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 ウィンターホールドへ。
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太陽がまだ昇り始めている時刻―――私の意識は覚醒した。
それなりの睡眠時間をとったお陰か、身体は軽い。
本来ならばもう少し寝ていたかったのだが、私の中にある漠然とした感覚がそれを拒否していた。

冒険者としての勘、というものだ。

私は隣の寝袋で眠るベリー・ベリーに声を掛け、起床を促す。
 「ん~……んやうゃ……」
だが彼女は口元をもごもごさせて言葉にならない言葉を呟くだけだった。

昨日歩き通しだった事や、慣れていないであろう雪中の野営とあっては疲労も早々回復はせぬだろう。
だが今、それを容認してはいけない、と私の中の何かが訴えているのだ。
蛹が身体を震わせるかのように蠢くベリー・ベリーをそのままに、テントの片付けを始めた。

暁に映える
 「ふわぁ~あ……空がまだ白いですねぇ」
寝ぼけ眼のまま、大きな伸びをするベリー・ベリー。
テントを片付けられて寒風に晒されたとなっては、流石の眠り姫も起きざるを得ない。

朝日に映えるアズラの像を見つめる私を、彼女は欠伸をしながら見つめていた。
 「おじさん、早起きですねぇ」
醒めぬ眠気に喘ぐのは若き証
もうちょっと寝ていたかった、と言いたげな声音であったが―――それでも癇癪を起こさないあたり、彼女は徳のある人間だなと感じた。
 『昨日の天候が穏やかだった反動で、今日の日中には吹雪が来るだろうからね。なるべく早めに出発したい』
 「吹雪が? わかるんですかぁ?」
首を傾げて私を見つめる、灰色の双眸は疑問の色に満ちている。
確証は、ない。
『勘』――と言うだけだ。
だが私は長年の旅の中でその『勘』というものが、どれだけ大きな要素を占めているのかを知っている。
しかし、それをこの少女に説明し、納得させて同意を得るとなると、少々ややこしい所だが。
 『……なんとなく、ね』
言葉に詰まった私は、苦し紛れのような言葉しか出なかったが、
 「それじゃぁ、急がないとですねぇー」
彼女は疑念の欠片も抱かずに、傍らに置いてあった自分の帽子を被った。
雪原を行く
 『すまないね。では行こうか』
 「はーい」
アズラの像が朝日を背負う中、私達は足を進め始めた。

 ――――――

例えば……冬眠をする種の熊は、月日を認識できるだろうか?
ホタルは産卵に適した水辺というものを認識できるだろうか?
少なくとも、彼等にそう言った物事、事象を認識する知恵はないだろう。
生物と言うものは、本能的な何かによってそれを嗅ぎ取り、目的の行動をおこなうのだ。
それを私達、人間に当て嵌めても別段おかしい事では無いと思う。

今の私の目的は『安全にベリー・ベリーをウィンターホールドまで送る事』であり、そのための行動が早起きだった。
そして嗅覚のようなもので、天候が荒れる事を感じ取った。
それを何と表現するかと言う時に、『勘』という単語が当て嵌まるのだろう。

私の勘は的中し、道中進む最中、吹雪に見舞われる事となった。
吹雪
肘を閉じて身震いさせるベリー・ベリー。
先ほど渡しておいた防寒のマスクを着け、私達は歩を進める。
 「うぅ~、寒くて鼻水が止まらないですよぉ」
鼻を啜りながら呟く彼女に私は、
 『凍ってしまうよりは良いと思うよ』
と、少しいたずらめいた口調で返した。
私のおどけた言葉に、霜のかかった睫毛を震わせて返す。
 「あはは。鼻から氷柱はおかしいですねぇ」

一面銀世界となった吹雪の中でも、この少女は笑顔を浮かべる余裕がある。
楽観的なのか、気遣いなのか、汲み取れないが……
この人間性は尊敬に値するものだ、と胸中独り言ちた。
サールザル
岩壁をも凍る谷間を抜け、眼下に広がるのは巨大な遺跡。
木で造られた足場や、寝袋が置かれたその場所は、遺跡と言うには生活感が滲み出ていた。
 「わぁー、大きな遺跡ですねぇ」
 『ウィンターホールド大学のお膝元だね。サールザル、と言う名の遺跡だったかな』
記憶の糸を手繰り寄せ、ベリー・ベリーに説明をする。

私の記憶が正しければ――確かこの遺跡から奇妙な物が発掘され、ウィンターホールド大学で一騒動あったとか。
その時、『アークメイジ』と呼ばれる大学で権威のある立場の者が入れ替わったとも聞いた覚えがあった。
魔法に縁の無い私からすれば、まるで別世界の話のようなものであったため、記憶が朧げで曖昧だ。

 『ここまで来れば、あともう少しだよ。さあ、頑張ろうか』
 「はーい」
白い吐息を浮かべ、小気味良い声が返ってくる。
サールザルの遺跡を横目に、私達はまた吹雪の中、歩き出した。

 ―――――

岩も凍る
 「わっ、あわわっ」
雪道はともかく、凍った道には慣れないのか、ベリー・ベリーは坂道でよく足を滑らせる。
特に岩が飛び出る道では表面が凍っているのもあって、見ているこちらも肝が冷える思いだった。
 『爪先を岩肌に刺すくらいの気持ちで登ろうか。足の触れる部分を減らすと良いよ』
……と、口で説明しても慣れていない以上、滑るのは仕方がない事だろう。
両手を宙に泳がせながらも必死に少しずつ、少しずつ上がって来る。
 「ご、ごめんなさい~」
吹き付ける風が一層焦りを生むのだろうか、うわ言の様に謝罪の言葉を放つ。

 『あともう少しで到着なんだから、焦る必要はないよ。地面に手をつけながら登ると良いかもね』

私の言葉に、はっとしたかのように口をあんぐりと開けた彼女は、言われるままに手を着いた。

ようやく苦難の坂を昇り終え、一息つく。
肩で息するベリー・ベリーは疲労の色を顔に浮かべていたが、
 「お待たせしましたぁ、行きましょー」
と、私を促す。

――雪道を進めど、吹雪は収まる気配が無い。
踏みしめる雪の音が、さくさくと言う軽快な音から、ぎしぎしと木が軋むような音に変わる。
積もっていた根雪ではなく、今降りつける新雪の音が足に返って来ていた。

山峡の先に
思っていた以上に雪の降る量が多い。
早起きして、雪の降らない間に少しでも進んでいたのは正解だった。

モミの木の枝先から、雪が落ちた。
揺れる枝先から見えるのは、石造りの民家。
冷気を遮断する為に隙間無く組まれた様式の建物。

ウィンターホールドの街
私達は無事、ウィンターホールドに到着した。
 「わぁ、もしかしてここが!」
背後から高揚を内包した声が聞こえる。
 『そう、ウィンターホールドだよ』
期待に沿うかのような答えに、ベリー・ベリーは感嘆の声を洩らしていた。
彼女にとっての目的地に辿り付いたのだから、その喜びは一入だろう。

吹雪けども
モミの木に挟まれた山道を抜けて街に足を踏み入れると、衛兵が私達を迎えた。
 「あの方角から来たということは、大学の新しい生徒か?」
衛兵の言葉の意味は、遺跡のある方角から来た、と言う事だろう。
道なき道を進み、山々を越えてくる旅人は少ないだろうから、そう考えるのは自然なのかも知れない。
 「生徒じゃないですけどぉ、大学に用事があって来たんですよぉー」
ベリー・ベリーはいつものおっとりした調子で答える。
 「そうか。大学はあの石橋の向こうだ。頼むからもう面倒を起こすなよ?」

示す先に

衛兵が指を差すその先には――

吹雪に霞む大学
吹雪に塗れながらも存在を誇示する、光の柱に……奇妙な光球を携えたトーチ。
巨大な門が権威と神秘性を表すかのように構えられ、その先には雄雄しい城の如く聳えている、建造物。

これが、ウィンターホールド大学。

私は衛兵に礼の頭を下げると、指差す先へと進む。
そして、その後をベリー・ベリーは着いてきた。

門を潜り、奇妙なシンボルの描かれた床を進み、アーチとなった足場へと向かう。
かなり急な傾斜であり、そして同時に身体へと吹き付ける風に思わず身体を揺らす。
高台にありながらも、風を防ぐようなものが何一つ無いせいで、一層強烈に感じるのだ。

魔力の光柱が神秘的な躍り場を一つ抜け傾斜を進み、また一つ躍り場を抜けると――石橋が、幾らか崩れているのが目に入った。
何故修復せぬのだろう、と私は思いながら慎重に歩を進める。

 「あのぉ~……おじさん?」
訴え
何かを伺うかのような口調で語りかけてくるベリー・ベリー。
見やると、前に手を伸ばしている。
 「えっと……その……ですね」
どことなく、ばつが悪そうな空気だ。

致し方ない
 「手……引いてほしいかなって……」

……私も思わず、ばつが悪そうに頭を掻いた。


――――

 「こんにちはぁー」
開かずの門
先ほどの門構えの床に描かれたものと同じ絵柄の門。
どうやら大学のレリーフらしい。

ベリー・ベリーは大きな声で挨拶するも、風と共に彼方へと飛んで行くだけだった。
 『開かないのかい?』
私の言葉を聞いてから、門の格子に手を掛けて引くが……特殊な鍵が掛かっているのか、びくともしない様子だ。
押しても引いても、冷たい鉄の音が響いて鳴るだけだった。
 「困りましたねぇ~……」
ベリー・ベリーは眉を八の字にし、唇を尖らせる。
衛兵ならば何か知っているかも、と私は思ったが――先ほどの物言いからして、あまり期待は出来ないだろう。

陽も傾いて
 『今日は時間も遅いし仕方ないさ。街で宿をとって、また明日に出直そう』
 「なんだか申し訳ないですぅ……」
ベリー・ベリーは気落ちした様子で目を伏せる。
 『落ち込むことはないさ、こうしてウィンターホールドに無事辿り付いたのだからね』
 「……また手を引いてもらわないとって思うと……」

そっちの事か、と私は思わず身体を滑らせた。


――――――

私達は街へと戻り、宿屋『フローズン・ハース』に入る。
宿は空いているか、と尋ねると、
 「一度で良いから満室だって言ってみたいもんだよ」
と、渋い表情で返されてしまった。

宿の一室を借りた私は鎧を脱ぐと、備え付けられたタンスを簡易テーブルにしてペンを握る。
その様子を、ベリー・ベリーは興味深く見つめていた。

宿にて恒例
 「おじさん、なにしてるんです?」
 『日記をつけているんだよ。旅の楽しみの一つとしてね』
へー……、と感心の呟きが聞こえる。
近くに来て覗きこむわけではないが、私の日記を見ようとしているかのように僅かに首を伸ばす。
別に見られて恥ずかしい等とは思わない。

 「すごいですねぇ。私、字が読めても、文字は書けないですからぁ」

昨晩と同様の流れを感じる。
喋れても読めない、書けない。
読めても書けない、喋れない。
よくある話と言えば、またよくある話なのだ。

 『早起きして疲れてないかい? 私に構わずベッドで休んでいいよ』
私の言葉を聞いて、ベリー・ベリーは自分の身体が疲れている事を思い出したようだ。
瞼が少し下り、そして大きな欠伸を一つ。
 「ごめんなさいですぅ……それじゃあお言葉に甘えてぇ……」
中腰で椅子から立つと、そのままベッドへと腰をおろす。

 「お先に……。おやすみなさい、おじさん」

眠気を交えた声で、小さく呟いた後。
ベリー・ベリーはすぐに寝息をたて、夢の中へと沈んでいったようだ。

僅かの間に夢の中

日記を書き終えた私は酒を片手に、静かに眠る少女をじっと見つめる。

私は、一つの興味を抱いた。


この邪念のない少女の親代わりをしていたと言う『先生』。
一体どのような人物なのだろうかと。




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