ガキが」
腫れ物
青年の背中が遠くになった時、傭兵ギルドの男が憎々しげに呟く。
 「しかし、あいつの腕だけは認めざるを得ませんな」
肩を持つかのように語るは、近くで様子を伺っていたギルドの一人だった。
その言葉を聞いてか、更に仲介役の男は悪態の言葉を続ける。
 「これだからハンマーフェルからの傭兵は好かんのだ。レッドガードはアルドメリ軍を相手に打ち克った強き民だとかなんだで、それを鼻にかけている連中が多い」
 「……あいつは、また違う気がしますがね」

―――――

穴倉みたいな酒場。
そこでは土の匂いが混じった酒と、つまみ代わりの塩が出される。
穴倉
石みたいに硬いパン。
見た目だけは立派なスイートロール。
酸化し過ぎたワイン。

加えて、淀んだ空気。
意地
土の壁を通して聞こえるのは、傭兵同士による殴り合いの喧騒。
死体から引っぺがした装飾品を売りさばく商人は勿論のこと、アルゴニアンの皮膚やカジートの毛まで取り扱っている者も居る。
死臭と腐臭、風呂を嫌うオークどもの脂汚れの臭いに、土の臭い。
劣悪と言い表すには、それすらも生ぬるい環境。

王国なんて名乗ってはいるが、所詮は張りぼて。
急造の街に上品さを求めるほうが間違っている。
そもそも、そんなものを求めてはいないのだが。


寝ても覚めても、想う事は唯一つ。

復讐。
故郷を奪った者への、尽きる事のない怨嗟。
肉親を惨殺した者への、果て無き憎悪。
ただ一人、運良く生き延びた少年は、時を経て青年へと成長を遂げた。
まるで牢獄
理不尽な暴力によって、唐突に全てを失った子供が、自分の力だけで生きていくにはどれだけの労苦があったであろうか。

少年は何でもした。
生きるために。
辛い時もあった。
悲しい時もあった。
死にたくなる時もあった。
あの時死ねたらばと考えた時もあった。
憎悪
だが、少年がそうして心を挫けさせんばかりの時にこそ、失った右目が痛むのだ。
その度に、少年は歯を食いしばった。
何はなくとも生きねばならないと、脚を踏ん張った。
脳内を焼き、爪先まで焦がす、この粘ついた痛みこそが、少年を強くした。
行き場の無い怒りが、ぶつけ様のない殺意が、振るう刃を狂気に煌かせた。
奇しくも、ハンマーフェルに残されたかつての大戦の残滓が、少年の刃を精錬させるための場となった。

そして、少年は人伝に聞いた。
己の故郷を滅ぼし、肉親を惨殺した者の名前。
『デザートゴブリン』と言う名を持つ、レッドガード。
右目を失う直前、文書で見た『ブラッドサンド団』と言う単語。
それを率いているのが、デザートゴブリンと言う男。

傭兵となった青年は風の噂で聞いた。
デザートゴブリン率いるブラッドサンド団は『オルシニウム』のどこかで活動しているとのことを。
だから、青年はこの地に足を踏み入れた。

だが奴等の足取りは掴めていない。
焦燥だけが、青年にひた募る。
誰もヤツの事を知らない。

何故だ。
何故だ。


――――――――――

ある日。

青年は、『ハーピー』と呼ばれる鳥の爪と悪魔の知恵を持った怪物が住処を作ったのでそれを壊滅させて欲しいと言う依頼を受注していた。
無論、ギルドに下ろされて来ていたものだったが。
掃討
いつものようにギルドにハネられてしまう以上、金額はたいした額ではない。
だが日銭は必要不可欠。
募る焦燥をぶつけて発散するには丁度いいと言えば、それは確か。
容赦無し
容赦の無い刃が、鮮血を舞わせる。
悲鳴が、鼓膜を震わせる。
真っ赤な飛沫を躍らせる。
紅が、地を彩る。

折り重なったハーピーの大量の死骸を踏みつけ、僅かながら憂さを晴らす。
靴底を通して感じられる肉の硬さに一抹の満足感を得ていた。
そして依頼を遂行させた証として、ある一匹のハーピーの首を刈り取り、青年はその場を後にした。


―――――

所移り、またオルシニウム王国。
傭兵ギルド前。

 『片付けてきたぜ』
終了報告
青年がハーピーの生首を一つ差し出すと、ギルドの仲介役の男はしかめっ面で、
 「ご苦労」
と、一言添えて報酬の金を渡す。
青年が金貨の入った革袋を受け取ったのを確認し、言葉を続けた。

 「そういえば、お前個人に依頼の話が来ているぞ。女からだ」
 『女だと?』
 「ああ。しかもかなり美人のな。クククッ」
逆撫
下卑た笑みを浮かべた仲介役の男に対し、青年は舌打ちで返した。
 『どんな依頼内容だよ』
 「内容は直接話すとのことで、聞かされていない。名前も名乗らなかった」
青年は呆れながら鼻で笑って返す。
 『話にならねえぜ』
 「まあ行くだけ行け。お前が不在と知ったら鍛冶屋の所に来るように、と伝言を頼まれた」

またしても、わざとらしく大きな舌打ち。
青年は内心毒づきながらも、青年は待ち合わせ場所である鍛冶屋の所へと足を向けた。

諾々
オークの住まう土地でわざわざ別種族の余所者に依頼を願うと言う部分が引っ掛かる。
そして、傭兵ギルドではなく個人に依頼したい、と言う事も気掛かりだった。
鍛冶屋は傭兵ギルドから道路一つ挟んだ先に位置し、そう遠くもない。
あれこれと思考を巡らせる間もなく、その待ち合わせ場所に着いていた。

遭遇
鍛冶屋の入り口の脇、壁を背にして立つ女の姿。
向こうもこちらの姿に気が付いたようだった。
燃えるような熱い銀色の瞳が、こちらを見据えた。

オークの女
 「お前が『首狩り』か? 私は『シアマー』。お前に仕事を依頼したい」


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