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 轟く声。
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生い茂る木々と、湿気った石から上る香り。
まるで自然の呼吸音とも言えるだろうか。
それらを感じるだけでどこか心が安寧に包まれるのは、人の奥底に眠る本能的な意識への軟い刺激からなのかも知れない。
 「また二人になっちゃいましたねぇ」
山道の行脚、再び
道に混ざる小石が爪先で弾けて飛んでゆく。
傾斜の厳しい山道を進みながら、ベリー・ベリーは何気なく呟いた。
これから先の道に対しての不安だとか、憂心とかから来る言葉ではない。
純粋にただそう感じたから、それを発しただけだ。
 『そうだね。静かになって寂しいかな?』
 「んん~、そんなことはないですけどぉ~……」
ベリー・ベリーは僅かに口を突き出し、そこに指を当てながら首を傾げる。
そして思いついた『何か』を言おうとしたが、それを飲みこみ、口元を綻ばせて誤魔化した。

ミックとチェシャが同行していた道中ではベリー・ベリーは口を閉ざしがちになっていた事を、私は気に掛けていた。
しかしそれは先日患ったモノが尾を引いているとか、場が不愉快だとか、そういったものではないと言うのは解っていた。
故に、本質が聡いこの少女は無闇に口を開かぬほうが得策だと踏んで、敢えて口を閉ざしていたのではなかろうかと私は思い至る。

 『前にイヴァルステッドに向かった時は馬車だったけど……徒歩でのこの先の道は結構辛いものだろうから、疲れたら遠慮なく言ってくれるかい?』
 「はぁーい」
急とも言える斜面を進みながら投げた言葉に対し、小気味良い返事が聞こえてきた。

―――――――

青空、絶景かな
 「わぁー、すごいですねぇー」

イーストマーチ地方を峠の一角から望む。
ウィンドヘルムの北部は雪に覆われ、東部はイーストマーチとモロウィンドを隔てる山脈が連なり、中部には森林が広がり、そして南部は火山によって温泉地帯となっている。
雪と、山と、川と、海と、森の中に佇む古都は、調和がとれている訳ではないのに、どこか言葉で表せない不思議な美しさを携えていた。

 『あの遠くに見える街から、私達は出発してきたんだよ』
 「がんばりましたねぇ~」
感銘か自画自賛か、うんうんと頷いて返すベリー・ベリー。
その所作に私は思わずくすぐられたかのように頬を緩めた。
 『これから先は上りと下りが幾つもあるからね。足元に気を付けながら進もう』
 「はぁーい」

―――――

青々とした針葉樹の中に黄色い葉を茂らせたポプラの木を交えながら、時に傾斜の強い、そして時には緩やかな下りの道を幾つも進む。

ホワイトランとリフトの境目を越え、ホワイト川の清流の一端がせせらぎを奏でる。
また境を越え
道中、歩幅はベリー・ベリーに合わせているものの、ずっと歩き通し。
しかし休憩はいらないかと尋ねても、笑顔で「大丈夫」と返す少女は、なかなかに逞しいものだと感心する。
それ所か、移り変わる景観を楽しんでいる風にすら窺えるくらいだ。
弱音を吐かぬ相棒につられ、私も奮起せねばと己の両脚を鼓舞して進める。

しばらくして―――川の旋律が徐々に激しくなり、水の調べは音量を増す。
傾斜の強い坂に伴う、小さな滝だ。
段々となった滝
そして、この上りを越えた先に目的の場所がある。
一歩一歩強く歩を進め、弾け飛ぶ水滴で若干湿った土を踏みしめながら、私達は進む。

聳え立つ巨山の麓に座する村。
再び、イヴァルステッドに辿り着いた。

再びイヴァルステッド
村の入り口で番をする兵士から一瞥されながら、私達は村へと入っていった。

柔らかい日差しと、爽やかな風が懐かしい。
ホワイトランからリフテンへの街道に添うこの村では、旅人、商人、巡回の兵士に、冒険者……交々(こもごも)の者達が通るせいか、村人から奇異の視線を受けることは無い。

イヴァルステッドの住人であろう二人の老いた男女が、畑の中でなにやら口論をしているのが目に入る。
様子からして夫婦のようだが、やれ娘がどうのとかやっぱり行かせるべきじゃなかったなど、込み入った内容のようだった。
のどかな空気
そんな激しい口舌の刃の競合いなど露知らず、上空を鳥達が羽ばたいてゆく。
材木場では、丸太を積み上げる男性が黙々と作業している。

宿屋で情報を
……これもまた、この村の光景なのだろう。
戦の匂いを感じないと言う点では、此処イヴァルステッドはとても平穏だ。
私は目的の宿の前に立って扉を開け、ベリー・ベリーを先に促し、その後ろから屋内へと進んだ。


尋ね人の更に尋ね人
 「いらっしゃい、旅人さん。俺はウィルヘルム。この宿の主だ」
私自身はこの宿の主人の事をよく覚えているが、ウィルヘルムにとっては僅かに顔合わせしただけだから、忘れているのも仕方がない。
 『アリア・セレールを訪ねて此処に来たウィザードが居ると聞いたのだが……』
記憶の糸を手繰り寄せ、一拍置き、
 『そう、貴方はそのウィザードを「シャ」と呼んでいたと思った。その人は、まだ滞在しているかい?』
一瞬瞳を丸めた後、呆けたように口を開けながら頷く、ウィルヘルム。
記憶という大樹の枝が揺れて刺激されたのか、私の事を思い出したらしい。
 「あぁあぁ、アンタは以前ここに来た……」
 「なんの、よう?」
気だるげな
後方から聞こえた、気だるげな声。
私とベリー・ベリーはその方へと振り返る。
すると其処、宿の出入り口付近に佇む、奇妙なローブに身を包んだ一人の女性。
 「あなたたち、だれ?」
奇妙なローブ
蒼天の下の海のように深い青い双眸と、眠気で瞼が腫れぼったい幼子のような眼。
ふっくらとした唇が女性的な色気を醸し出し、若干丸みを帯びた頬が幼さを見受けさせ、アンバランスな艶かしさを感じさせる。
その口から発せられしたどたどしい言葉からは、異国の空気を匂わせていた。

 「おぉ丁度良かったよ、シャさん。前に、アンタを探してた人が居たって言ったけど、この人達がそうさ」
ウィルヘルムはどうやらこの女性……シャに、事情を説明していたらしい。
事情説明
 「シャ、に、ようが?」
私達から敵意を感じないせいか、無防備なまでにこちらに歩み寄ってくる。
 『貴方がアリア・セレールを探していたウィザード……シャ、さんですか』
シャはその名前を耳にして一瞬瞳を丸くし、また直ぐに真顔に戻る。
そして私の言葉に続いて、
 「あのぉ、私達は先生を……えっと、アリア先生をさがして、たずねて、旅してるんです」
と、ベリー・ベリーが重ねた。
シャは私達の顔をそれぞれ一瞥した後、全身を舐めるかのように見回す。
 「それ……ソーンリング? ああ、そう。あなたが、アリア先生の……」
ベリー・ベリーにとっては、思わずとった仕草なのだろう。
確かな
手を重ねて拝むかのようなその姿から、指に嵌められたその特殊な装飾品に気付いたようだった。

 「アリア先生、昔、じぶんの弟子に、白いソーンリング渡した、言ってた……あなたが、ベリー?」

今度は私達が、瞳を丸める番だった。
 「……あ、は、はい、わたしが先生の……弟子の、ベリー・ベリーですぅ」
返事までに若干の溜めがあったのは、ベリー・ベリー自身が『弟子』と表現された事に違和感があったからなのかも知れない。
もしくは名前を呼ばれた事への戸惑いか。
 「あなたたち、アリア先生、さがしてる? シャ、アリア先生と、ハイフロスガーで会った。先生、もう居ない。でも、行く先、知ってる」
シャからの更なる言葉に、私達は驚きを隠せない。
 『どちらの方へ行ったか、解りますか?』
内心興奮冷めやらぬが、努めて冷静に尋ねた。

 「リフテンの、ほう。そこに、絶対いる。先生、ずっとそこで、研究、する、言ってた」

目指す先は決定
感情が込み上げて胸が熱くなったか、思わず軽快に飛び跳ねた後、私の顔を見上げるベリー・ベリー。
 「おじさん!」
宿屋の壁に反響するかのように弾けたその声は、希望と喜びに満ちていた。
私も向き直り、頷いて返す。
 『決まりだね、目指すはリフテンだ!』
旅の目的地点を得て気勢が上がる私達を見、シャは首を傾げるが―――
淑やかな笑顔で
 「……先生の弟子、よろこんでる、よかった。シャも、嬉しい」
ぎこちないながらも、祝福の笑みを浮かべてくれた。
 「ありがとうございますぅ」
礼の言葉と共に、頭を下げるベリー・ベリーに倣い、私もお辞儀をした。

――――

聞くところによると、シャは元々は異国から参ったウィザードらしい。
そしてスカイリムでアリア・セレールに出会い、ふとした事から魔術を指南される身になったと言う。
つまりはベリー・ベリーとシャは同門の徒と言う訳だ。
そんなアリア・セレールの事で、ベリー・ベリーとシャは積もる話も有っただろう。
だが逸る気持ちを抑えられぬ私達……特にベリー・ベリーだが、話も半分に早々に旅路へ就きたい様子を匂わせている。
思いを置くかのような表情を浮かべるシャであったが、致し方なしと言った様子で私達を見送る旨を伝えた。


そして、宿屋の扉を抜けた先に―――

 「待ちなさい」
立ちはだかるのは
刃物のように鋭い声と、六つの瞳。
そして異国を思わせるような甲冑に身を包んだ者達が、私達を待ち構えていた。

 「必ずまた現われると信じていたわ、ドラゴンボーン」
憮然、傲慢
全てを悟っているかのような口調と声音。
そして僅かに含まれる敵意が、有無を言わせぬ迫力を感じさせる。
 「隻眼のレッドガードを従えた、灰色の髪と双眸のノルドの少女。間違いないでしょう」
腕を組む女性の後ろに控えた男性が、後に続いて言葉を発する。
 「ドラゴン、ボーン……」
シャは思わず呟き、ベリー・ベリーの方へと向き直る。
狼狽と戦慄と
 「えっ……あ、あのぅ……」
 「さぁ私達と一緒に来て貰うわよ、ドラゴンボーン。今の『ブレイズ』には、いいえスカイリムには貴方が必要なのよ」
女性からの威圧的な空気に気圧されて、うろたえ、そして怯えるベリー・ベリー。
 『ドラゴンボーン? 何の事かは存じませんが、私達はただの旅人ですよ』
是非はなし
事を荒立てぬよう私は平静に、そして平和的な物言いで女性へと言葉を掛けるが、一笑に付される。
 「世のためにドラゴンボーンを導くのが私達の使命なの。その邪魔をするのなら容赦しないわよ」
冷然で是非を問わぬ態度が実に刺々しく、そしてシャの顔を見つめながら、
 「あなたは『グレイビアード』? 見た事ない顔だけど、また私達の邪魔をするつもり?」
殺気、とまではいかないにしろ、獣臭にも似た奇妙な芳香を嗅覚以外の直感的な部分で嗅ぎ取る。
それはつまり、この者達が「刃傷沙汰も辞さない」と言う覚悟と思考を持っている事に他ならない。

 「さぁ、早く!」

痺れをきらした女性が、声を荒げた……
太陽を背にしものは
―――が。

 「きゃ!」
 「うわ!」
空間が割れる
轟音。
同時に上がる声は、悲鳴と呼ぶべきか反射的なものと言うべきか。

立っていられない程の強大な地響き。
眩い光の後、淡く彩られる空。
灰色の雲が渦を巻き、暴風の如きうねりを見せる。
轟く、声。

それは――――
轟音と破砕
 「ア……『アルドゥイン』!? こんな時に!!」
冷然とした女性から放たれた、狼狽の一声。
かつて、ホワイトランの街に現われた、黒い翼のドラゴン。
血よりも赤いその眼が、妖しく光っていた。

 「ド、ドラゴンだぁ!!」
 「た、助けてぇ!!」

災厄の黒翼、再び
黒き翼のドラゴン……「アルドゥイン」と呼ばれたドラゴンが空に留まると、しばらくしてそれに付き従うかのようにまたもう一匹のドラゴンが空を舞う。
 「ひるまないで! ブレイズの意地を見せるのよ!」
ブレイズ、と呼称した者達は弓を手にし、応戦の意思を見せる。
村の兵士達もそれに倣うが、皆が皆恐怖に震えて狙いが定まらない様子だ。
戦の備えが出来ている大きな街ならいざ知らず、辺鄙とも言える場に配属された兵士達が血気盛ん、無鉄砲に戦いを挑めるはずもない。
空から降りしきる火の雨に脅え、悲鳴をあげ、そして焼かれる。
そしてそれは、そこかしこから轟いていた。

混乱、騒乱の坩堝と化したイヴァルステッド。
混乱、再び
傍らのベリー・ベリーは腰が抜けたのか、座りこんでしまっていた。
私は剣を取り出し、構える。
だがしかし―――
果敢なる
 「にげて!」
私の参戦を阻むかのように声で制したのは、シャだった。
 「あなたたち、いまのうち、にげる! はやく!」
火球が地で弾けて轟音を響かせるも、その声はしっかりと耳に届いた。
 『しかし!』
シャは、その手に強大な魔力を宿らせながら空を一瞥し、再び私達の方へと向き直る。
ウィザードの言葉
 「だいじょうぶ、シャ、これくらいで、死なない。だから、にげて」

それは、とても優しい声音。
そして、暖かく柔らかい笑顔だった。

後ろ髪を引かれる思いを振り払い、私は剣を仕舞いこんだ。
 『ベリー!』
へたり込んでいる少女の手を引き、立たせる。
逃走
縺れる足のままのベリー・ベリーの腰元に手を添え、体幹を伸ばさせながら寄り添うように駆ける。
 「シャさん……!」
その言葉に溶け込む慙愧、悔恨の色。
胸に刺さる少女のその悲痛な声に、歯を食いしばりながら、走る。
脚の支えを取り戻したベリー・ベリーもまた、走る。

走る、走る
私達は、駆けた。
一心不乱に。

その背中に、悲鳴と、炎の粉と、轟く声を浴びながら。


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