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 追懐と今。
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己の過去を語るのは珍しい事ではないが、こんなにも長く語ったのは初めての事だった。

鼻腔の奥に感じる、つんとした僅かな痛みは感傷によるものだ。

しかし、涙が出るような事はなかった。
胸が締め付けられる事も無ければ、腹が重くなる事も無い。

だが、過去の振舞いへの後悔が無いのかと尋ねられれば嘘になる。

 『それから私は様々な所へ行ったんだ。灰が降る街や、隣の国の民族との戦いが続く街、狼を飼いならす猟師達の村……』
懐かしい光景が、風景が、脳裏を巡る。
 『何日も食事が出来なくてお腹を空かせる事もあったし、何日も水が飲めなくて喉がカラカラになる時もあった。それはとてもとても辛いものだった』
しかし、と私は付け加える。

追従からの帰還
 『それでも世界は、残酷なまでに美しく……時間は、何をせずとも皆に平等に過ぎていくものだった。そして人間とは、それを無意識に噛み締める事……。生きる事とは、そうなのだと、旅の最中にようやく気付いた』
寝台の上で寝転がる灰色の瞳は、ずっと私を見つめている。
私は語った全てを、生きてきた軌跡をじっくりと噛み締め飲み込むかのように。


 『……私は今まで奪ってきた命や、若かりし頃の過ちの分だけ、誰かに優しくせねばならない、と思い始めた。世界が、時間が、こんなにも残酷なのだからと……』


この一言。
それを言うだけのために、ものすごい時間を掛けてしまった。
己の恥ずべき過去を語って聞かせ、無情と無常の混濁とした己の価値観を吐露した。

 「すごいですね……おじさん。そうやって考えられる、だなんて……」
寝物語には不相応だが
耳を傾けていた少女は、私の話が終わったと判断したのか口を開くと、小さな声でそう呟いた。
だが私は首を横に振る。
 『すごくなんてないさ。それでも私は暴力を捨てないし、慈善活動に従事しているわけでもないからね』
 「でも……そのまま、盗賊とかにも、なれたんですね……だって、おじさんは……強かったんですから……その力で、もっとワガママに生きることも……できた、はずですよね………?」
少女は慈母の如き柔らかく暖かい微笑みを私に向ける。
 「おじさんは、そうしなかったんですよね………だって、それは……そうしたく、なかったから、なんでしょう……? 本当は………最初から……おじさんは………」
重たそうな瞼を震わせながら尋ねる姿は何処か儚く映ったが、それ以上に苦しそうにも見えた。
いや実際苦しいのだろう。
そんな状態の少女に対し、求められたとは言え長話をしてしまった己を悔いた。

 『……長い時間付き合わせてしまったね。さぁ、薬を飲んで眠るといいよ』

静かに眠る
話を無理やり切り、ムダールから譲り受けた薬を手渡す。
これ以上起きている事を望んでいないのを察したのか、少女……ベリー・ベリーは、薬に口付け飲み込むと、すぐに瞼を閉じた。
 「おやす、み……な、さ……」

言葉が続くに連れて掠れていく声。
眠りの沼に浸かっていた意識が、沈んでいったのだろう。
数える間もなく、小さな寝息が聞こえてきた。

それを見届けた私も、椅子に腰掛けたままゆっくりと瞼を閉じた。

――――――――――

後頭部に降る喧騒。
頭を屈め背を丸めた状態で眠りについたからだった。
指先や体内に宿る僅かな熱感、脳内に付着した惰眠の泥が、同じ姿勢で眠り続けた事による疲労感だと言うのを伝える。

背筋を伸ばし、深呼吸を一つ。
頭の中の積もった埃が払われたかのように気分が晴れてゆく。
そっと離れる
寝台には、まだ眠りにつくベリー・ベリーの姿があった。
静かな寝息をたて、そして安らかな顔。
一見、体調は快復したかのように映る。

私は何か食べるものでも見繕おうと、物音をたてず静かに立ち上がって部屋を後にした。

 「よう」
ミック・ブーン
部屋から出た私に声を掛けたのは、ミック・ブーンだった。
 『おはよう。昨日は本当に助かったよ、ありがとう』
挨拶と共に、ミックに頭を下げる。
 「よせよ、昨日さんざ頭を下げたじゃねぇか」
こそばゆいのか否か、照れ笑いを浮かべる男の様子を見て、私は微笑む。
奇妙な無言のやり取りの後、ミックはすぐに真顔に戻る。

 「あのお嬢ちゃんの容態がどうなったかは知らんが……。まっ、しばらくはゆっくりしたらどうだ? さっき聞いた話だが、女将の好意で部屋は長く貸してくれるらしいぞ」

……ああ言う言動をする者が、そんな好意など示すはずもないのは解りきっていた。
恐らくはミックが何らかの手を回してくれたのだろう。
同族のよしみとは言え、気遣いを越えた無償の好意に頭が下がる思いだった。
 『わざわざ伝えてくれてありがとう』
私は何も聞かず、ただ礼の言葉だけを述べた。

  ――――――

体調は回復
―――しばらくして。
ベリー・ベリーも起床してきた。
寝惚け眼を瞬(しばたた)きながらであったが、体調はすっかり快復したようにも見える。
顔色も良いし、声音も軽快だった。
この回復の早さは、やはり若さだろうか等と他愛もない事を巡らせていると、不意に少女の胃が鳴った。
思えば昨晩から、ろくに食事を摂っていない事に気が付いた。
照れ笑いを浮かべる様を見て、私もつられて窃笑を零す。

スープで身体を温めて
ここの宿屋には料理人が居るため、私達は朝食にスープとパンを注文する。
普通の宿屋とは違い、伝統ある古都の宿泊施設ともなれば、やはりこう言った役職の者が勤めているものだ。
素人の作る料理とは違い、二口、三口と食事を進めるほどに感じる味の深みと言うものは、やはり本職によるものだろう。

 「美味しいですねぇ~」

夢中で頬張る最中に、私に向き直って同意を求めたのは……恐らく、我を忘れて食事に没頭していた事に気付いての事だろう。
言葉では返さずに頬を緩めて返すと、ベリー・ベリーは僅かにこそばゆそうな微笑みを浮かべた。


 ――――――――

食事を終えて―――私達はウィンドヘルムの街へと繰り出していた。

  今日一日くらいは、ゆっくりしようか。

宿屋で食事を終えて休憩中の際に私はそう言った。
無論ベリー・ベリーの体調の万全を期するためでもあったが、せっかく旅をしている以上、こういったゆっくりする時間も必要なのではないかと考えたからだ。
そしてもちろん、宿の部屋を確保してくれたというミックの配慮ありきで至った思考。
ベリー・ベリーは幼子がはしゃぐかのように喜んだ。

 「これは、なんですかぁ?」
ちょっとした観光
ウィンドヘルムの正面扉入り口を抜けてすぐに佇む大きな石像を差して尋ねてきた。
 『イスグラモル、と呼ばれるノルド達の英雄だね。この街を作った人だよ』
血生臭い逸話はせず、端的な部分だけで説明をする。
私の言葉に「へぇ~」、と感心しながらイスグラモルの石像を見上げる。
そしてしばらくして口を開いた時に出た言葉が、
 「このおじいちゃん、ずいぶんおっきな人だったんですねぇ」
と言う、実に素直で視覚的な感想だった。
 『…………そうだね』
この少女の芯は聡い事を知った私であったが、ここは敢えて肯定して済ませる事にした。


私達はイスグラモルの像の前を横切り、市場の方へと足を進める。
薪を切る者や鉱石を運ぶ者、束ねた藁を運ぶ者などとすれ違いながら。
市場へ
 「わぁー」
戦時中かつ寒冷地でありながらも野菜が並んだ屋台、同様に肉屋。
大量の武器防具が陳列された屋台……そして絶えず鳴る鎚の音が、現在のスカイリムでの戦況を表しているのかも知れない。
 「なんだか、すごいですねぇ」
 『ここはウィンドヘルムの市場だからね。この街の人た……ノルド達は、ここで食べ物や薬を買ったりするんだね』
普段なら今言った事に加えて、船で街を訪れた旅人や冒険者、または観光客で賑わうであろう市場。
情勢が情勢なせいか、皆が皆どこか急いているような、不可思議な熱気が篭っていた。

作業場の者達から疎まれる見学者、と言うような役に立たされている。
そんな錯覚を感じた。
そして居心地の悪さはベリー・ベリーも感じていたのか、何処か落ち着きがない様子に見える。

私達は露天に目を通す事もなく足を進め、そのまま市場を後にした。


路地を抜けると、古代からの彫像が立ち並ぶ荘厳な場所に出た。
全てを囲い込んでしまうかのような雄々しく高い壁が篝火に赤く彩られ、その上からは北国特有の澄んだ青空が我々を見下ろす。
石造りの宮殿
 「立派なお城ですねぇ~」
かつての栄華と反映を物語る、古代からの宮殿。
石造りによる冷厳とした外観と、僅かな陰鬱さの中から溢れる威厳たる佇まいには見る物を圧倒し、畏敬の念すら感じさせる。
 『この街はスカイリムで一番古い街だからね。当時の人達も頑張って立派な城にしたのかも知れない……今でもこの城の中では、この街で一番偉い人が暮らしているんだよ』
へぇー、と感心しながら、
 「中に入っちゃダメ、ですかねぇ?」
と、期待の眼差しで私の顔を覗きこむ。

私は顎に手をやり考え込む体(てい)を見せ、
 『兵隊さんに追い返されるだけかな』
と、さらりと答えて返した。
ベリー・ベリーも試しに言ってみただけだったのだろう。
 「はーい」
食い下がる事も疑問を口にする事もなく、素直な言葉で返してきた。


 「そこのレッドガード、ちょっと止まれ」
スカウト
宮殿の前から去ろうと城門を潜った矢先、とある兵士に引き止められる。
衛兵達とは違う毛皮の鎧を身に付けた男で、その目の色は輝いているようにも見えた。
 「俺には解るぞ。あんたの佇まいや足の運び……相当の使い手と見受けた」
鼻息を荒げて興奮気味に語りかける男を、不審な瞳で見つめるベリー・ベリー。
 「知っているだろうが、今スカイリムは腑抜けた帝国の支配から脱却すべく戦っている」 
熱の篭もった言葉は、なおも続いた。
 「その力を存分に振るうため、『ストームクローク』に入隊しないか。たとえ種族は違えどもストームクロークと共に在れば、その魂は真のノルドと同等となる」

――――内戦が再び、起こったのだ。――――

ソリチュードでサンディから聞いた言葉が、脳裏を過ぎる。
誇り高き……いや言葉を変えれば驕慢とも表せる、スカイリムのノルドが持ちし自尊心と排他思想。
それらを前提に語れば、今この男が他種族である私に声を掛けると言うのは、有り得ない話。
しかし、それはこうして現実に起きている。
つまりは―――それほど切迫しているのだ。

 『ありがとう。少し考えさせて欲しい』

謙(へりくだ)っているのか、はたまた本心なのか定かではないが……男を刺激しない様、前向きな言葉で濁し、私達はその場を後にした。


城門を抜けて左、若干低く造られた街並。
石の階段を降るたび、コツコツと軽快な音と共に鳴る。
 「なんだか、ちょっと暗いかんじですねぇ」
灰色地区へ
情緒を感じさせる古都の中でも、異彩を放つこの一画。

―――灰色地区。

スカイリムから東に位置する『モロウィンド』……ダンマーこと、ダークエルフ達を主とする大陸。
そこに座する巨大な火山『レッドマウンテン』。
凡そ二百年ほど前に、それが大噴火したことによって家を、国を失ったダークエルフ達がこの街に避難してきたとの事だ。
しかし排他的であるノルド達とは相容れることもなく。
ダンマー達は、灰色地区という専用の居住区に隔離されて、みすぼらしい日々と貧しい生活を送っている。

 「見ない顔だな。旅のお人かい」
親切なダンマー
路地には幾つもの階段があり、上りと下りが入り乱れ、混沌とした区画を見事に表している。
声を掛けてきたのは、段差部分に腰掛けた一人のダンマーであった。

 『ええ。旅の途中に街に寄りまして。今はちょっとした観光と言った所です』
如何にも『この街を訪れるのが初めてです』と言わんばかりに返す。
 「……ここにあるのはみすぼらしい『今』だけさ。まぁ珍しい品を求めてるなら良いかも知れんが、兵士に睨まれても知らんぞ」
自嘲を交えた声音で語るダンマー。
私は敢えて言葉を返さず頭を一つ下げるだけにし、その場を後にした。


道なりに進んでいくと、中央に井戸のある広場に出た。
狭い市場
広場、とは言い表すには程狭い、とは言えこの灰色地区にとっては広場に相当するのだろう。
道の端には奇妙な植物が自生し、放し飼いとなった鶏が一定の間隔で鳴いている。
屋台にはかつてソルスセイム島で見たモロウィンド地方の野菜が並び、酒が入っているであろう瓶が置かれていた。
そんな光景を、物珍しそうな瞳で見回すベリー・ベリー。
以前来た時に比べ、この広場は更に多彩になっている……素直にそう感じた。

 「旅人さん、ちょっといいですか」
花を売る子供
雑多とした広場をゆっくり歩く私達に、一人の少女が声を掛けてきた。
 「花は、いりませんか?」
籠を抱えた花売りの少女。
寒さで皸(あかぎれ)を起こした両手に、乾いた爪。
濁った瞳に、乾燥し、かつ薄汚れた肌。

一目で解る。
この少女は、孤児だ。
恐らくは戦災によって、そうされてしまったのだろう。

憐憫や同情の念が胸に宿る、が……私にはどうする事も出来ないのも事実。
隣に佇むのは、濁った瞳の少女と、純真な瞳で見つめる少女の、二人。
色こそ違えど、どちらにも共通している事は、紛れも無い『期待』であった。
そう、『買って』と言う。

思案する
 『……青い花を二つ、くれるかな?』
 「ありがとう、旅人さん」
花売りの少女は、私の言葉に儚いながらも喜びを交えた声音で答えた。

――――

再び市場へ向かう
灰色地区を抜け、私達は再びキャンドルハースの前に戻ってきた。
 「おじさん、ありがとうございます~」
ベリー・ベリーも、あの少女を憐れんだのであろう。
花が欲しいという感情ではなく、あの少女が明日を生きるために少しでも何かしてあげたい、と―――ある種、さもしいとも言える感情。
私も同様の感情を抱いたがゆえに、そのお礼の言葉に返答できなかった。

 『もう少し、回ろう』
宿屋の前で私はそう告げ、再び市場の方へと足を向ける。
ベリー・ベリーは何も言わずに、その後ろについて来てくれた。

私が向かった先は、ホワイトファイアル。
 「あんたかい。今日は何の用だ?」
錬金屋で
変わらぬ様子で、生気の抜けた表情のまま語り掛けてくる店主。
 『ちょっと錬金台を借りたいんだが、いいかな』
ああ、と言うかのように口を僅かに開きながら頷いて返してくれる。
最早声を出すのすら疲れると言わんばかりの態度であったが、それで別段苛立ったりする事はなかった。

こまごまと
鞄の中から物を取り出し、作業に取り掛かる私を、後ろからじっと見つめるベリー・ベリー。
まるで夕飯を待つ子供のような、そんな様子。
期待に胸を高鳴らせているのがひしひしと伝わってきた。

そして―――ものの数分もせずにその作業は終了した。
 『よし、出来た』
完成したのは
顔を上げ、ベリー・ベリーへと向き直ると、私はそれを持った手を伸ばした。

 「わぁ……」
花の髪飾り
その声は、思わず零れたものだったのだろう。

先ほど買った花を、ロウで包み固めて加工した髪飾り。
それをベリー・ベリーの頭に着けたのだ。

 「……ありがとうございますぅ」
無邪気に喜ぶ
両手を合わせ拝むかのようにしながら一言、礼の句を述べる。
僅かに溜めてからの言葉には、不思議な熱が感じられた。

私は何も言わず、ただ微笑んで返した。


―――

私達は市場を抜け、また別の区画へと足を向ける。
屋敷が立ち並ぶ住居区画は、ある程度の位を持つものが住まう場所。
明日をも知れぬ命を見た後に此処へ足を運ぶと言うのも、なんとも言えぬ心持だった。
しかしそんな心境を吹き飛ばすかのように軽快な声。
 「おじさん、早く早く」
足も逸る
先ほどとは打って変わり、まるで新しい玩具を得て喜ぶ子供のようなベリー・ベリーのはしゃぎぶりに、思わず頬が緩む。
 『足元に気を付けるんだよ』
 「はぁーい」
雪の積もった石の道は、凍って滑りやすくなっている。
悪路に慣れた者でも予期せずに転んでしまう事もあるだろうが、軽やかな足取りを見る限り、それは無さそうだ。

しばらく進むと、私達は通路の一角に聳えるタロス像の前で足を止めた。
戦没者を悼む場
手向けられた花に、剣と杖。
小さな祭壇が置かれたそれは、恐らくはこの戦災で犠牲になった者の慰霊碑のようなものであろう。
興味深そうに石像を見上げるベリー・ベリーをよそに、私はひっそりと祈りを捧げた。
結果はどうであれ、一日も早く内戦が終わるように、等と言う幼稚な祈りを。


……陽も傾き始め―――
私達はウィンドヘルムの海の玄関である港に来ていた。
古都の港
北方に位置するのもあってか、港に吊るされた大量のサーモンが印象的だ。
そしてそれらを加工するアルゴニアンの労働者達。
此処ウィンドヘルムにおいて、アルゴニアンと言う種族は最も低く扱われていると聞く。
労働者達の姿
ダンマーは灰色地区と言う居住区画を設けられているが、アルゴニアン達は街に入る事すら許されない。
そのため港で働くアルゴニアン達の住まいは、港のすぐ側にある寮のような場所。
その中は、檻の無い牢獄とも言えるほど、簡素で、質素で、荒い造りと言う話だ。

そこかしこで鳴り響く鎚の音が、波の音を掻き消す。
壁の無い外側は、吹きつける風が如何に冷酷であるかを教えてくれた。
ぶるり、と思わず身震いを一つ。
それはベリー・ベリーも同様だった。

緋色に染まる海
夕陽に彩られる海面の美しさ以上に、この寒さは身体に堪える。
せっかくベリー・ベリーの体調が快復したと言うのに、この寒風に中てられてまたぶり返しては堪ったものではない、と過ぎる。
 「あ、あの~、おじさん……えっとぉ」
そしてそれは、居心地の悪そうにするこの灰色の少女も同様に考えたのだろう。
 『陽も傾いて冷えてきたね。そろそろ宿に戻ろうか』


踵を返し、宿に戻った私達を迎えたのは、やはりミック・ブーンだった。
 「よう。ちっとは気晴らしになったか?」
観光、終了
私に気さくに話しかけるその横顔を、眉を顰めながら見つめる女将。
苦虫を噛み潰したといった表情で押し黙っているが、その視線を向けられた当人は気にしていない様子だ。
 『おかげさまで。外の寒さは堪えたけどね』
親しげに会話する私達の顔を見回し、その瞳に疑問符を浮かべるベリー・ベリー。
そんな少女をミックは一瞥し、口を綻ばせる。
 「まっ、温かいもんでも食って休んだらどうだ。この宿は女将はアレだが、料理人の確かだからな」
笑ってはいけない、と思いつつも私は思わず小さく吹き出してしまった。

――

……夕食を終えて。
私は机に向かい、ペンを握った。

こうして腰を落ち着かせて綴るのは久しぶりな気がした。
ペンが走る
マルカルスから旅立ち、ファルクリースに立ち寄り、リバーウッドで一晩休み、ホワイトランでドラゴンに襲われ……。
思い巡らせるだけでも相当な密度の旅路。
これらを綴るには、一朝一夕にはいかないはず。
切りの良い所で一旦止めねば恐らく夜通し続けてしまうかもしれない、等と考えながらペン先は流暢に滑る。

そんな私を、ベリー・ベリーはただじっと見つめていた。
穴が開くような視線
 『君はそろそろ休むといい。薬が効いたとは言え、まだ安心は出来ないからね』
放っておくと、私の手が休まるまで眺めていそうだ。
身を案じて休むように促すが、それでも就寝する素振りは無かった。
背中を越して見やると、こちらを振り向くのを待ってたと言わんばかりに少女はにっこりと微笑む。
僅かに間を置き、口を開くと――

 「あのぉ……ちょっと、お願いがあるんですよぉ」


――――――

ベリー・ベリーのお願いとは、こうだ。

膝を貸して欲しい、と。

温もり

私は作業を止め、ベッドの側に椅子を置き、腰掛ける。
すると、ベリー・ベリーはそこに頭を置き、瞳を閉じた。

安らぎを与えられるなら

静かな寝息。
膝に感じる、体温と重み。
それらを煩わしいと思うような、そういう不快なものは無かった。


この少女が、せめて今だけは安らかであれ。

私はただ……そう、思った。



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