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 旅の知恵は人から人へ。
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ドーンスターを発ってすぐに、ゆるやかに降っていた雪が止んだ。
私は地図を取り出し、経路の再確認を行う。
スカイリム中央・南部と、北部で最も違うのは、危険度だ。
寒さによって体温が奪われたり、吹雪で身動きが出来なくなるのは勿論の事……
街道から僅かに外れた林の中を通るだけで、トロールやフロストバイトスパイダーに遭遇してしまう確立が段違いに上がるのだ。

道は慎重に選ばねばいけない。
幼い少女と共に行くのならば、尚更だ。

路の確認
 『ここからウィンターホールド大学に行くには、海岸沿いに行くのが一番手っ取り早いが……』
地図を確認しながら呟く私を、灰色の瞳で見つめる少女。
期待と信頼に満ち満ちた、実に純粋な色をしていた。
 『なにぶん、危険が多くてね。野盗や海賊崩れ、それに道を外れた異端な魔法使いなどの塒も多い』
ふむふむ、と小さな声で肯くその姿は、まるで飼い主を見つめる子犬のように見える。
 『少々遠回りになるが、街道に沿って進もうか。その方が安全だと思うよ』
もっとも、その安全な街道とやらも、雪に埋もれてしまって獣道のようになってしまっているが。
 「はぁい、解りましたぁ」
気の抜けた声で返す、ベリー・ベリー。


雲は晴れ、東より昇った陽射しが白い雪に反射する。
網膜に刺さるかのような眩しさに、思わず顔の前に手を翳して影を作る程だ。
瞳の奥に残る残光に煩瑣な思いを感じながらも、澄み切った青い空にて濾過される。
風も程よく吹いて頬を撫で、実に心地よい。

旅の出発の相応しい、良い始まりと言えるだろう。

 「お、おじさん……ちょ、ちょっと……ま、まって、くださいぃ~………」

ミステイク?
か細い声が後方から聞こえて振り返ると、肩で息をするベリー・ベリーの姿があった。
彼女は私の側まで走り寄ると、へたりと崩れ、掌を地に着けた。
 『……疲れてしまったのかな? 休憩しようか?』
 「ち、違い、ますよぉ……ぜぇ、ぜぇ……あ、足、足が、足が、速すぎますぅ……」

……ああ、何という詰まらぬ誤りを私はしたのだろうか。

彼女と私では、背丈が違い過ぎる。
それはつまり歩幅も大きく違うと言う事を表す。
私の一歩が、彼女にとっての二歩や三歩になるのでは、付いて行くだけでも相当な労力を費やすだろう。
 『申し訳ない事をした。もう少しゆっくり歩くよ』
私が頭を一つ下げると彼女は、
 「お、お願いしますぅ……」
と、喘鳴しながらも答えた。


  しばらく街道を進むと―――
僅かにだが小さな地響きが足に感じられた。
 『しゃがんでくれ』
私のかけた声を疑う事無く従い、さっとしゃがみ込む。
 「どうしましたぁ?」
事情が飲み込めていない、と言った様子でベリー・ベリーは問いかけてくる。
 『巨人が居る。しかも、何者かと交戦していたようだね』
ストーンサークルの先
天然の石柱に掛けられている、なめされた牛皮……ないしは、マンモスのなめし革。
染料で独自の模様が描かれた其れは、巨人達の縄張りを示すものだった。
 『となれば……気分も高まっていて、あまりよろしい状態ではないかな』

巨人の縄張りの方へ眼をこらして、よく見てみると―――
哀れな山賊
岩と草の陰に隠れて、毛皮の鎧に身を包んだ山賊らしき姿が確認できた。
同時に、息絶えている事も。

 『巨人の縄張りには宝物が眠っている。それを失敬しようとする輩も多いんだよ』
大体は返り討ちにあうけどね、と付け加える。
 「はぁ~……怖いですねぇ」
現実味がまるでない、とでも言うかのような呆けたような声のベリー・ベリー。
遠くて見辛いとは言え、死体を目の当たりにして平静を保っていられるその精神は大したものだと感じた。
 『しばらくこのまま潜めて進もう。見つかると厄介かも知れないからね』
 「は~い」

私の神妙な声と相反する、彼女の軽い返事に、思わず転びそうになったのは言うまでもない。


 ―――――

雪に埋もれた街道をしばらく進んでいくと、青い法衣に身を包む女性達が見えてきた。
恐らくは、何らかのエイドラの巡礼者だろう。
白昼堂々と街道で法衣を纏って闊歩する者達は、往々にしてそういう立場の人間だ。
 「そこのお二人、止まりなさい」
顔がはっきりと確認できる程の距離になった時、呼び止められる。
 『こんにちは。何でしょう』
番人と
私は挨拶の言葉と共に、巡礼者に頭を下げる。
 「見た所、旅人らしいけど……」
値踏みをするかのような、全身を隈なく凝視される。
特に、ベリー・ベリーの方は何度も何度も。

 「吸血鬼、では無さそうね。それにしてもお嬢ちゃん、随分と変わった格好をしてるわね」

吸血鬼、という単語で彼女達がステンダールの番人だと言う事を理解した。
 「魔法使いですからぁー」
番人による剣呑とした空気など露ほどにも感じないのか、緩やかな声で答えるベリー・ベリー。
眉を顰める番人。
 「ふぅん。ま、いいわ。もしもデイドラ信者だったならば子供であれど容赦はしないわ」
 「我々『番人』はいつでも監視している。覚えておきなさい」
番人達は納得が行かない様子であったが、ベリー・ベリーのあどけなさと邪気の無さを信じたのだろう。
我々に進むよう促すと、
危うきに寄らず
 「さよーならぁー、気をつけてー」
と、呑気に手を降って別れの挨拶で答えるベリー・ベリー。
唖然とする番人達を尻目に、私達はまた歩を進めた。


太陽の位置も高くなり、白銀の世界を進んでいく。
すると今度は、石造りの小さな砦が目に飛び込んできた。
 『しゃがんで、そのまま木陰へ』
先ほど同様に、ベリー・ベリーに屈むように促し、そのまま木陰へと案内する。
山賊の拠点
 「あのぉ、どうしたんですか?」
親鳥の後ろを付いて行く雛のように、また疑念も何も抱かずに私に倣う。
 『ああいった砦は、基本的に山賊や追い剥ぎの住処と思っていい』
ベリー・ベリーは小首を傾げているが、そのまま続ける。
 『避けて通るに越したことはないかな。このまま迂回して進もう』
 「うかい?」
先ほどとは反対側のほうに小首を傾げながらの、問い。
私は一呼吸置いてから、言葉を正す。
 『……少し遠回りをしながら、進もう』
 「はぁい」


 ―――――

迂回経路を取った私達は緩やかな斜面を昇る。
雪に足を取られぬよう気を配りながら進むため、骨が折れる事だが安全の為には仕方ない。
 「あっ、また建物がありますねぇ」
ベリー・ベリーが指差した先には、監視目的で造られたかのような石の塔があった。
山賊・野盗は数多く
 『山賊か、死霊術士か……見通しが利く分、塔の方が危険は大きいね』
塔頂部分へと目を凝らす。
幸いにして見張りのような存在は見受けられなかった。
 「うかい、ですねぇ?」
得意気な様子で私に言葉を掛けてくるベリー・ベリーに私は、
 『ああ、迂回だね』
と、少し口元を緩めながら、返した。


  ―――――――

迂回経路である道なき道を進み、ようやくまた街道へと合流する。
 「わぁー、すごいすごい」
感嘆の声。
幽霊海と地平線
街道から眺めるその景色は、北の幽霊海と地平線を一望できる絶景だった。
手を翳して遠くを眺めるベリー・ベリー。
私もそれを真似し、一時どこまでも続く青い景色を楽しんだ。
 「ねぇ、おじさん。あれはなに?」
指差したその先にあるのは、ドゥーマー式の建設物だった。

ドゥーマーの塔を
 『かつてスカイリムに存在した種族、ドゥーマー達の建造物だね』
私の簡素な説明に、瞳を輝かせるベリー・ベリー。
 「これが!? すごいすごい、初めて見ましたよぉー!」
 『山林の中などに多く見られるね。中には宝もあるが、危険も多い』
興味が尽きぬ様子で建物へと近付いてゆくベリー・ベリーをよそに、私は空を仰ぐ。

太陽が傾き始めている事と、ドーンスターを出てから休憩も無しにここまで来た事を鑑みる。
私が顎に手をやり考え込むと、ベリー・ベリーはそれを見て隣でその動作を真似していた。
熟考
 『今日はここにキャンプを作ろう。周囲に熊もトロールの姿も見えないからね』
山の天候は変わり易いと言う部分も加味すると、今日はここまでにした方が良いと判断した。
 「はぁーい!」
疲労の色など一点も混じらぬかのような活力に満ちた返事。
若さ、と言うものは素晴らしいなと感心した。


陽も落ちゆく
幸いな事に、ドゥーマーの建造物の近くにあった廃屋の中にキャンプに使えそうな代物が多々眠っていた。
それらを組み合わせて、組み立てて、目的の形へと変えてゆく。
私が慣れた手つきでテントを作り上げていくのを、傍らで見ていたベリー・ベリーは、
 「すごいですねぇ。魔法使いみたいに何でも出来ちゃうんですねぇ」
と、感心するかのように呟いた。
 『旅人生活が長いからね。私のような生活をしていれば、キミも出来るようになるさ』
口を動かしながらも、無意識的に動く私の両腕は、着々とテントを作成する。
このままの調子ならば、陽が落ちる前には完成するだろう。
 「あははっ それじゃあ、おじさんじゃなくて先生って呼ばないとですねぇ~」
私の言葉に、ころころと笑うベリー・ベリー。
釣られて、思わず顔が綻んだ。
 『おじさんのままでいいさ』

  ――――――――

食事を終えた私達はテントの中に入り、山腹に吹く寒風を凌ぐ。
皿の上に蝋を立て、小さな灯りを点し、寝袋の上に腰を下ろした。
食事を終えて一息
安堵の息をついたのか、先ほどまで元気に満ちていたベリー・ベリーも随分大人しい。
私も無言のまま、己の肉体に睡魔が降りてくるのを待っていた。
 「あのぉ、おじさん?」
幼い隣人の言葉に、顔だけ向けて返す。
少しばつが悪そうにしているようにも見えた。
そこで私は、察した。
 『ああ、すまないね。うら若き乙女が男と閨を共にするのは無礼だった』
旅慣れた女性ならいざ知らず、幼い少女が見ず知らずの男性と寝床を共にするのは流石に不安なのだろう。
私は気の利かぬ己自身を胸中で叱責しつつ、立ち上がろうと膝に掌を当てたが―――
 「えっ、それは別になんて事ないですけどぉ」
あどけない言葉
首を捻ったのは私のほうだった。
更にベリー・ベリーは続ける。
 「ちょっとおじさんのお話でも聞かせてもらえたら、うれしいなって思いましてぇ」
またしても私は、首を捻る事になる。
 「おじさん、旅人生活が長いって言ってました。その前は、どんな生活してたんですかぁ?」
 『ああ、なるほど』
言葉の意味を理解した。
この少女は、私自身の事を聞きたがっているのだ。
時には噤む
口を噤み―――体を投げ出すかのようにして横になる。
 『……キミの歳は幾つなんだい?』
 「私ですかぁ? えっと、13か、14ぐらいだったと思いますよぉ」
質問に対して質問で返すも、それについて言及する事なく素直に答えが返ってくる。
 『だったと思う、と言うのは?』
月も煌く
 「私、捨て子なのか、みなしごなのか、よく解らないんですよぉ。物心ついた時にはもう一人だったんでぇ。だから本当の歳もわからないんですぅ」

……よくある話と言えば、よくある話なのだろう。

胸が痛まないと言えば嘘になるが、私は侭ならぬ感情を抱く。
 『そうか……気に障ったのなら、申し訳ない』
と、幼い隣人に一言謝罪の句を述べた。
 「いーえー、どう致しましてぇ」
あどけない声と笑顔のまま、私に返す。

 『幸い今は天候も安定している。よく休んでおかないと、寝不足では道中体が持たないよ』
私の言葉に啓発されたかのように、身を弾くベリー・ベリー。
 「そうですねぇ、寝れるうちに寝ておかないとですねぇー」
そして、促されるままに横になる。

休息
 「おやすみなさい、おじさん」


明日のために
その言葉から五分もしないうちに、彼女は寝息を立てていた。

それを確認した私も、瞼をゆっくり閉じた。




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↓↓ 雪原地区の街道の石畳を排除し、自然な景観に ↓↓
http://skyrim.2game.info/detail.php?id=52548
http://www.nexusmods.com/skyrim/mods/52548/?

↓↓ 寒い地域ではプレイヤーNPCともに白い息を吐く様に(この他にも様々な機能アリ) ↓↓
http://skyrim.2game.info/detail.php?id=27563
http://www.nexusmods.com/skyrim/mods/27563/?
  ※※要:SKSE※※
  ※※MCM推奨※※