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 それぞれが抱える思い。
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自らに視線を感じ、御者の顔を一瞥すると、感謝に堪えない表情を浮かべていた。
―― 厄介な案件を片付けてくれてありがとう。
そう言っているように、感じられた。
意図的に助け舟を出した訳でも無く、そして感謝もまた謂われのない事。
そんな思いを抱かれても、と合点のいかない己の心を仕舞いつつ――私達は純白の街道を進み始めた。

4人は出発
ミックと私、男性陣を筆頭にし、チェシャとベリー・ベリーはその後に続く形だ。
 「徒歩ともなると、それなりの距離を歩くことになるな」
語尾にやれやれ、と付け足しながら呟くミック。
大袈裟に肩をすくめ眉を下げるが、どこか愉快な様子が見て取れた。
 『なんだか楽しそうだね』
口元が緩み、彼に対しての素直な感想が口から零れる。
 「まぁ、たまには歩くのも悪くねえって思ってるしな」
私の言葉に対してミックもまた口元を緩ませ、肩を解すかのように首を一回りさせて答えた。

 「はいは~い、だんせー陣。今はそんなお気楽な道中じゃ~ありませんよ~? ほらぁ、この先の道にちゅうも~く」

後方から聞こえてくるあどけない声に、男二人、共に振り返る。
そしてその言葉の通り、街道の先を凝視。

四人の足元からざくざくと固い音を立てる、街道の雪。
緩やかな下り坂を抜け、ノルド式の彫刻が施された石橋を渡る。
そして、その先のゆったりとした曲がり道を歩いた先に見えてきたのは―――灰色の煙。

内戦によるもの
 「こいつぁ驚いたぜ……まさかこんな近くにまで帝国兵が来てたとはな」
簡易的に作られたであろう柵は崩れ、急ごしらえであろう見張り台は無残な姿となっている。
煙が立ち昇っている大元には、灰となった木材。
そして、ストームクローク兵と帝国兵の、亡骸が転がっていた。

 「斥候だよ、セッコー。チェシャ、あっちこっちで見かけたもん。しょっちゅうだよ、ショッチュー」
亡骸を見ても狼狽せず、淡々と語るその姿は……もう当たり前となってしまった光景だからであろうか。
はたまたこの青髪の少女チェシャは、こう言った血生臭いものを元々見慣れているのであろうか。
 「……さらっと言いやがるな、嬢ちゃん」
チェシャの物言いに眉を顰めるミックと、物憂い顔をするベリー・ベリー。
三者三様の表情を前に、私はただ口を一文字に結ぶだけであった。

 「死肉が目当ての狼やらに出くわすと厄介だ。早く行こうぜ」

ミックの言葉に一同は頷き、再び歩を進めた。


――――――

 「止まれ、そこの同族。よく顔を見せろ」
雪に包まれた街道を抜けた先、脇道にて奇妙な者達を目にした。
 「何ですか、急に。そっちがその気ならこっちにも考えがありますよ」
横柄な声掛けに対し、血の気に満ちた刺々しい言葉を返す女性。
アリクル独自のフードをした男性は怯むべくもなく、
 「我々はとあるレッドガードの女を探している。そいつは祖国の裏切り者だ」
と続ける。
街道での
 「お尋ね者を探し回るアリクルの戦士か~。最近よく見かけるね~」
チェシャのあどけない口調。
自分の放った言葉が相手の耳に届こうがお構いなし、と言った様子。
 「……戦乱に包まれた国ってなぁ、お尋ね者からしたら絶好の隠れ蓑だしな。ほとぼりが冷めるまで潜むんだろうよ」
チェシャとは違い、声を潜めながら呟くミック。

一瞬、アリクルの男達がこちらを振り返ったが……一行を気に留めず、再びレッドガードの女性に向き直っていた。


私達は街道を進み、川沿いの道へと出る。
レッドガード達が言い合っていた場所から随分進んだ。
空に浮かぶ雲が厚くなり、天候としては若干芳しくない兆候。
だが、我々の間を抜ける風は乾いて冷たいものの、痛みを感じるほどの冷気は孕んでいない。
傍らのベリー・ベリーが空を見上げ、子犬のようにすんすんと鼻を鳴らす。
乾いた冷風を鼻腔で感じ、恐らく降雪の心配をしているのだろうが……私の勘では雪が降らない事を確信していた。

 「そういや……」
野盗すら
ミックが不意に口を開く。
 「こんだけ街道を進んでるのに、野盗はおろか追剥すら見かけねえな?」
誰に対して言う訳でもなく、独りごつ。
その呟きに対して答えたのは、チェシャ。
 「そりゃ~帝国のセッコーとか、ストームクロークの見回りとか、あっちこっちに居るし?」
 「それもそうか。まったく、そこかしこでドンチャン騒ぎするのも良いんだか悪いんだか解らねぇな」
遣る瀬無さから鼻で笑うミックとは裏腹に、ベリー・ベリーは首を傾げた。
 「ま~でも、それはあくまで『人間』だけの話だしね~」
チェシャは足を止め、不敵とも見て取れるような笑みを浮かべていた。

 「こーゆーのがあるから馬車に乗りたかったんだよね~」
熊の根城
その視線の先には、街道に堂々と居座る巨大な熊の姿。
頬を撫でる風からは獣の匂いは僅かにしか感じられなかった。
しかしこの程度ならば、街道沿いの所々に木々が生い茂る場合、自然に混じってくるものだ。
もしも縄張りならば、もっと濃厚な香りが運ばれてくるはず。
つまり、あの道端でくつろぐ熊はごく最近……間近とも言える時に此処に根を張ったのだろう。
 「こりゃあ……予想外だったぜ。まさか街道で熊と出くわすなんざよ」
ミックは私の顔を見ながら呟いた後、後方を見やりチェシャへと視線を移す。
 「商人のお嬢ちゃん、獣除けのモノってのはなんか持ってないのか?」
 「あるにはあるけど~あんまし使いたくないかなって。けっこー高価だし」
商人魂死ぬまで尽きぬ、と言った所だろうか。
いや、むしろ私とミックの二人ならば其れを使わずとも何とかなる、と踏んだのかも知れない。
だからこそチェシャは、それを出し渋っているのだろう。
そしてこれこそが、商人チェシャが我々と同行した一番の理由なのだ。
賢いと言えば確かにそうだが、狡猾と言うのもまた当て嵌まる。

 「お前なぁ……」
今現在置かれた状況よりも、懐の一文を惜しむその言葉に半ば呆れつつ、苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべるミック。
それに対し、私は口を結んだままだった。
 「だいじょーぶですよぉ」
不穏漂う一行の空気を割いたのは、今まで口を噤ませていたもう一人の少女、ベリー・ベリーだった。
 「私にまかせてください~」
あどけない声と微笑みのままに、ベリー・ベリーは熊へと近付いていった。
 「お、おい、嬢ちゃん!!」
ミックが慌てふためき、制止しようと手を伸ばすが、それを制止したのは私の腕だった。

 「おなかがいっぱいで動きたくないから寝かせて、ですってぇ」
何事もなく
熊の側で屈んだ後、こちらを向き直っての一言。
唖然とした表情を浮かべるのは、ミック。
好奇の眼差しを送るのは、チェシャ。
 『それじゃあ、彼にはそのままゆっくりしてて貰うようにお願いしてくれないかな?』
 「はーい」
あたかも、それが当然……と言う私とベリー・ベリーのやり取りを見、何を思い抱いたのかがとてもよく解る光景。

それからまた少し進んだ所で、狼に出くわす事もあったが―――先ほどの熊との邂逅同様、ベリー・ベリーが対応、ミックは呆然とし、チェシャは眼を光らせていた。

針葉樹の陰に怯える必要のない一行は順調に歩を進める。
時折、何処からか視線を感じる事もあったが、それは恐らくチェシャの言う帝国の斥候だろう。
僅かの間をおき、我々が冒険者であると判断したのかすぐに其れは消え失せた。

――――

寂びれたと言うべき
何者にも阻まれず歩を進める私達は、とある工場の脇を通りかかった。
工場と呼ぶには余りに寂びれているが、製材所と労働者の小屋、そして積まれた丸太がこの場の役割を物語っている。
内戦が勃発している以上、やれ弓だ矢だと木材の需要は大きいはずなのだが、そこかしこに帝国の斥候が潜んでいるとあっては寂れるのも致し方なしと言えた。

 「ううーん」
見立て
唐突に唸りにも似た声を発したのは、チェシャ。
歩を進めながらも首を傾げ、深く思案しているかのようにも見えた。
 『どうかしたのかな?』
私が声を掛けると、一瞬だがその唇の端が僅かに上がった後に下がる。
 「ん~。ベリーちゃんのその特技を使ってどれだけ稼げるかなって考えてただけだよ」
首を傾げるベリー・ベリーだったが、それはチェシャの言葉の意味が理解できないからだろう。
 「おーかみやクマと話せるってことは言う事を聞かせられるってことでしょ? それはつまり、えっと、なんだったかな、うーん……」
 「……調教師か?」
頭を捻らせて揺れる青髪に釣られたかのように、傍らのミックも口を開いたが、その単語が頭から抜けていたわけでは無さそうだった。
 「ちょーきょーし、とはちょっと違ったと思ったんだけど……なんだったっけかなぁ~メーノオエーだか、テーオコエーだか??」
チェシャはミックのフォローを無碍にし、なお頭を捻らせている様子。

川に沿って進む
 「忘れちゃった。ま、いーや。とにかく動物を操る才能があるって珍しいよね? それを使えば誰にも出来ないような凄いことが出来るかなって」

彼女の言葉を聞くうちに、脳内で弾かれているであろう算盤(そろばん)の玉の音が聞こえてくるような。
そんな錯覚を感じた。
 『……我々にはまず第一の目的があるからね』
言葉の意味を理解出来ていないベリー・ベリーに代わって、私が新規商売の開拓には携わらない旨を遠回しに伝える。
 「……お前さん達の行き先がホワイトランじゃなくてホッとするぜ」
商魂逞しい少女に、ミックは頭を抱えながら呟いた。
 「ちぇーっ、おもしろそーなのになぁ~」
当事者は不満そうに口を尖らせ、一瞬だがその指先を口元へ運び、そしてすぐに引っ込めた。


―――――

太陽の光を阻む雲は散り、暖かく濃淡な日差しが降り注ぐ。
道中にまた、ストームクロークと帝国による小競り合いの跡が幾つか有った事以外は、とても穏やかな道のりだった。

野盗も山賊も居らず、またベリー・ベリーが居る以上、野生動物にも襲われない。
そう、茂みに潜むジャイアントスパイダーにすらだ。
徒歩、という肉体への労苦を煩う事に若干だがチェシャが不満を漏らしていたが。

川沿いに作られていた道は少しずつ逸れていき、山林へと続いてゆく。
のどやかで寧静な行脚、やがて其の時は訪れた。

 「そっちの登りがイヴァルステッドの方角だぜ。こっちがホワイトラン行きだな」
分かれ道
 「そいじゃ、傭兵さんとチェシャはこっちだね~」
やや急とも言える傾斜へと続く方へ、私とベリー・ベリーが立ち、そして緩やかな街道の方へは、ミックとチェシャ。

 『ここでお別れだね』
頬を撫でる風と共に鳥達の羽ばたく音が遠くから聞こえた。
 「残念だな~、ホワイトランで仕事が無ければ、もうちょっとおじちゃん達と一緒に居られたのにね~」
チェシャの口から零れた別れを惜しむ言葉には、歓楽の色以外に打算の念も若干感じられた。
ひたすらに感謝
根っからの商売人気質とも言えるチェシャの言動に決まりが悪い私は、
 『ははは……』
と、乾いた笑みで場を取り繕うしか出来なかった。

 「……ま、ともあれ何事もなくて良かったぜ。それじゃあ元気でな、同族」
ミックからの別離の言葉に向き直り、頭を下げるとそれに倣ってベリー・ベリーもお辞儀を一つ。
 『ありがとう、ミック。貴方には本当にお世話になったよ、感謝してもしきれないくらいに』
心からの謝辞を重ねると、彼は唇の端だけ釣り上げた窃笑で返してくれる。
気取った様子も感じられないほど自然で、その所作がまた様(さま)になっていた。
 「お嬢ちゃんも元気でやれよ。……また何処かで会えりゃあ良いな」
ミックが背を向けそのまま歩き出すと、その背中へチェシャが言葉を投げる。
 「そいじゃー傭兵さん、ホワイトランまでよろしくだよ~。お金は払わないけど~」
 「ハナっから期待してねぇよ」
商人と傭兵は別の道へ
そして青い髪はふわりと翻り、
 「二人とも、またね~」
とても簡素な、別れの挨拶だった。

 「はぁい、さよーならぁ~」
遠ざかっていく二人へ言葉を返したのは、ベリー・ベリー。
小さな縁との別離
ベリー・ベリーは二人の姿が見えなくなるまで、手を振っていた。


 ――厳つい顔立ちに似合わぬ優しさと粋な人柄を備えし、ミック・ブーン。

 ――無邪気な様相からは考えられない狡猾さと、どこか憎めない気風を持つ、チェシャ・マリティーナ。


二人が口にした『また』と言う単語には、確信めいた何かを感じさせる力強いものに満ちていた。
それは恐らく――彼等が、在り続けると思わせるような、意志をひしひしと感じさせてくれたからだろう。


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