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エラーミルの軌跡を辿る。
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新たな門出の杯を交わした翌朝。
私とシャコンヌは、フェンネによって起床を促され、ウィンキング・スキーヴァーを後にした。
ソリチュードの門を出で、街道にて今一度の経路の確認。
エラーミルの日誌から確認できることは――

イルボルスンドはソリチュードから北東に位置した流氷漂う海域の小島に存在するという事。
「陸路で近くまで行って、そこから小島まで泳いで渡るのが一番手っ取り早いけど……ねぇ」
『私は構わないが、心臓麻痺を起こすかも知れないよ』
シャコンヌと私の会話に苦笑いをするフェンネ。
「あの、それだったら……。たしか材木場の近くに舟を扱ってるところがありますよ」
無論、北海を泳いで渡るだなんてご免被る話。
私とシャコンヌは冗談めいて口にしただけだったが、どうやらフェンネは本気で捉えたようだ。
「ちょっと遠回りになるかも知れないけど、海路が一番安全かしら」
『しかし、私達にはツテがないね』
ちら、とフェンネを一瞥するシャコンヌ。
「私だって無いですよ」
そんな目で見られても困る、と言いたげな、フェンネ。
「でも従士様だし?」
「……ずるいです」

ソリチュードの連なる石門を潜り、港の方へ続く道を降りてゆく。
しばらくすると道が分かれ、左の道は東帝都社の倉庫と、商船の止まる船着場へと続く道。
右の道は、材木を扱う作業場がある場所に続く。
私達は右の道を下っていく。
すると、小さな船着場と建物が目に飛び込んできた。
「あそこです」
フェンネが視線で示す。

小さな船着場に到着し、私とシャコンヌは舟を借りる交渉を試みる。
主は怪訝な様子で私達を見るも、フェンネが名乗り出て従士であることを明かすと、快く承諾してくれた。
しかし、帆を貼れる船は商人の先約があるとのことで、代わりの小舟なら今すぐに貸し出せるとの事だ。
シャコンヌは得意気な笑みを浮かべて、私に目で合図する。
なるほど、従士と男手を欲したのはこういう事だったのかと、彼女のしたたかさに私は感心した。
――――――――

私は腰を落とし櫂を扱ぐ。
その様子をフェンネは、ばつが悪そうに見ており、落ち着かないのか立ったままだ。
シャコンヌは腰をおろし、ゆったりとした様子で潮風を楽しんでいるかのようにも見える。
成人が三名、決して軽いものではないが……重いものでもない。
私はフェンネに腰をおろしてゆっくりするよう声をかけるが、どうにも居心地が悪いらしく、座ろうとしない。
だが――
「座ってたほうがいいわよ。下手にバランスを崩したら、海へドボンだから」
シャコンヌのその言葉を聞いて、ようやく腰をおろした。
「手伝える事があったら、言ってくださいね」
私を気遣うフェンネの一言に、思わず胸が暖かくなる。
スカイリムの首都、ソリチュードの従士とあらば、立場や気位が高慢であってもおかしくないのに、フェンネはそんな様子も空気も欠片も無く、むしろ庶民的な親しみ易さすら感じるのだ。
好い人だ、と素直に思った。

櫂の操作にも慣れ、舟は海を進んでゆく。
だがあくまで小舟でしかない以上、速度に優れる事はない。
時の流れは刻々と過ぎ去り、いつの間にか陽は傾いて空を緋色に染める。
「灯台の明かりが見える範囲まで進みましょ」
私は無言で肯く。
灯台の明かりを背にし、しばらく進んだ所で私は舟を着けた。
シャコンヌは何も言わずに舟から降りるが、フェンネは首を傾げる。

「今日はここで野宿。明日の朝、また出発よ」
その言葉に頭痛を感じるかのように頭を抱える、フェンネ。
宮仕えの身でまさか野宿することになるとは、思わなかったのだろうか。
野営地でも何でもない、ただの野宿と言う事に眩暈を覚えるのも無理はない。
私はなるべく早めに休めるよう、手早く支度を開始する。

テントの用意を済ませ、寝袋と同時に毛皮も幾らか敷く。
雪のちらつく場所で、地べたに寝転がるのはあまりに寒々しいと思ったからだ。
「なんだか、すみません。気を遣わせちゃって」
私やシャコンヌが手際良く支度を済ませている間、フェンネには座って休んで貰っていた。
効率性云々や、立場からなどではなく、ただ純粋に私達冒険者から従士様への配慮とも言える。
慣れぬ旅路は、精神的にも疲労するものだから。
そして同時に、この厳しい寒さも肉体的な疲労に繋がる。
シャコンヌが用意してくれた料理を食べ終えると、私達はすぐに床に就いた。
――――――
翌朝。
天候は相変わらず雪がちらついており、止む様子はない。
だが止むまで待つ、と言うのも建設的とは言い難い判断だ。
「出発しましょう」
シャコンヌの一声で、舟はまた海を進む。

流氷が転がる海原を渡る最中、フェンネは両腕を抱くかのように身震いを始めた。
早朝、雪天候、昨夜の野宿と相俟って、流石に体調を崩したのではないかと心配になったが――
「あら、従士様ったら案外軟弱なのね?」
と、からかうように声をかけるシャコンヌに対し、
「むっ。そんなことありませんよ。……ただちょっと、ええと、霜の付いた鎧が重くて」

言い訳、にしてはあまりに苦しいフェンネのその言葉に、思わず私は窃笑を零す。
「なるほど、霜で鎧が重たくて震えちゃうのね。それは大変だわ」
くすくすと笑うシャコンヌ。
「それじゃあ、私の帷子と交換する? 軽くていいわよ、コレ」
「い、いえ。こ、この鎧は従士の証ですから。おいそれと脱ぐわけにもいかないのです」
子供のような意地悪な微笑みを浮かべるシャコンヌだったが、そろそろ助け舟を、と私は思い――
『シャコンヌ、地図の確認をいいかな。そろそろだと思うのだがね』
エラーミルの日誌の確認を、促した。

「……うん、あの小島ね。」
シャコンヌが指差す先に、小島が見える。
日誌に描かれた地図によると、あそこに『イルボルスンド』という古代ノルドの墓所があるとの事。
高揚感と、僅かな恐怖心。
エラーミルの日誌の事を考えれば、この先も一筋縄ではないことは判っている。

岸に舟を着け、私達は小島へと足を着ける。
波に持っていかれぬように、舟を杭で固定すると、私達は歩を進めた。
そして―――

到着、発見。
『イルボルスンド』――
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