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 スカイリムで生きる事とは奪い続ける事。
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私はムダールの呼び掛けにて目を覚ました。
冒険者の私にとって、睡眠時間とは己の望むがままに貪るもの。
昨晩語りすぎた私の意識は未だまどろみの船に揺れて肉体の覚醒を拒否する。
だが商人の朝は如何なる時でも早いもの。
私はムダールに促されるままに起床するのだった。
ScreenShot118
朝焼けの眩しい外に出ると、ムダールは昨晩の話を少しだけ蒸し返した。
 「スカイリムは美人が多いと聞くが、この村でもそうなのだな。それにしても友は羨ましい」

彼が語り掛けるその言葉の意味を知るには、少々時間が遡る。
それは私とムダールが朝食を取っている時の事、宿屋の主人ムラルキが小さないたずらをした。
ヴァルネラをよく知る人に、私の事を話したのだ。

 「貴方があの時、ヴァルネラさんを口説いてた人? ふふっ、懐かしいわね」

Yuki
彼女の名前はユキ。
『フロストフルーツ』の看板娘と言っても良いだろう。
昨晩私達と会わなかったのは使いを頼まれ、村から離れていたとの事。
ヴァルネラとそう年齢は変わらないはずなのだが、私が以前この村に訪れた時のユキは女性にとって一番変貌する年齢の時期だったかも知れない。
故に私が知っているユキはまだ少女の面影を残した幼い顔立ちだったが、僅かの間に随分と美人になったものだと素直に感じた。

朝食の間だけの短い時間であったが、当時の話に小さな花を咲かせ、私達は『フロストフルーツ』を後にしたのだった。

―――――

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『ロリクステッド』を発ち、谷間の道をふと見上げ、かつてあの岩の上で夜空を見上げたのだな、と思い出が脳裏をよぎった。
 「どうかしたか?」
立ち止まった私を気に掛けたムダールの丸まった瞳を一瞥し、
 『なんでもないさ』
と返してまた歩を進める。

 『ここからの道のりが正念場だよ』
私は足を動かしながらムダールに言葉を投げる。
 「そうだな、確かに起伏が激しいぞ」
躓かない様に慎重に一歩を踏み出すムダールは、私の言葉を足場の注意と捉えたようだ。
だが、私の言葉の真意はそうではない。
 『ムダール。少しの間、ここで待っていてくれるかな』
普段より少し低くした声音の違いを聞き取ったのか、何も言わずに彼は肯いた。

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私が道標のある場所まで足を進めると―――
近くの物陰から、敵意と殺意、侮蔑、そして加虐の臭いに身を包んだ者達が現れる。

 「お前のゴールドを数えるのが楽しみだ!!」

喚声とも取れるソレと同時に、鈍くぎらついた刃物。
金を出せば見逃す等と言う思考は欠片も無い、紛うことのない血に飢えた獣の群。
私は剣を取り出し、応じる態勢となる。

寒冷の大地、スカイリム。
ここでは痩せた土を耕す事よりも、耕し終えた土地を奪う事のほうが遥かに楽なのだ。
それはごく当然に貨幣や物資にも当て嵌まる。
冒険者として生きている以上それは承知の上であり、例え己が奪う事を拒否しても奪われる事を拒否できない事を私は知っている。
だが―――
非情とも当然とも言える現実的思想の私も……こればかりは、と震慴(しんしょう)した。


何故ならば―――


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 「うらぁぁ!」
怒声混じりに短剣を振るい、私の命を奪うべく睨み付けるその人物は子供……少女であった。
 「ははっ、見ろよ親父! こいつ震えてやがるよ!」
なんと、この賊達は事もあろうか一家揃っての山賊なのだ。
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 「そら、まずは足の筋を切ってやるよ! 逃げられないようにね!」
 「芋虫みたいに這いずったら、俺がその頭を瓜みたいに砕いてやるぜ!」

娘の言葉に呼応するは、父親の残虐な台詞。
山賊達は私を囲み、野卑に満ちた言葉と共に狂気に塗れし金属を振りかぶる。
彼等の頭の中にはもう、私を人間の跡形もない状態にする事しか考えていないのだろう。

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私は唇を強く噛み………そして、剣の柄を固く握り締めた。


   ―――――


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己の歩いてきた方角を見やると、ムダールは頭を抱えて蹲っていた。
山賊達の声を聞き、恐怖で震えていたのかも知れない。
 『ムダール、もう大丈夫だよ』
私の呼びかけた声と共に、彼は躓く心配も忘れてすぐさま駆け寄ってきた。

 「こ、これは……。友よ、お前が?」

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血の海に沈む山賊達を見て、ムダールが恐る恐る尋ねるが、私は平静を装って答える。
 『やらねば、やられていた』
 「……そうだな。すまん、友よ。一瞬でもお前の事が怖いと感じてしまった」
私の淡白な物言いに、ムダールは深い侘びを込めた声で頭を下げる。
山賊とは言え子供を斬った事を責められるのではと内心思っていたが、彼は言葉を飲み込んでくれたのだろう。
 『いいや……気にしないでくれ。それじゃあ行こうか』

それ以上の会話はせず、私達は歩を進める事にした。

 ――――――


ソリチュードへの街道をそのまま道なりに進むと、仰々しい木柵が私達の目に飛び込んできた。

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石造りの橋に置かれた、進入者を拒む杭状の柵に、串刺しにされた人間の頭部。
遠くに見える高台の上には木製の小屋と橋。
 「なんだか、また近寄り難い置物があるぞ」
 『山賊の住処に違いないね。人数を率いたそれなりの徒党なのだろう』
街道に堂々と拠点を構えるとは豪胆な賊もいるものだ、と感心する。
それは恐らく隣のムダールもそう思っているだろう。

 『川に沿って下流へと歩こう。そこに道があるはずだよ』
私の言葉に、ムダールは無言で肯いた。

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しばらく川沿いを歩くと、鮭が遡上を繰り返している段差に行き着く。
そしてその段差のやや前に、大人ならば脛ほどの浅瀬が出来ているのだ。
 「おお、岩で浅くなっている所があるぞ。これなら楽に渡れそうだ。しかし友よ、何故わかった?」
 『以前もこうして、ここを渡ったんだ』
私の言葉に、成程、と独りごちるムダール。
 『その時は馬車を携えた司祭達と一緒だった。渡るのに骨が折れる思いだったよ。浅いとは言え急流に変わりは無いからね』
と付け加えた。

川を無事に渡り、事無きを得た私達は再びソリチュードへの街道を進む。
しばらくすると、街道脇に転がる馬と、荷馬車……そして壮年の男女の遺体が私達を迎えた。
 「な、なんだ。人が死んでいるぞ。山賊にでも襲われたのか?」
うろたえるムダールをよそに、私は夫人の懐から覗いた一冊の手帳を抜き取り、ページを開く。
一目でその手帳が日記だと解ったからだ。
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 『商人の夫婦みたいだね。荷を届ける途中だったようだ、気の毒に』
 「まだ血が乾いてない。友よ、早くここを離れよう。山賊が近くに居るかもしれないぞ」
噎せ返る様な血の臭いに気が逸るムダールだが、私は冷静に返す。
 『いや山賊ではない。金品は手付かずで、奪われたのは食料だけ。腹の肉が抉られた馬に、周囲に散らばる甲殻製の矢。これはファルマーの仕業だよ』
ああ、と目元を覆って天へと喘ぐムダール。
 「どこか暖かいところへ行きたい。カジートの血は冷えて仕方がないぞ」
私は手帳を閉じて夫人の胸元へと返し、
 『そうしよう。強襲と見るに、ファルマーはもうこの付近には居ないだろうけど、用心に越した事はない』
と、友人の脚を促した。


  ――――――


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再び街道を道なりへと進み、まずは大きな石造りの橋を一つ。
そしてそのまま歩き続けて見えてくるのは――

竜の背骨よりも巨大な石橋、その象徴と共に生きる村、『ドラゴン・ブリッジ』だ。

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私が橋に足を掛けて進むと、後ろのムダールが不安そうに声を掛けてくる。
 「崩れないのか?」
もっともな意見、に思わず窃笑。
 『崩れるのなら、とっくに崩れているよ』
 「なるほど、古くからあると言うことなんだな」
合点がいったかの様に髭を揺らして答えるムダール。
先程の不安は何処吹く風、何事も無かったかのように私の後を続いた。

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小さな村とは言え、人の賑わう声や家畜の鳴き声。
その環境音に私達は思わず、安堵の息を一つ吐いた。
 「今日と言う一日が平和で終わると思っていた。お前達が来るまではな……」
村に駐屯する衛兵の当て擦りの言葉など、耳に入らない。
 「友よ、今日はムダールが宿代を出そう。カジートの懐の毛が少しほつれているんだ」
彼もくたびれているであろうに、その言葉と顔はとても優しい。
私はその言葉に甘える事にし、宿である『フォー・シールズ』へと入っていった。

宿の主である女将は自身の名が『ファイダ』であると簡単な自己紹介と共に、
 「面倒ごとはゴメンですからね」
と、釘を刺してくる。
私は彼女と一言二言の軽い言葉を交わし、宿を取った。

質素で簡素な夕食を終えると、ムダールはベッドへ飛び込む。
 「すまん友よ、カジート、もう寝る」
披露は困憊、心労は極致だったのだろう、彼はそう告げた後にすぐさま意識が眠りへと沈んだようだ。
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私もすぐに眠りにつきたかったが、胸が嫌悪感に塗布されて寝付けそうにない。
手持ちの酒を煽り続け、自身の心を泥にするよう試みる。

だが私の思いとは裏腹に四肢は、興奮と恐怖を同伴した矛盾の震えを生んで心を高揚させる。
手持ちの酒は既に無く、仕方なく女将のファイダへ酒の注文をした。
 「飲んで暴れでもしたら、すぐに兵士に突き出すからね」
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彼女の不愉快混じり視線と声など関わらず、一気に酒を煽る。
 「ちょっと! 聞いてるの!?」
今度は怒声。
構わずまた酒を注文し、また煽る。

彼女には悪いと思ったが、私は飲まずにはいられないのだ。


………あの山賊の少女の断末魔が、耳に残って消えないのだから。


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