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 黴と潮と死の香りに包まれて。
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古代ノルドによる石造りの遺跡……。
薄い鉄で作られた入り口の扉を開けて、私達はイルボルスンドへと入っていった。

陰鬱とした遺跡の中は、密封とまではいかないが閉ざされた空間であるため黴臭く、海も近い事もあってか潮の臭いも充満していた。
それの相乗効果とでも言うのか、イルボルスンドはただでさえ漂う死臭をより強くさせている。
シャコンヌとフェンネは、石扉を潜ったと同時に表情を曇らせた。

 「嫌なニオイがするわね、ここ。まぁいいわ、それじゃあ先導役を決めましょうか」

一人で探索する場合は何をするにも行動の責任は全て己自身によるもので、その代償を被るのも己自身。
しかし複数人で未知なる場所を探検する場合、その先に罠が仕掛けられてないかどうかを確認する先導役を決める事が多い。
パーティーにおける安全性を高めるためだ。

イルボルスンド、探検開始
シャコンヌとフェンネ、二人の視線が私に注がれる。
だが言葉は無い。
例え指名されても断るつもりはないが……私の口で言う事が大事なのだ。
女性だから、とか男性だから、とか、そういった事を口にするつもりも私の腹には無い。
冒険者に性別は関係ないのだから。

 『私が担おう。ついてきてくれるかな』
 「そうこなくっちゃ」

シャコンヌの返しの言葉。
フェンネは安堵の息が零れたと同時に、謝辞の瞳を私に送った。


先陣
カンテラを左手に持ち、右手に剣を持って進む。

垂れ苔が天井から下がり、そこかしこにジャイアントスパイダーの粘糸が揺れる。
道を塞ぐかのように張られた糸を剣で振り払い、纏わりついた其れを炎で即座に溶かすのを繰り返す。

ジャイアントスパイダーが巣を張っていながら、道すがらに枯れた獲物(動物)の姿を見かけない所からして、まだ根付いたばかりなのかも知れない。
その証拠に、身を強張らせるかのように縮んだジャイアントスパイダーの死骸が幾つか転がっている。
餌にすべき獲物が居ないため、餓死したものだ。

しばらく道を進むと、少し広めの一室の壁に設置されたレバーが目に飛び込む。
その側には色が少し違う壁があり、指先で叩くと反響の音が他の部分と違った。
レバーを引いて開く隠し扉、とすぐに判った。

だが私はそれを無視し、別の道へと向かおうとするとシャコンヌがその後を続く。
するとフェンネがその後ろから声を掛けてきた。
 「このレバーを引けば、隠し扉みたいになってるこの壁が開くんじゃないですか?」
ごもっともな意見。
その問いに答えたのは、シャコンヌ。
 「隠すつもりのない隠し扉と、レバーのセット。そしてレバーを引く位置に向かって備わる小さな菱形の穴が壁に幾つも。はい、これの意味は?」
唇を尖らせて返す、フェンネ。
 「……罠ってコトですか」
 「そういうこと。蜂の巣になりたくなかったら触らないでね」

古代ノルドの仕掛け
緩やかな昇り階段の先のある一室。
その部屋に置かれた古代ノルドの仕掛けの石柱。
冒険者ならば誰でも知っているであろう、動物のパネルが三つ置かれていた。
 「鳥や魚、蛇の模様……なんでしょう?」
 『先人の謎掛けだよ』
じ、と部屋を見て回るシャコンヌは、ブツブツと独り言を洩らす。
 「魚・鳥……鳥・蛇……蛇・魚……」
 『レリーフは二つ。パネルの絵柄は三種。さて』
私も釣られて、思わず呟きが零れた。

 「わかったわ。魚・鳥の所は蛇に。鳥・蛇の所は魚に。蛇・魚の所は鳥に変えるのよ」

シャコンヌの導き出した答えに、私は『なるほど』と肯き、言われた通りに柱を作動させる。
 『これで先程の扉が何事も無く開くといいね』

開く石扉
シャコンヌの読みは的中した。
来た道を引き返してレバーを引くと、扉は石の擦れる音と共に沈んでいって道を開く。
 「ふふっ、読み通りね」

扉の先は人間一人が通行できるぐらいのトンネル型通路が下り道で作られている。
先程同様に私が先頭に立ち、先を進む。
トンネルが終わり、ひらけた場所に出るとそこにはホールのような作りになった一室に出た。
開けた先は
遠目から見て解る程、乾いたジャイアントスパイダーの死骸に、黒塗りの鉄の柩。
物音や気配こそしないものの、この場に何かが居る事がすぐに感じられた。
私が静かにクロスボウを構えると、フェンネは私の顔を覗きこむ様に見つめるが、意に介せず視線を上にやり――

勘とは
一発、撃つ。
それは敢えて外れる位置への射撃。
弓よりも速く飛ぶ矢は、壁に当たれば反響音も大きい。
大きな物音を起こす矢は、対象を狼狽と警戒を同時に招き、身を強張らせながら地に落ちていく。

落下する様子をただ見つめる訳でも無し、私はそれと同時に駆け寄り、
剣撃
うろたえるジャイアントスパイダーに深々と剣を一突きさせ、即座に葬る。

私の行動に反応した二人は、剣を抜いて戦闘体勢に入る。
ガコン、と何か重たい蓋が外れたような音。
私のクロスボウで立てた物音に、ドラウグルが覚醒したのだ。

ドラウグル覚醒
怒号で己自身を鼓舞することもなく、二人は冷静にドラウグルへ剣を向ける。

氷と魔法防御の衣を身に纏いながら魔力の氷柱を放つ、シャコンヌ。
腰に差した剣から更にもう一本の剣を手にし、二刀で華麗に踊るフェンネ。
軽やかな身のこなしによる見事な回避と、鋭い剣捌き。

華麗なる二刀流

覚醒したドラウグルも、彼女達の前には再び眠りにつかざるを得なかった。

女とは
 「へぇ。ぽわっとしてるから口だけかと思ってたけど、やるじゃない。お上品な剣にしては」
 「あなたこそ。繊細な氷の魔法が得意だなんて意外でした」
襲い来るドラウグルを片付けると、二人は互いの腕を称え合うかのように言葉を交わす。
含まれた小さな皮肉が何ともはや女というものは、と私は思わず苦笑い。
そもそも一目見て「腕が立つ」と見抜いてフェンネをスカウトしたのに、と言う野暮な言葉は飲み込んでおいた。

敢えて外した射撃の……先程放った矢を拾い、私達は先へと進んだ。

遺体の並ぶ場
油が床に零れた狭い通路を抜け、ドラウグルが安置された場へと開ける。

緩やかな昇り坂を歩き、時折床に転がるリネンラップを蹴りながら道なりに進むと――

謎の遺体
 「あっ! あれは……!」
その先の部屋で、ローブに身を包んだ者の遺体を発見した。
 「傍らにシャベルがあるってことは……たぶんアレが」
口を噤むシャコンヌ。
立ち呆けるフェンネに目もくれず、私はその遺体の側へと歩み寄る。

ふと、懐に紙切れが挟まっている事に気付いた。
それを取り出し、私は開く。
志半ば
恐らく後々に手記に残す為に書いておいた覚書だろう。
埋葬室とやらの扉のカギを発見した旨と、この場所に未知なる宝が眠っていることへの確信が綴られていた。
ソリチュードでシャコンヌから渡された手記と、文字の癖が一致する事からして……
やはりこの者は、エラーミルで間違い無い。

エラーミル
エラーミルの皮膚に触れると、湿気と黴が表面を保護しているのか何とも言え無い粘感があり、死後あまり時間が経過していないようにも感じられた。
だが口内は黒に変色し、乾ききっている。
 「結構月日が経っている感じかしら? 腐敗していないのは奇跡でしょうね」
シャコンヌが眉を顰めて呟く。
私はエラーミルの服を弄り、覚書に記されていたこの埋葬室のカギとやらを探す。
腰のポケットに入っていたそのカギを握り締め、私は先へ進むよう二人を促した。

更に深く
壁の質感は打って変わり、天然の岩窟。
発光するキノコが明かりとなり、そして道標となる。
道中、物陰からシャウラスが顔を覗かせる事があった。
幸い此方には気付いていないようであったが、エラーミルはこいつの毒に当てられてしまったのだろうか、と思うと……同じ冒険者としては遣る瀬無い気持ちが去来した。

フェンネがすぐさま弓を構えるが、私はそれを手で制すと、供養という訳ではないが、剣でそのシャウラスを一突きし、葬り去った。

そのまま道なりに進むと、また古代遺跡へと通ずる場へと出る。
天井の岩盤が不快な音を立てるたびに不安を煽るが、私達は進む。


 そして――

埋葬室へ続く
 「……そのカギ、さしてみて?」
シャコンヌの言葉に従い、私はエラーミルの懐より手に入れたカギを差し込み、回す。

カチリ、と軽快な音と共に、扉はゆっくりと開いていった。



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