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 標を求めし者は畢生の終着を見出す。
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 「それでぇ、雪の中をがんばって進んでたら、船が止まってる村に着きましてぇ……」

興奮、高揚を抑えきれぬ声音。
ベリー・ベリーの壮大な物語の口伝はまだまだ終わらない。
その話の一つ一つをゆっくり噛み締めるかのように頷く、アリア・セレール。
再会の喜び
 「そこの宿屋で、ヴァルネラさんっていうきれいな女の人に会いましてぇ……それでそれで、そこで初めておじさんに会いましてぇ~」
 「ヴァルネラ……えぇえぇ、彼女はとっても優秀なウィザードだわ」
 「そう、そうなんです、えっと、大学の服を着てましたし、とってもきれいな服だからきっとすっごい魔法使いと思いましてぇ、それでそれで、先生のことを知ってると思いましてぇ……えっと、それでぇ、そこから―――――」

再会の高揚

――――親子の会話。
これをそう言わずに何と表そうか?

嗚呼、と胸中にて思わず独りごちたのは、二人の関係に対して納得の感情と、私個人の身勝手な寂寞(せきばく)の感情。
やはり、この少女……ベリー・ベリーは『こう』あるべきだ、と。

ベリー・ベリーがアリア・セレールと、どのような日々を過ごしていたのかは知る由も無いのだが、恐らくはきっとこうだったのだ。

再会の祝い酒?
こうして少女が熱心に語り、そして時に尋ね、それを養母が飲み込み、答え、時に教える。
これが二人の、この師弟の、この親子の、日常。
この光景に何処となく既視感を覚えたのは、私自身ベリー・ベリーとの旅路の最中に似たような経験があるからだろう。
但し、私の場合は語る側であったが。

ベリー・ベリーの聡い部分を知らなかったとは言え、意気揚々と語っていた頃の己を思い返せば、若干気恥ずかしい。
その辺も冒険譚の断片に『養母』に聞かせるかも知れないと思うと、背中がこそばゆくなる。

先生も思わず
 「そ、それじゃあ、こちらの方とはそれからずっと一緒に!?」
頓狂、とも聞き取れるような声を、アリアが急にあげる。
 「はい! そーなんですよぉー!」
弟子は驚きもせずに
その声に驚きも弾かれもせず、けろりとした様子で答えるベリー・ベリー。
 「おじさんには本当にお世話になりました! テントをささっと作っちゃったりとか、天気予報とかしちゃったりとか!」
まるで自分の事のように他人の口から語られる、というのは悪い気分ではないものの、やはり気恥ずかしい。
アリアの口から、思わず漏れる長い吐息。
 「まぁまぁそれはそれは……。どうもありがとうございます」
集まる視線
私に向かってアリアは深く頭を下げた。
 「ほら、ベリーもですよ」
 「はぁい。おじさん、本当にありがとーございますぅ」
ベリー・ベリーもそれに倣い、私に頭を下げる。
 『あ、ああ、いえいえそんな……』

―――たまたま出会って、一緒に旅をしただけですよ。

と、口にしようとしたが、それは己の感情によって憚られる。

そう。
旅は道連れ、と言い表すにしてはこの少女、ベリー・ベリーとの旅路は長いものだったからだ。
私達の旅には、色々な事がありすぎた。
ただその一言だけ発し、口を噤む。
今は『部外者』である私が、二人の会話に割り込むのは無粋だろう。
話の幕を引き
 「おじさんは優しくて、すっごく強いんですよぉ~!」
ベリー・ベリーがアリアに向き直ると、今度は私に関する話題になったようだ。
 「おじさんはゾクの矢が当たってもへっちゃらなくらいで、ほんとすごいんですよ!……あっ、あとですね!」
瞳を輝かせながらの賞賛の言葉が連ねられ、場は再び親子の交流の空気へと戻った。
……のだが。

 「ホワイトランって街ではですね、ドラゴンとも戦って、倒しちゃうくらいなんですから!」

まるで私一人で立ち向かって倒したかのような物言いだったが―――問題はそこではない。
朗らかでにこやかだったアリアの表情が一瞬だけ曇ったのを、私は見逃さなかった。
瞬間
しかし、すぐさま柔らかい笑顔に戻り、
 「あらあら、それは凄いわねぇ」
と口元を綻ばせながら、頷いて返す。
そしてアリアは唐突に、
 「お話の途中だけど、ベリー。そろそろお風呂に入ってらっしゃいな。長旅で疲れてるでしょうから、いつでも寝られるようにしておきなさい?」
と、ベリーに話を切り上げるよう促す。
 「あっ、そうですねぇ~」
アリアからの言葉を疑念、疑問、何も持たずに受け止めて返す。
 「そこの奥の扉の先がお風呂よ。どうぞいってらっしゃい」
私の右後方の扉を指し、ベリー・ベリーを促した。
 「はーい」
ベリー・ベリーは返事と共に帽子を取り、椅子から立ち上がるとパタパタとした足取りで扉の方へと向かう。
そしてふと、私の横で止まった。
茶目っ気
 「……おじさんも一緒に、入りますぅ?」
予想だにしなかったその茶目っ気溢るる言葉を掛けてきたベリー・ベリーに、私は破顔せざるを得ない。
親の前ではおしゃまで居たい、と言う幼い心から来る、ちょっとしたものなのだろう。
 『ふふ。ゆっくりのびのびと、浸かっておいで』
 「はぁーい」
そう返してくるのは解っていた、と言わんばかりの返事。
ころころとした笑みを浮かべたまま、ベリー・ベリーは浴室へと足を向けた。

――――――

浴室から水の跳ねる音が聞こえる。
今頃ベリー・ベリーは湯浴みに頬を緩めている事だろう。
大人として
壁を隔てて微かに聞こえてくる鼻歌が、あどけない。
私とアリアはそれを耳にして、口元を緩める。

だが今は、そんな少女の様子に微笑ましく感じ入っている時ではない。

お互いにそれは理解していた。
そして先に口を開いたのは、アリア。

本題とも
 「……ご存知、でしょうね」
浴室のほうを一瞥した後に、その瞳が私を真っ直ぐに見つめる。
 『……ええ』
アリアの言葉の意味は説明されるまでもなく察せられる。
 『驚きました、それに直面した時は……しかし、私はその存在について口伝で知っていました』
私の言葉の後、アリアは深呼吸を一つしてから―――

憂いの色
 「あの子は……正真正銘、アカトシュの祝福を受けし者、『ドラゴンボーン』です」
―――辛苦なる表情を浮かべ、そう呟いた。
私はその言葉に、狼狽する事も歓喜する事も無かった。

 「それを知ったのは、先代……と言い表すのも変でしょうけど、ベリーの前のドラゴンボーンが命を落とした時……」

私はアリアからの懺悔にも似た言葉へと耳を傾ける。


―――――


 ――先代のドラゴンボーンは『アベイ』というアルゴニアンで、私は……彼と一時共に冒険をした仲間でした――
過去

 ――彼はドラゴンボーンの運命……ドラゴンスレイヤーとしての宿命に翻弄され、その強大な力から周囲に疎まれ畏れられ、時には権力者達に利用され……それでも戦い続けました――

孤独な戦い

 ――世界を滅ぼそうと企む『邪竜アルドゥイン』に立ち向かえるのは、ドラゴンボーンである自分だけだと己に言い聞かせながら……――

人知れず

 ――私がアカトシュより『導く者』の宿命を受け、アベイと共に戦えなくなってからも……彼は、一人で。人知れずドラゴン達と戦い……――

終幕

 ――そして邪竜との戦いの果てに、彼は命を落としました。その強き魂を邪竜に喰われ、跡形もなく『消されて』しまったのです……――

――――――


幽寂な声音で語られし英雄譚は、その死で終焉を迎えた。

 「そして私は『導く者』としてアカトシュより再び天啓を受けました。あの子が……ベリー・ベリーが、次のドラゴンボーンであると……そして、それは『定められていた』事だとも」
人知れぬ物語
アリアのその瞳に宿る色は、とても悲痛だ。
 「あの子と一緒に旅をしてきたのなら……あの子の特殊な力、ご存知でしょう?」
そう、私は……いや、私『達』はそれには何度も助けられた。

露知らず

 「あれは『天明(てんめい)の御声(おこえ)』と呼ばれる、『キナレス』に愛されし者の能力で、野生動物達から愛され敬われ、そして彼等の声を聞けたりするものです」

………
表情には出さないものの、内心驚愕せざるを得なかった。
ベリー・ベリーの持つ奇妙な能力は、神からの祝福であったとは。
つまりあの少女は、自然の女神キナレスと、時の司神アカトシュ、二人の神から加護を受けている存在なのだ。

 「あの子は……神々に祝福されし運命の子……そして……邪竜アルドゥインと、戦う事を運命づけられた、存在なのです」

その言葉の途中からアリアはうな垂れ、そして忸怩に塗れるかのような声音で、それを語った。
そこから伝わる、心身を引き裂かれんばかりの苦悩。
ここで私が、

 定め?
  運命?
   そんなものに縛られるだなんてバカげている!

……と吠え、青臭いと感じられるような熱さを持っていれば、良かったのかもしれない。
だが、私にはそれが出来ない。
知恵深き者による懊悩を思えば、事の必竟はそんなにも簡明なものではないのだ。

押し黙る私達の耳に、後方から物音が届いた。
 「はぁーさっぱりしましたぁ~」
ほっこり気分
沈黙に包まれた私達の間を割き、花が咲いたかのように空気が和らぐのを感じる。
アリアの表情が再び、優しい母親のものへと変わる。
先程までの沈痛な面持ちが嘘のようだ。
 「おじさんもどうですかぁ? 先生がいれてくれたお風呂、とっても気持ちいいですよぉ?」
ベリーベリーの身からふわり、と漂う花の優しい薫り。
団欒、とも言える
そう言えばアリアは花や植物が好きだった、と言う話をウィンターホールド大学で聞いた。
浴槽に花でも浮かべているのか、それとも湯自体にそれらの成分を混ぜているのか。
 「ええ、よろしければ如何ですか? 私特性の薬効の湯ですよ。うふふ」
アリアは朗らかな笑顔と共に言葉を重ねる。
私は軽い会釈をし、
 『お気遣いありがとうございます。それでは一番最後にでも頂ければ』
と返す。
その言葉にベリー・ベリーはわざとらしく唇を尖らせて不満を表す。
だがすぐさま笑顔に戻ると、まじまじと私の顔を見つめた。
そして、いつもとは違った声音で―――
 「ねぇ、おじさん」
唐突な質問
と、呟く。
 『なんだい?』
その灰色の瞳と視線をぶつけあう。
 「私、お風呂に入りながら考えてたんですけどぉ……」
私から一瞬視線を逸らしてまごつくと、そこからまた私の方へと向き直る。

 「私、おじさんのこと大好き! だからお願いです、私の『お父さん』になってくれませんかぁ?」

衝撃や衝撃
 「ええっ!?」

意外すぎる言葉
 『……お、お、とう……?』

私より先に仰天せし声を発したのは、アリアだった。
それでもなおベリー・ベリーは止まらない。
 「あっ、そうだ! 先生とおじさんがケッコンすれば良いんですよぉ! そうすればおじさんがお父さんになりますから!」
 「えええっ!!?」
その無邪気で屈託の無い発言に、更に驚愕の声のアリア。
屈託のなさ
 「だって先生、いっつも『早くケッコンしたい』って言ってたじゃないですかぁ? おじさん、とっても優しくて良い人ですよぉ?」
 「ちょ、ちょっとベリー!? そ、そんな恥ずかしい事、人様の前で言うんじゃありませんっ!」
アリアはベリー・ベリーの口から出る言葉に、周章狼狽の極致に達しているようだ。
 「えっ、恥ずかしいことなんですかぁ……?」
 「あっ、いや、そういうことじゃなくてまだ心の準備が、ってそうじゃなくてですね!? えっと、その……」
しどろもどろとするアリアを尻目に、ベリー・ベリーは楽しくて仕方がないと言った様子。
悪意の無さは時に
 「けっこん! けっこん!」
 「ああ、もう! 大人をからかうんじゃありませんっ!」
 「ケッコン! ケッコン!」
 「こらっ! ベリーったら、調子に乗るんじゃありませんよっ!」

―――――――――



紙の上を、ペン先が踊るように滑ってゆく。

……親子二人による『団欒』と言う名の面白おかしき喧騒の後、ベリー・ベリーは促されるままに床についた。
それからしばらくアリア・セレールとは込み入った話題を幾つか交わして、彼女はベリー・ベリーと同じ床にて眠りについた。
一人になると、私も僅かながらの眠気に囚われたが、踏み止まってこうして文を綴っている。
喧騒の後に綴る
ウィンドヘルムを出で、ミックとチェシャと共に街道を往き、イヴァルステッドでシャに出会い、ブレイズと対面し、またドラゴンに襲われる。
脱兎の如くイヴァルステッドを後にし、そしてリフテンに向かう最中にスネークとの再会。
荒廃したリフテンにてフロッグの救助に立ち合い、そしてようやくアリア・セレールとベリー・ベリーの再会を果たした。

思えばいつ頃からか、旅日誌の内容はベリー・ベリーと共に旅した日々を綴るのが当たり前になっていた。
それだけの旅路を、私達はしてきたのだ。

ドーンスターで出会い、ウィンターホールドに行き、モーサルに行き、ソリチュードに行き……マルカルス、ファルクリース、ホワイトラン、ウィンドヘルム……リフテン。

そして、現在。

親子


此処に至るまでに様々な人々との出会いと別れがあり、触れ合いがあった。
それらの一つ一つが私の心を震わせ、精神の成長を促し、そして『私』の軌跡を豊かにしてくれた。
追時に耽ると、それは残光のように瞼の裏で輝き続けているかのように感じられる。

平穏
ふと、私は寝台に眠る親子……アリアと、ベリー・ベリーを眺める。

愛する母アリアの腕に抱かれ、寧静に包まれたベリー・ベリーの寝顔を思うと、私は心が温かくなった。
それと同時に、ベリー・ベリーの置かれた状況……いや、立場と言うべきか。
それらを思うと、切なくて堪らなくなってくる。
キナレスとアカトシュの加護を受け、神に愛されし人間だ、伝説のドラゴンボーンだと言っても、本質で言えば『人間』である事に変わりは無い。

食事をせねば空腹を覚えるだろう。
睡眠を取らねば眠気に包まれるだろう。
恐怖に物怖じする事もあるだろう。
心が荒んで他人に噛み付いてしまう事もあるだろう。
いつかは嫌いな人間にだって、巡り会うだろう。
いつかは恋に落ちる事もあるだろう。
愛する伴侶と共に過ごし、子を育む事もあるだろう。
もしくはそれ以上の意義を見出し、それに没頭して過ごす事もあるだろう。


……そう。

私は。

ベリー・ベリーに。

そうあって、欲しいのだ。

そうであって欲しいのだ。

…………

―――虚空に視線を漂わせ、私はしばしの黙考。

しばらくして自らの日記を取り出す。


そして、最後に綴った文の末尾に、こう付け加えた。







    ――― 唐突だが、私の旅日誌はこれにて終わる。 ―――

   ――― 何故なら私は、己の旅の終着点をようやく見つけたからだ。 ―――

  ――― これまでの短き畢生(ひっせい)を彩ってくれた全ての人々へ。 ―――
  
 ――― この上ない感謝を込めて。 ―――

――― ありがとう。 ―――



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