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  連鎖の果てに。
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 「誰だぁ、てめぇは」

独り言を呟くように小さな声であった。
しかしそれは、しかと届くものであった。

不敵、そして不遜な態度がその声から見て取れた。
バーレンことデザートゴブリンは顎に手をやり、眉を顰めながらしばし黙考。
やがて、
清算の開幕
 「……んん? 大きな黒い鎌を二挺持った男? その傾いた出で立ち、お前がもしかして『首狩り』か?」
噂には聞いていたが、と付け加えた。
 『嬉しいぜ、ようやく貴様に向かい合えた』
青年は熱の篭もった声で呟く。
その熱からはひしひしと殺意、敵意などが煮詰められた腐泥の如き感情が混濁としていた。
しかし、その感情を向けられた相手は臆する様子は無い。
 『レッドロックの港町……かつて貴様に蹂躙され、滅んだ小さな町』
青年の声が、震える。
殺意、敵意に加えて綯い混ぜられるは、歯を震わせる程の憤怒。
 『覚えはねえか、バーレン……? いや、デザートゴブリンッ!』
鼻から吹き出る吐息は、血気と興奮に満ち満ちて奇妙な香りすら漂わせていた。
 「レッドロックの? 知らねえなぁ」
バーレンの悪びれない様子から、根っからの悪人と言う存在を初めて知ったのかも知れない、カジートの少女。
悲しみの声
 「なんて、ひどい……」
憂うかのように、囁かれた。

 『だろうな……だが俺は覚えてるぜ。貴様に右目を射られ、地面に叩き付けられて意識を失いながらもな……。はっきりと俺の耳が、失った右目が、覚えてるぜ』
青年の憤怒は、身を震わせる程までに。
激情の蓋
 『貴様のその下衆な声を聞く度に、右目がズキズキと痛んで教えてくれるんだよ!!』
バーレンは青年が激高する様をまじまじと見つめながら、またもや刹那の黙考。
そしてようやく――――
 「ああーああー」
と、合点がいったかのように頷いた。
悪意の無い悪とは
 「そういや思い出したぜ。確か初めてクロスボウで人を撃ったあん時。右目にブッ刺さって吹っ飛んだガキの事をよ」
記憶に奥に眠った場景を掘り起こし、
 「まだ俺が駆け出してちょっとだった頃の話だったか。いやー懐かしいなぁ。顔面にあれだけ勢い良く刺さったのに、よく生きてたもんだ」
 『思い出して貰えたようで何よりだぜ』
 「まさか『首狩り』の正体があん時のガキだったとは。世間は狭いもんだなぁ」
悪びれる様子も無ければ、暴力の愉悦に破顔する訳でもなく、まるで日常的な会話を交わすかのような物言いだった。
青年は、大鎌を強く握り締める。
絶
 『町の皆の、そして父の仇……取らせて貰うぜ』
その様子を見て、
 「ククッ、面白ぇ……面白ぇ! 仇討ちやら何やらで俺に挑んでくるヤツは多かったもんだがよぉ……」
バーレンも同様に自身の得物へと手を伸ばした。

 「こんなに面白ぇ形なのは初めてだぜぇ! ククッ、ククククッ!」

ようやく、青年にその表情を見せた。
口の端を吊り上げ、歯を剥き出し、暴力に嬉々として熱い吐息を漏らすその姿を、本性を。
バーレンは鉤状の刀身をした剣を、左右の手に各一本ずつ納めた。

開戦の狼煙が、昇る。

互いに牽制し合う。
対峙するのは初めての者同士。
先の機を
培ってきたものも違えば、武器も違う。
『首狩り』の異名、その不適合とも言える得物で戦場を駆け抜ける青年の強さは、考えるまでも無い。
バーレンもまた、大規模の傭兵団を率いた男。
狡猾さはもちろんのこと、何より上に立つ者としての実力、傭兵と言う野蛮な者達が統率を『される』と言う部分を踏まえれば、その腕は桁外れのものなのだろう。
未知の相手に対する警戒心から、お互いに先手の機を伺うように、左右を行き来しながらの展開。
だが――――
 『っらあ!!』
 「ぬお!?」
悪対絶
値踏みし合う一時を終わらせたのは、青年による豪速の一刃。
――――予想外。
いや予想以上。
剣よりも遥かに重く、そして振りの大きいはずである大鎌が、瞬時に襲いかかってきた。
バーレンはあまりの出来事に思わず驚愕の声を上げた。
そして同時に、幾重にも貼られて分厚く加工された革の上に更に鉄板を重ねた防具が、容易く切り裂かれた。
 「ちぃっ!」
桁外れの
 『ぐっ!?』
すかさずバーレンの剣が反撃として振るわれる。
後方に飛び退いて避けたつもりだった、が……その鋭い先端が青年の腹部を掠め、鮮血が舞う。
切れ味の鋭すぎるその剣の傷は、痛みすらも遅延させる程のものだった。
 「やるじゃねぇかよ、首狩り!」
 『うるせぇ!!』
それは不毛にも
バーレンの振るう剣。
青年の振るう大鎌。
刃がぶつかり合い、けたたましい金属音が乾いた谷を反響する。

桁違い。
今まで対峙して来た相手とは、次元が違う。
剣と刃
バーレンが今の今まで生きぬいて来れたのは、純然たる『強さ』であるのは紛うことなき事実。
型と言うものは存在しない、剣術というには余りに粗野。
早く、鋭く、そして変幻自在。
まさに『戦場』を体現した剣の技だった。
しかもそれが二本。
バーレンと対峙する事は『死』を意味するものだったのかも知れない。
気を抜けば一瞬で首を切られる。
その鉤状の刃もまた首狩り、いや『首切り』だったのかも知れない

しかし――――

 「うぉ……!」
烈、刃
青年は、闘えた。
失った右目に宿った殺意が、敵意が、復讐心が、その刃を比類無きものまでに練り上げた。
数多に吸った血が、幾百とも言う程刎ねた首が、青年自身をここまで練り上げた。

 『そら、どうした!』
膝を折ったバーレンに挑発の言葉を投げる。
 「ク、クククッ! 面白ぇ、面白ぇぜ!!」
確かな負傷となる一撃を受けながらも、尚愉悦。
不敵に笑う
 「いいぜぇ、首狩り! 此処に来るまでに居た俺の側近をブチ殺してきただけはあるなぁオイ!」
 『準備運動にもならなかったぜ、あんな連中じゃあよ!』
青年の凶暴な口ぶりに、呵呵と笑う。

 「クク、クククククッ!! あぁ最高に面白ぇよ!!」

喜悦、愉悦、歓喜。
それは決して嘘偽りのないもの。
戦場に身を置きすぎたが故の狂気なのか。
だが
刃を掠めて、切られ、受け、斬られ。
それでもバーレンは退かない。
青年もまた引かない。

大鎌による刃を受け続けて精彩を欠いたバーレンの剣は、もはや恐るるに足らないものだった。
鉤状の剣の攻撃は青年に掠める事もなく、避けられ、弾かれ、除けられ。
鳴り響いていた剣撃の応酬の音色は、やがて途切れ始める。

そしてついに――――

ズドン、と言う、今までとは明らかに違った鈍い感触が響く。
それは確かな手応え。
壮絶にして
 「うごぁ……!!」

バーレンはその身を刃で裂かれたのではなく、刃を『叩きつけられた』のである。
つまりは、直撃を受けた。
 「お、おおぉぉ……、く、あああ……!?」
溢れる鮮血、力の入らぬ下肢。
驚愕の事態
ついには、青年に背中を見せる形となって、くずおれた。
先ほどの一撃は、決定的だった。


 『終わりだ、バーレン』

石畳に血の海が広がってゆく。
バーレンがその身から溢れさすもので。
 「クク、ククク……どうやら俺も、ここまで、みてぇだな……」
戦意、潰えし
喀血と共に出る言葉は、今も尚喜びに満ちていた。
青年はその異様な最期を迎えようとするバーレンに対し、警戒を怠らぬままに詰め寄る。
 『俺も嬉しいぜ。こうして貴様をこの手で殺せると思うとな』
戦闘の高揚と疲労に汗を垂らしながらも、呟いた。
そしてバーレンは青年が予想だにしていなかった言葉を口にする。

 「 あぁ、嬉しいぜ……最高、だぜぇ……ククッ、ようやく、俺を殺してくれるヤツが、来てくれた……クククッ」

 『……なんだと?』
そして雄弁に
 「俺はよ……生まれつき、エルフみてぇな尖がった耳を、してた……別に、エルフとのハーフでも、なんでもねぇ、ただのレッドガードだってのに、よぉ」
肩で呼吸をしながら、バーレンは己の身の上を語り始めた。
 「たった、それだけだ……それだけで、皆は、俺を爪弾きにしやがった。親父も、お袋も、隣の家のヤツ等も、町のみんな、みんなそうだった……俺を、エルフの、呪いがかかった忌み子だって、よぉ……ぐ、カハッ」
再度の、喀血。
 「だから、俺は、決めたんだよ……存在が許されねぇ、この、クソみてぇな、世界に、復讐してやるって、よ……とことん、嫌われて、嫌われ、て……嫌われ抜いて、やるって、なぁ」
青年は、黙って聞き入る。
 「だがよ、俺の復讐は、終わらねぇ……終わりがねぇ……、いくらやっても、終わらねぇ……」
バーレンは、言葉を続ける。
 「それでも、嫌われるこたぁ、やめられねぇ……親父も、お袋も、町の連中みんなを、ブチ殺して焼き払った、あの日からよぉ……」
 『ふざけんなよ……』
青年は、最後の仕上げをすべく、再び詰め寄る。
審判の時間
 「大真面目、だぜぇ……俺は、よぉ」
バーレンは最後の力を振り絞ってか、青年へと向き直る。
 「俺を満たすのは、暴力だけだった……酒くらおうが、女抱こうが、満たされねぇ……だから、俺は、どっかで、『終わり』たかった……」
 『懺悔のつもりか? てめぇの都合が何であれ、失った俺の右目は返ってこねえ。町の皆も、愛する父も……! 返ってこねえんだよ!』
 「だがよ、俺は、強かった……俺を、終わらせ、られるヤツなんざ、現れねぇとわかった……だから……俺は、俺を……『終わらせる』ことの、できるヤツ、を……『作ろう』と、躍起に、なったんだ、ぜぇ……」
ククク、と喉の奥で低く笑う。
 『……おい。それは、つまり……』
刻一刻
 「あぁ……言った、だろ?『仇討ちやら何やらで俺に挑んでくるヤツは多かった』って、なぁ……?」
青年は再び、腹の奥底が憤怒で熱く煮え滾るのを感じた。
 「クク、クククッ……つまりは、よぉ、首狩り……てめぇはな……俺によって『作られた』んだよ……俺を、終わらせる、ために……!」
ぞわり、と足元から何かが這い上がる。
 「あぁ、嬉しいぜぇ……! やっと、やっと、終わらせて、くれるヤツが……『出来上がった』んだなぁ!! クククク!」
青年の、呼吸が乱れる。
その刹那を
憤怒を通り越した、何かが身を振るわす。
 「さぁさぁ、た、頼むぜぇ! ゲホッ、お、お前は、俺を、殺すために……俺のために、ここまで、来てくれたんだから、なぁ!?」
バーレンの声は、死に行くものとは思えぬ程の、張りのある快調なものに変わった。
 『……うる、せぇ……ッ!!』
畏怖
バーレンの首へ、刃が添えられる。
 「あぁ、今なら神様とやらも信じられそうだなぁ!ゴホッ! 最高だぜぇ!!」
 『だまれ……だまれ! だまりやがれ!!』
 「ありがとうよぉぉぉ!!! ククク!! クハハハハ!!」
凄惨、そして清算
 『だまれぇぇぇぇええええええッ!!!』

青年の雄叫び。
それは悲痛な、悲鳴にも似た、実に奇妙な咆哮。

な

刃が、交差する。

ぜ

戦場で手馴れた行為なのに。

だ

何故か。

ろ

そう、何故か。

う

とても、とても。

………

苦しかった。



静寂の谷
頭を失ったバーレンの身体が、痙攣する。
そこから溢れる赤い血液が、死を明確に彩る。
終わった。
復讐は、終わったのだ。
長かった。
ここに辿り付くまでの、数多の艱難辛苦。
それも今や、良き追時となる。
目的は、果たしたのだ。
己の胸に抱いたものを、貫き通したのだ。

殺された故郷の皆も、愛する父も、これで浮かばれる。

そして失った己の右目に宿ったものも、消える。

そう、すべてが清算され
哭

 『うおおあああぁぁぁぁーーーーーー!!』

咆


喉から血が噴出するかと思うくらいの大きな声が、腹から自然と出ていた。

かつてのあの時と同様に、叫ばずにはいられなかった。

怒りでも、喜びでも、何でも無い。

慟哭。
そして、虚無。
去来した感情は、正にそれだった。

何故か。

それは――――


青年の傍らに転がるかつての悪漢、バーレンこと、デザートゴブリンの首が――――



安らぎ

とても安らかに、微笑んでいたからだった。




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