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  報いの刃を届けるために。
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地に響く轟音。
夕暮れの森には似つかわぬ其れは、木々を揺らし、幾許かの木の葉を降らせた。
開幕
緩やかな昇りになっている林道の先には侵入者を拒む木の柵と垣根。
生活空間としての敷居の如き役割を果たすのと同時にそれは、視界を阻む壁となる。

柵の側に佇む賊が、招かれざる者の存在に気付いた時には、既に遅かった。
夕闇の赤と黒の色彩に紛れ、矢の如く迫るその凶刃は、もう眼前。
斬
まるでリーキの先端に実った聚繖花序(じゅかさかじょ)を切り落とすかのように。
黒い刃に挟まれてあっさりと跳ねられたのは、首。
断面から舞う鮮血が夕闇に紛れ、黒く見える。

首狩り。
その通り名に、偽りは無い。
惨
 「な、何モンだ、テ……」
柵を破壊し、垣根の入り口となった扉を抜けてもなお、勢いは衰えない。
問答無用、賊の問いは言葉途中で打ち切られる。
その頭蓋と共に。

 「しゅ、襲撃だ!!」
別の賊が、叫ぶ。
瞬間、根城全体に広がる空気。
修羅場を潜りぬけてきた者達による、悪意、殺意、怒気、そして嗜虐の念。
それらが風に乗って舞う花の芳香の如く浸透してゆく。
切
地の底からゆらゆらと昇る湯気の様な空気、とでも言うのだろうか。
様々な感情を綯い交ぜ、腐泥にも似た臭い。
それらを感じ取るのは嗅覚ではないのに、まるで鼻を刺激される……常人であらば本能的に避ける、暴力の香り。
思わず二の足を踏んでしまうかのような、命のやり取りを覚悟させる負の匂いだ。

だが、それ以上の強い臭いが広がっていく。
刃が舞う
生臭さと鉄臭さをふんだんに帯びた、生命と死の匂い。
血の匂いだ。
狂気とも取れる刃が、根城の中を飛び跳ね、唐突に死を齎(もたら)す。
反撃の剣は、届かない。
一方的。
嫣然(えんぜん)にも似た情を顔に貼り付けた悪意の鬼が、次々と賊達を撫で回す。
断
嗜虐的でありながら、それは愛おしいかのように。
暴力の泥に包まれている間を、惜しむかのように。

死の風に飲まれた彼等の心は既に、恐怖と戦慄の坩堝。
勇猛なる牙を持った者達、と銘打っての『ブレイブファング団』……勇猛、獰猛で鳴らした栄光と言う名の悪名は、もはや面影が無い。
一人、また一人、瞬きをしている間に血祭りに上げられて行く。
声も無く、ただ地を蹴る音と金属が擦れる音だけを奏でて。

――表で騒ぎが起こっている。
その事には気が付いていた。
しかし悲鳴も何も聞こえない。
すぐに片がつく。
賊の長は、そう思っていたのだろう。

 『お前が、ブレイブファング団の長か?』

聞き慣れない男の声を、耳にするまでは。
長との対峙
 「!! な、なにモンだ!?」
青年の外套が翻ったかのようにはためくと、その後ろから姿を表すは、シアマー。
 「久しぶりだな……と言ったところで、貴様は何一つ覚えてはいないだろうが」
何層にも重ねられて厚みを与えた鋭い斧が、陽の落ちた闇で鈍く光る。
 『手下どもは全員始末した。それじゃあ閉めは任せたぜ、依頼主様よ』
賊の長に、青年は唇の端を吊り上げながら語って聞かせ、シアマーを見やる。
 「く、クソ……舐めやがって!」
賊の長が背中の武器に手を掛けた瞬間には既に――――
 「遅い」
裁きの斧
 「ぐぼ……っ!」
一振りで、二撃。
鋭い刃、重い刃。
賊の長にそれらが叩き付けられ、そして口元から声と共に溢れ出る血。
斧を身に受けた衝撃で壁に打ち付けられた賊の長の身体は、あっけなくそして力無く崩れて落ちた。

物言わぬ姿
 「……母よ。仇は取った」
暗闇の中で黒い水溜りが広がってゆく中、シアマーはそう小さく呟いた。


―――――――――――


 「物心ついた時、私は賊の……ブレイブファング団の中に居た。母と共にな」
夜の静けさに
寝台に腰掛け、独り言のように呟くその声は、とても寂しげだった。
 「母は……奴等に襲撃されて滅ぼされた村の生き残りで、ブレイブファング団の連中に無理やり連れ浚われた」
風のない夜闇、声以外の物音はカンテラで燻る炎の音のみ。
 「賊が女を浚う理由なぞ言うまでもなかろう。つまり私は……勇猛な牙を持った連中のご落胤(らくいん)と言う訳さ」
暗く、寂しげ
自嘲するような薄笑いを交ぜた声音。
 「私が一人で鎚を振るえるようになった時分のことだ。母は私に逃げるよう訴えた……この連中と共に居てはいずれ私にも毒牙が掛かると」
 『賊連中ならそりゃあそうだろうな。よくある話だ』
街の中で依頼の話をしていた時とまったく同じ言葉を返す青年。
淡々とした語り
 「ある日、ボスが来るだとかで酒宴を執り行われる日があった。ブレイブファング団とは、元々はとある賊の枝組織なのだ」
シアマーは青年の方へ顔を向け、
 「大元の賊の名は……ハンマーフェルにてその名を馳せた悪党、『ブラッドサンド団』だ。首狩りよ、お前の探している『デザートゴブリン』が発足した略奪団だ」
青年の肩が反応し、一瞬揺れた。
 「枝組織が上手くやっているかどうか確認しにきた、それとみかじめ料の徴収と言う訳だな。男達が酒に溺れるその晩、私は母の手筈でアジトから逃亡……いや、脱走に成功した」
なおもシアマーは続ける。
 「死に物狂いで走り続け、無事に街まで辿り着けたのは幸運と言う他は無いだろうな……。身寄りの無い物乞いとしてのスタートだったが、賊の根城でゴミのような扱いを受けていたよりもずっとマシだ」
 『苦労してんだな』
青年が何気ない口ぶりで返すがその声は震えていた。

 「それから数日後、街の商人が母の亡骸を運んできた。あまりにも無残だったために哀れに感じて墓を設けてやろうと思ったそうだ」

遣る瀬無い憤り
 『よくあることかも知れねえが、ひでえ話だ』
青年の喉の奥から漏れる吐息には、確かな怒りが篭っていた。
 「母は私を逃がした事を問われ、殺されたのだろう……。私はその時に決めたのだ。奴等に死の鉄槌を。復讐を、とな。だが……」
 『一人で挑むには荷が重かった、か』
 「そうだ。私自身も研鑽したが、流石に一人ではな……。そこで、デザートゴブリンを付け狙うお前の事を知った。そしてヤツの足取りが掴めず、あぐねている事も」
訥々と語られる事の経緯。
それは、時間を費やすには十分過ぎるほどの中身だった。

朝日が昇り
 「それからしばらくして、ブラッドサンド団は名を変えた。オルシニウムで団の規模を大きくしたデザートゴブリンは、名前を『黒牙団』と変え、傭兵団として活動を始めたのだ」
なるほどな、と青年はひとりごつ。
 「そしてデザートゴブリンも自身を『バーレン』と名乗り、各地を転々としているのさ。こうして略奪団時代の枝組織を残したまま、な」
 『考えが浅かったぜ。まさかヤツが名前を変えてるとはな……』
シアマーの齎した情報に、青年は奥歯を強く噛む。
 「ヤツは今、ハンマーフェルで活動している。『黒牙団団長バーレン』として。名前こそ傭兵団だが、戦場での行動は略奪団そのものだ。金を積まれればあっさり裏切るところとかな」
 『……ヤツがくたばったら、皆が手を叩いて喜ぶってことか』
青年は背を預けていた壁から離れると、シアマーの方へと向き直る。

一時の道
 『で、アンタはこれからどうすんだ?』
 「どうする、とは?」
青年の問いに、シアマーは目を丸くしながら答えた。
 『俺はヤツに故郷と右目を奪われた……。俺の復讐は、アンタの復讐の幹……いや、根っこと言うべきか? それを潰すこと』
 「………」
青年は言葉を続ける。
 『だが聞く限りじゃあヤツの徒党の規模は相当だろうからな。流石に俺一人じゃ厳しそうだ』
 「私に手を貸せ、と言っているのか?」

青年は唇の端を吊り上げてさぞ楽しそうに笑った。

 『持ち合わせは少ないけどな』


――――――


眩しい太陽と乾いた風。
ろくに整備もされていない谷の街道を歩く二つの影。
路は安全
 「首狩りよ、あの柵の向こうには『サーストファング』と名乗る賊の一味が」
 『ああ、よく知ってるぜ。賊の長が二人の珍しい連中だったな』
 「……そうか」

その言葉で、意味を察したシアマーはそれ以上物事を尋ねなかった。

荒涼
傾斜を昇った先、見晴らしの良い一角で二人は足を止める。
二人の見つめる先、そこには砂上の楼閣に等しき城砦があった。
 『もう二度と来ねえ』
 「そうだな。それがいい。私も恐らくそうするだろう」
青年の吐き捨てるかの如き言葉に、シアマーは頷いて答える。

彼方に見えるオルシニウム王国を一瞥したのは、ほんの僅かな感傷だったのかも知れない。
だがそれに浸る事は無い。

境の谷
谷を進み、荒野を進み、やがては峡谷へと進む。

そして――――


さらばオルシニウム

二人は、ハンマーフェルへと足を進めて行ったのだった。



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かなり広い土地追加MODですが、未完成のためクエスト等はありません
遠景描写等もかなり弱いです
容量が大きいため、PC及びメモリ使用量に注意
ナビメッシュが一切敷かれていないため、フォロワーと一緒に歩くには別の追従系MODを使用しないといけません