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  残った左目に宿るもの。
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砂漠の国で繰り広げられていた戦いは最後の局面を迎えようとしている。
戦乱の雲は、やがて晴れるだろう。
皆がそう実感していた。
街を行き交う人々の表情も明るい。
武器以外を取り扱う商人も増えた。
街は、国は、着実に変わって行っている。

それに伴い、血に飢えた狂犬や戦場でしか生きられない壊れた者は、更なる戦を求めてこの地を去っていっている。
中には仕官する者も居たそうだが、大抵の者は門前払いに終わったと言う。
街からは徐々に徐々に、流れ者達が消えていった。

 「我々もお役御免と言った所だな」
戦は終わり。
既に街の酒場には、傭兵の居場所は無い。
乾いた空気のお陰で一層煌いて映る銀河の星々の下、中央広場のベンチに腰掛けたシアマーが、青年に語りかけた。
 『……解りきってた事だぜ』
噴水の側の支柱に背を預けながら、青年はぶっきらぼうに返す。
 「それで、首狩りよ。お前はこれからどうするつもりだ?」
シアマーは青年の無愛想な態度を気に留めず、そのまま言葉を続けた。
 「数々の武勲を立てたお前だが、仕官したとしても首を縦に振る者は居ないだろう。お前を飼うには少々……いや大分骨が折れるしな」
ああ、と青年は短い返事で答える。
 『ついでに言やぁ、もう大鎌を握るつもりも無ぇぜ……『首狩り』は死んだんだ、あの日によ』
その言葉を聞きシアマーは「そうか」と一言発した後、
 「もう一度尋ねる。お前はこれからどうするつもりだ?」
と言葉を続けた。
黒い刃はもう
 『………もう俺には何も残ってない。生き甲斐も、黒い刃も、首狩りの名も。全てを失った』
ぽつりと呟いて一拍置き―――
 『俺は、俺自身を探しに……旅に出る。俺自身の、俺のための人生を始めるために』
そう言った青年の表情は、穏やかだった。

 「そうか……」
相棒の憂慮
青年の言葉を飲み込んだシアマーは、その顔を見つめ、続ける。
 「ならば、そのための支度もしなければなるまい。流石に拳一つで野を往く程愚かではないだろう?」

――――――――


翌日から、青年は鎚を握った。
シアマーの指導のもと、鉄を叩いて混ぜる事を教わった。

熱して打つべし
かつては剣や矢の作成に追われていた鍛冶場は、時折、鍛冶場の主が覗きに来るだけで誰も居ない。
指導は十分に行えた。

元々青年の持っていた大鎌は、自分自身で作成した特別な物。
つまり鉄を打つ事自体にそれなりの覚えがあった。

その土台があったお陰か、青年は砂に垂らした水滴の如く、シアマーの鍛冶技術を吸収し身に付けていった。
打った鉄を折り、重ね、打ち、潰し、重ね、打ち、伸ばし、重ね……それと同時に日数もまた重ねて。


そして――――

 「上出来だ」
自作の剣の完成
自らが打った剣を凝視する青年の隣で、シアマーは満足気に呟いた。
 『砂鉄と鋼鉄の融合か。こんな製法があったとはな』
 「手間と工程が掛かりすぎる故に数打ちの剣には出来ん製法だ。それだけ芯が強い剣に仕上がったのはお前自身に鍛冶のセンスがあると言う事だな」
もちろん私の教え方も良かったが、と付け加えると、青年は鼻で笑いながらもどこか愉快な様子だった。
 『お誉めに預かり光栄だね』
唇を吊り上げた一見皮肉めいた笑みであったが、不思議といつもの嫌味さは抜けていた。

 「出来の良い生徒には褒賞をやらねばいかんな」

シアマーはそう言いながら、鍛冶場の方へと向かって行く。
シアマーの鍛冶
ふいごと繋がった綱を握り、火を煽る。
充分に熱された火床から鉄を取り出し、一定の間隔で打つ。
鉄を折り、重ねて伸ばしては、また火にくべる。
よく似合う
無駄のない精錬された動作。
オークの女は生来の鍛冶職人だなどとよく言われるが、目の当たりにするとそれは大袈裟な表現では無いと青年は痛感する。

伸ばした鉄に黒檀を重ね、また打ち、それらを混ぜる。
そしてそれは奇妙な形へと変貌を遂げていく。


 「出来たぞ。着けてみろ」
送呈
 『これは……?』
シアマーの手から差し出されたそれは、とても奇妙な形状のものだった。
そして「着けろ」と言われても、それをどうやって着けるのかが解らない。
だが何となく、こうだろう、と言う感覚で、渡されたそれを着けてみた。

黒き眼帯
 『こう、か……?』

それは、眼帯だった。
寸法を測った訳でも無いのに、それはぴったりと肌に吸い付くかのように収まり、右目を覆った。

思えばもう見えない右目を無意味に晒す必要も無い。
だが青年にとって右目を隠す、そして護る、と言った思考が欠片もなかった。

こぼれるものは
 「似合うぞ」
僅かに上擦った声音であったが、青年はその違いに気が付かないように振舞った。


――――――――

砂が夕陽で赤く染まる時間。
二人は、見張り塔から街を、砂漠を見下ろしていた。
絶えず兵が駐屯していたこの塔も、今となっては警備の兵士が時折見回りに来るだけ。
戦の匂いは消え、ほとんどの傭兵が街から去っていった。

 「まずは何処に行くか、決めてあるのか?」
乾いた風を浴びながら
乾いた風を浴びる青年の背に問いを投げる。
 『……決めてない』
 「ならば……『シロディール』に行くのはどうだ? サルモールの手が掛かっているとは言え、あそこはタムリエルの中心だ」
黄昏る空を見つめ続ける青年に、シアマーは言葉を続ける。
 「緑も豊かで住まう種もまた交々。古代人の遺跡も多々残っていると言うぞ。見聞を広めるには良い所だと私は思うのだが、どうだ?」
前向きな返答を期待してか、若干声が浮ついているのが解る。
以前の青年だったならば 『面白そうだ』 などと軽口を叩きつつ唇を吊り上げ、肯定の合図を送っただろう。

しかし―――


左目に宿りし
 『自分の行く道は、自分で決めるさ……』

感情のこもらないかつ小さな声で、青年は呟き返す。
その左目の先に見据えたものは、恐らく相棒であるシアマーとは違ったものだったのだろう。

 「……そうか」
それもまた
シアマーもまた、呟くようにして返した。

そして、二人はそのまま言葉を交わさなかった。
夕陽が完全に沈むまで、終始無言だった。


――――――――

それから数日後。
国境にある渓谷に立つ二人の姿があった。

青年は背嚢を抱え、腰には剣を差し、肩には外套を携えて。
相棒であったシアマーは、いつものままで。

 「もう行くのか」
あてのない旅へ
 『ああ……』
国境である渓谷には草が茂り、吹き抜ける風も爽やかで心地よい。
天候にも恵まれ、まるで旅立ちを祝ってくれているかのように感じられた。
 『すまねえな、見送りさせちまって』
憂いは無用
 「………いや、気にするな。私が好きでやっている事だ」
青年の口から初めて聞かれた畏まった言葉にうろたえそうになりながらも、シアマーはいつも通りの声音と態度で返す。
 「出発には申し分無い日和だな」
 『ああ』
 「こんな事を言うのも奇妙な心持だが……元気でな」
 『ああ』
 「あと、生水は飲むなよ。かならず沸かしてから飲め」
 『ああ』
 「塩を大事に扱うんだぞ。水と塩さえあれば数日は何とかなる」
 『ああ』
 「街では背嚢は無闇に置くなよ。いつ盗まれるか解らんからな」
 『ああ』
 「金子(きんす)の価値の違いに気を付けろよ。宝石を手に入れたとて高値で売れるとは限らん」
 『ああ』

シアマーは保護者のような忠言を幾度も繰り返す。
そして青年はそれに呆れる様子もなく、頷いて返した。

そのやり取りがしばらく続き、シアマーがようやく舌を乾かせた時に、
 『最後になったがよ』
青年は返事以外の言葉を口にする事ができた。


笑顔
 『短い間だったが今までありがとよ……それじゃあ、元気でな』

別離の言葉と共に、青年は微笑んだ。
右目を失って以来、唇と頬を歪めて笑う事しか出来なかった顔が、自然と。

 「……ああ。お前も、元気でな」

初めて見る青年の笑顔、その事象に感動する訳でもなく、驚愕する訳でもなく、シアマーは一言で返した。
別離としては、とても淡白な一言で。

別れを惜しむ握手をする事もなく、抱擁をする事もなく、二人は互いに別の方向へと踵を返し、歩き始めた。

そしてその背に声を掛ける事もなく。

これが別離


振り返り


振り返らず


一抹の


それぞれの道へ



――――――――――――


長い、長い、旅の始まりだった。


「首狩り」と呼ばれた自分の荒んだ心を、忘れるための。

失った自分の心を取り戻すための。

そして新たな自分を見つけるための。


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