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 長き長き旅路の果てに。
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フロッグに印を付けて貰った私達は、街道を行く。
その場所とは……リフテンから南東に位置していた。
曇天、されども
街道からは逸れる場所にあるようだが、『谷』と呼称していた以上、山間にあると考えても良いだろう。
地図を見、経路を確認する私を見つめるベリー・ベリーの瞳は、希望に満ち溢れていた。
 『ここからそう遠くないみたいだね。恐らく日が沈む前には辿り着けると思うよ』
 「はぁーい!」

まずは一旦街道を戻る。
そしてその道の途中から森林の中へと進んで行く形だ。
心配無用
リフト地方の街道、もとい森林には熊や狼、狐、そしてジャイアントスパイダーと様々な原生生物達が潜んでいる。
しかし、ベリー・ベリーと共に居る以上はそれらを畏れる心配は無い。
故に、私達の行脚を憚るものは皆無に等しいだろう。

もっとも恐れるべきは山賊や野盗と言った、人間だ。
……とは言え、そこいらの賊程度ならば束になって襲いかかって来ようが、退ける自信はある。
雲はまるで胸中のように
そして忘れがちだが、ベリー・ベリーもまた強力な魔法を扱えるウィザードなのだ。
そう思えば、なお歩みを止める必要は無い。

曇天であった空が晴れてゆくのを見て、私はまるでこの旅に於ける現在の心境を表しているかのようだ、と感じ、思わず唇のほとりが緩んだ。

ポプラの木々に包まれて
清爽な風に乗って舞う微粒の光は、高き山から零れる雪の残滓だろう。
さらさらと街道の石畳を泳ぐのは、ポプラの落ち葉。
木々の中からは蜂の羽音や熊の咆哮が聞こえてくる。

これだけ穏やかな心持で歩くのも久しぶりかも知れない。
時折地図を眺めて現在位置を確認しつつ、私達は確かな足取りで進む。

しばらくして―――風の薫りが変化した。
そして感じる人の気配。

 『伏せて』

私はベリー・ベリーの方を見ずに、そう呟いた。
身を屈めたまま先へ進んでゆくと、その『変化』の原因が、其処にあった。
 「死ねぇ!!」
斥候達の鬩ぎ
 「サルモールの犬め!!」
 「スカイリムはノルドのものだぁ!」

青い外套を肩に掛けた兵士達と、赤い外套を羽織った兵士達が戦っている。
それは言うまでも無く、ストームクローク兵と、帝国軍兵だった。
剣激
風に乗って混じった物は、血の匂い。
戦い、と称すにはあまりに小規模な其れは、恐らくは斥候同士の衝突だろう。
力任せに武器を振るうストームクローク兵と、軽快な体捌きで巧みな牽制と剣術の複合した帝国軍兵。
結果は火を見るより明らかだった。

無関係と言えばそうだが、勝利し戦いの高揚に中てられたものが何をするか、何を考えるか、と言う部分では若干の不安はある。
私達は身を屈めたまま、やり過ごす事にした。
……念のために、剣に手を添えたまま。

――――

身を潜め、遠巻きに兵士達の戦いを眺めてから数分もしない内にその決着はついた。
帝国軍兵士達の圧勝で。
ストームクローク兵達の死骸を眺めながら舌なめずりをする一人の帝国軍兵士を見た時、僅かな既視感が生まれた事に自己嫌悪に囚われたが、それでも事なきを得た。
兵士達の背中を見届け、その姿が消えた事を確認して安堵し、私たちは再び進む。

 「……なんでしょう、これぇ?」
謎の遺跡??
山と林に挟まれた道に、それは在った。
昆虫の顎を思わせるかのような、対になったオブジェに囲まれた、奇妙な石の円。
スカイリムの各地で幾つか見かけたものであったが、確かこれは……。
 『かつて行商人から聞いた話では、ドラゴンの墓……らしいけどね』
私の言葉を聞き、猫のように首を傾げるベリー・ベリー。
 「なんだか、へっこんでますねぇ」
円状に組まれた石の中央にあるべき土が、抉られ穿たれたかのように窪んでいる。
以前違う場所で見た時には、この中央には岩盤のようなものが積まれていたと思ったが……。

だが、これがドラゴンの墓であろうが何であろうが、今は詮無き事。
 『行こう』
 「はぁい」
私達には今、最も優先すべき事柄が目の前にあるのだ。


―――空に茜が射す頃合。
道無き道を進む私達であったが、リフテンから結構な距離を歩いただろう。
そろそろ
幸いにして、先程見かけたような兵士達の小競り合いなどには見舞われなかった。
山賊や野盗と言った賊にも出くわさなかった。
時折熊や狼を見かける事はあったが、やはり例の如くベリー・ベリーのお陰で牙を剥かれたり爪が振るわれたりする事は無かった。
一歩一歩、進むごとに私の胸中は何とも奇妙な心持になってゆく。

 『この水辺が目印、だね』
目印
山からの清流がここで留まっているのだろうが、水辺は不思議と濁りもしていなければ落ち葉すら浮かんでいない。
 『ここから真後ろに……』
私は言葉を発すると共に、身体を後方へと捻る。
ベリー・ベリーもそれに倣う。
『谷』
 「……狭い、入り口、でしょうかねぇ??」
岩と岩の間にある、僅かな空間。
一見すると単なる岩と岩との間に出来た隙間にしか見えないが、人が入っていけそうな大きさではある。
再度の確認をして
私は再度地図を確認する。
位置、立地、そして目印と照らし合わせて、
 『どうやらここみたいだね』
と、自身にも確認を行なうかのように呟いた。
まるで合言葉のように『谷』と呼称していた場所であったが……実際は、洞窟のようだ。
フロッグが『谷』と呼称していた場所の入り口をじっと見つめた後、私をまた見つめるベリー・ベリー。
その視線の意味を察せず、私もまた視線を返す。
 「……おじさん、通れますぅ?」
ああ、と合点がいった。
この体躯では狭まった入り口を通過できないのでは、と疑問に思ったのだ。
 『彼等が使っていたんだから、大丈夫さ』
私の言葉を聞き、ベリー・ベリーはホッと胸を撫で下ろしたようだ。
 『それじゃあ、行こう』
 「はぁい」

沸きあがる高揚感を含ませながらの、返答だった。


隙間、とも言えるような狭い入り口を抜けた先は、驚くほどに広かった。
洞窟を進み
洞窟の中の天井は高く、人が並んで通れる程の広さが確保された通路。
通路に設置された篝火の火がチリチリと鳴る。
しばらく進むと、開けた空間に出る。
そこには鍛冶設備一式が揃っており、火炉だけでなく皮のなめし台まで置かれている。
設備が置かれ
火が絶えていない所を見ると、最近まで誰かが使っていたのか、それともそういった特殊な仕掛けでもしてあるのか。
炉から上がる煙によって息苦しさを感じる、と言う事もない。
洞窟内でありがちな酸素不足によって昏睡してしまうと言う心配は無用と言ったところか。

道なりに進んで行くと、洞窟の壁は石造りのものへと変わる。
そしてその先に続く道は……緩やかな下りとなっていた。
更に下へと
地下へ地下へと続く道を、ただ無心に歩く。
石造りの壁となった通路をしばらく進むと、またしても開けた空間に出た。
今度は寝台や卓の置かれた、交流の場と見て取れるような場所だった。

寝台と卓が置かれた
石造りにしてあるからか、空間の一部に設置されている仕切りには、ドゥーマー様式の造りにされている。
景観を合致させるために意図的にそうしたのかどうかは知らないが、凝った造りをしているのは事実。
ここは彼等……スネークとフロッグだけが居たとは思えない。
そしてまた下へ
組織としての拠点であり、それなりの人数がここで生活をしていたのだろう。
そして何らかの理由があって、ここを捨てざるを得なくなった。
もしかしたら、それはつい最近の事なのかも知れない。

頭の中で思惟(しい)の輪が回転する。
だが、それも些事なのだ。
洞窟を抜ける
フロッグやスネークが、この『谷』と呼ばれた場所でどのように過ごしていたか。
彼等には同じような仲間が居たのか。
そう、些事なのだ。
こうして、ベリー・ベリーの旅の目的が果たされようとしている今は。

道なりにひた進んだ私達は、また狭まった出入り口と邂逅する。
互いに顔を見合わせ、そして歩を進めた。


――――

洞窟を抜けた先にあったものは……『谷』だった。

その先にはなんと
いや、ただ単に谷、と呼称するにはあまりにも幻想的過ぎた。
そして、現実離れしていた。

時刻で言うならばもう既に日は沈み、星々が空に煌き瞬(またた)いているはずだ。
しかしこの場は一体何なのだろう?
空は眩しいほど青く、しかしうっすらと光る星のようなものすら浮かんでいる。
太陽が照っている訳でもないのに、此処は眩しく、そして――――
唖然と
 『美しい……』

あまりの光景に、私はその場で立ち呆けてしまった。
 「おじさん?」
ベリー・ベリーからの視線を感じ、その声にて我に返る。
 『あ、あぁ、すまないね。ちょっと、驚いてしまって』
しどけない口元を正し、傍らの少女へと向き直ると、花が咲いたかのような笑みを浮かべて返してくれた。

 「……いきましょうかぁ」

その灰色の瞳に、確信めいた光が宿っているのを感じた。


四肢に感じる奇妙な感覚……まるで水中にいるかのような浮遊感。
そう、確かに足は地に着いているのに。
さくさくと短い芝草の感触を靴底越しに感じているのに。
幻想空間を進み
柔らかい葉を乗せた風が、頬を撫でるかのように通り過ぎると、それは私の身体の中を通り過ぎ去っていっているかのように。

美しい自然と景色から感じられる安寧と、身体中を弄(まさぐ)るかのような違和感の混濁が、私の胸の内を掻き乱す。
 「おじさん、大丈夫ですかぁ?」
足場が見える
心の中で膨れ上がった違和感を見て取れたのか、ベリー・ベリーがひょいと私の顔を覗きこんできた。
 『あ、あぁ。大丈夫だよ』
私の返答に、唇をややすぼめて首を傾げる。
ベリー・ベリーには異変が見られない。
 『泉の中に足場が作られているね。何かあるかも知れない、行ってみよう』
泉を横切り
ややもすれば、休憩しよう、と言わんばかりの少女の瞳。
私はそれをさせない為にも、促す。
 「あ、ほんとですねぇ~」
気持ちが前進のほうへ傾いたのを見、私は歩を進める。
見えたのは、不思議な…
泉を堂々と横切る形で進むが、下肢が水に触れても違和感は生じた。
水に触れているのに、まるで風の固まりが脚を包んでいるかのような。
えぇい、と奮起し、胸の中に感じるものを意志で噛み殺す。

泉からあがり、足場へと辿り着いた私達の目に飛び込んできたのは―――
不思議な、置物だった。

球状のガラスのようなものに包まれ、転がってしまわないように土台に嵌めこまれている。
感じるのは
その中には、精巧な家と木の造形品が入っている。
そしてそれに近付くごとに、私の中の違和感は更に強くなり、眩暈すら生じる程だった。
だがここでくず折れるわけにはいかぬ、と己の両脚を叱咤する。

 「……これは」

ベリー・ベリーは、ぽつりと呟いた。

 「先生の……」

懐かしきかな

その呟きに驚愕するのも束の間。

幻想の一時は
世界が、滲む。
歪む。
澱む。
刹那のまどろみ
まるで意識を消失する前に見える、あの銀色の光景のように。

全てが、遠ざかっていく。

――――そして、それは刹那のもの。
私達二人は、いつの間にか小さなログハウスの前に立っていた。
蒼き空は
不自然なまでに蒼い空は、まるで水晶の輝きのように眩しい。
白く彩られた地と木には雪のようなものが被さっているにも関わらず、冷気のようなものはまるで感じられない。
そして何より、先程まで感じていた眩暈のような奇妙な感覚が、まるで嘘のように消失していた。

白光の中で
 「ああ…………」
溜息のような、吐息のような。
その少女の口から零れたものは、まさに感慨無量のそれだろう。
私はその背を手の平で軽く押し、歩を進めるように促した。


家の中に入ると―――程好い温もりが私達の身を包んだ。
暖かき
外見通りの木造の室内には、暖炉やパンを焼くためのオーブン。
食器や食材、その他にも雑多とした物が置かれた棚が幾つもあり、隅には寝台が一つ置かれていた。

室内を見回す私の耳に、きしりと小さな物音が届いた。
その音は、目の前にある階段の先からしたのも理解していた。


 「どなたかしら? 私の家に入ってこられる人が居たなん……」
そしてついに

上から降り注いだ言葉が、ぴたりと止まる。

その声を耳に

 「せんせい……?」
降り注いだ言葉に反応し、返したのは、ベリー・ベリー。

こぼれるのは

 「せんせい……」
 「まさか……ベリーなの?」

麗しき

ゆっくり、ゆっくりと階段から降りてくる見目麗しい女性。

再会の抱擁

 「せんせいっ!!」

女性が階段から降りきった時、ベリー・ベリーはその胸に飛び込む。


我が心に感じるのは

……ようやく、本懐を遂げられた。
私は再会の抱擁を見守りながら、ただ只管に少女へ無言の慰労と賛辞を送った。


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